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勇者の国 編
レヴィという名前
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大蛇は舌をチロリと出し、レオとアテナを見下ろす。
水でできたその身体はとても巨大だ。
レオは剣を握り直す。
しかしその瞬間、視界が揺らぐ。
大蛇が尻尾でレオをはたいたのだ。
レオは腕で防御の姿勢をとるが、木に叩きつけられてしまった。
ドゴン、と大きな音がなり、砂埃が立ち込める。
「嘘でしょ!?」
アテナは冷や汗をかく。
すると、砂埃の中からレオ飛び出してきた。
「うおおおおお!!!」
木を利用して高く跳ぶ。
そして大蛇に狙いを定め、剣を振る。
が、彼の体ごとドプンと吸い込まれる。
「うぇ!?」
実態があると思った大蛇の身体は、ただの水のようにレオの攻撃をすり抜ける。
感覚が狂ったレオは危なげに着地した。
大蛇は威嚇し、彼に襲いかかる。
ギリギリで牙を避けた。
レヴィは冷徹な表情で人差し指を動かす。
それに合わせるように大蛇が尻尾でレオを殴ろうとする。
しかし今度は剣で迎え撃つ。
しばらく力は拮抗していたが、レオはずるずると後ろへ押される。
その時、レヴィのすぐ後ろにアテナが木刀を構えていた。
が、振り下ろそうとした瞬間、
「見えてるよ」
レヴィが水塊を放つ。
アテナは無防備な状態で受けてしまい、木にぶつかりそうになったが、間一髪でレオが間に合った。
「大丈夫か!?」
「アナタに心配されるほど弱くないわ」
「(めっちゃ大丈夫そうやな!)」
ムスッとした顔で答えるアテナを見て逆に安心する。
そしてレオは何かを彼女に耳打ちした。
「────え?」
「じゃあよろしくな~!」
「えぇ!?」
困惑するアテナをそのままに、レオは大蛇に向かって走り出した。
「もう!そんな事して何になるのよ!?────『幻想曲!」
桃色の蝶がヒラリと舞う。
一方レヴィは、向かってくるレオにため息をつく。
「何度やっても同じだよ」
レヴィは軽く指を動かす。それに大蛇が合わせる。
その瞬間、レオは黒剣を大蛇に向かって投げつけた️。
あの刃に斬られると危険だ、とレヴィの脳が信号を送る。
彼は剣を目で追う。
剣は空中で一瞬止まったあと、大蛇目掛けて落ちてきた。
彼は避けさせようと、指を動かす。
その時だった。
黒剣が桃色の蝶となってフワリと消える。
そして、レオが視界からいなくなっていることに気づいた。
「レヴィ!!!!!」
彼は声のする方へ振り返る。
そこには黒剣を大きく振りかぶるレオの姿があった。
レオの周囲には白炎が舞い、黒剣はその炎を強く纏う。
レオは、思いきりレヴィを斬った。
彼の目には、レオの鋭い青い目が映る。
────海、みたいだ……
すると大蛇がただの水となり、重力にしたがって崩れた。
レヴィは全身に力が入らなくなる。
そしてふらりと後ずさる。
しかし、運の悪いことにそこは崖。
後ずさる彼の足元が、崩れてしまった。
「え…」
身体がガクンと落ち始める。
視界が急に上を向く。
一瞬、時が止まったようだった。
彼の記憶が思い起こされる。
目の前で海へ落ちてゆく○○○。
手を伸ばせば届いたはずだったが、それをしなかった。
────僕が、見殺しにした
その時の○○○の姿が、今、自分にリンクする。
────天罰かな……
始め、助けを求めるように伸ばしていた手を、下ろす。
唯一信じて力を託してくれたあの人に報いることが出来なかった。
生きる理由がないことに気づいてしまった。
彼が目を閉じた、その瞬間。
「レヴィ!!危ない!!!」
レオがレヴィの手を取った。
身体がガクンと落ちるのをやめる。
「どうして……!」
すると、再び身体が落ち始めた。
「あ、待って、あかんあかん!」
レオの力では引き上げられなかったのだ。
2人は一緒に落ち始めようとした────
「「「「「レオ!レヴィ!」」」」」
しかし、アテナ、カレン、ハル、アキ、ユキが2人を引っ張る。
間に合ったのだ。
「「「「せーのっ!!!」」」」
いっせいに力を込め、2人を引き上げることに成功した。
全員ドサドサと、1番後方にいたアキに積み重なる。
彼は「うっ」と呻き声を上げる。
レオはレヴィを見て、「良かった…!」と笑う。
その笑顔を見たレヴィは、左手で目元を隠し、
「眩しすぎるよ……」
と呟いたあと、レオに向かって倒れた。
気絶してしまっていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
レヴィは過去を思い出していた。
「どうしてアンタはお兄ちゃんみたいに出来ないの!」
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
幼少期、母親に髪を掴まれ、怒鳴られることが毎日だった。
父親は見て見ぬふり。
周囲の大人たちは、
「お兄ちゃんは優秀なのにねぇ」
などと母親に言う。その度に母親の僕への当たりは強くなる。
村の子供同士で遊んでいる時も、
「え~○○と同じチームかよぉ」
「兄貴の方と一緒が良かった」
空気を読んで笑うものの、胸はズキズキと痛んだ。
どうして双子なのに、僕は兄みたいに出来ないのか。
毎晩布団の中で泣いた。
当の兄は、僕へ優しくしてくれた。
けど、母親を止めることも、友人を諌めることも、僕への言葉を否定してくれることも無かった。
ある日、兄と海を見に行った。
崖の下に広がる青い海は、とても美しかった。
その瞬間。
兄が足を滑らせてしまった。
落ちてゆく彼のそばに居たのは僕だった。
手を伸ばせば、きっと、届いた。
けど僕は、兄への嫉妬に襲われ、見ていることしか出来なかった────。
それからというもの、母親の僕への暴言・暴力は酷くなった。
「お前が死ぬべきだったのに」
聞き飽きてしまった言葉なのに、まだ胸を苦しめる。
それは多分、自分でもその通りだと思ってるから。
そんな毎日をあの人が変えてくれた。
「君が欲しいんだ」
僕は手を取った。
そしてこの力を与えられ、“レヴィアタン”という名を授けられ、『六罪』に加わることとなった。
それから僕は昔の名前を捨て、レヴィアタン…レヴィと名乗ることにした。
でも、どうだろう。
任務に失敗した今、また帰る場所を失ってしまった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
レヴィはゆっくり目を開ける。
白い天井が映る。
「目ェ覚めたァ?丸2日眠ったままだったぜ」
声の方を見ると、煙草を吹かせている女性がいた。
どうやらここは診療所のようだ。
次に目覚めた時は断罪される時だと考えていたのだが。
医者(っぽい)女性は顎でレヴィの下を指す。
そこには、レヴィのベッドに突っ伏すように眠るレオがいた。
「ソイツ、ずっとアンタの傍から離れねェんだよ」
「……」
レヴィはレオを見る。
すると、彼は悪夢をみているのかうなされている。
「…ここじゃたこ焼きが食べられへん…うう…」
レヴィは思わずクスリと笑った。
一体どんな夢を見ているのだろう。
レヴィは優しく微笑んで、
「ごめんね…ありがとう」
と呟いた。
その声に気づいたのか、レオが目を覚ました。
「あ、寝ちゃってたんか」
「……おはようレオくん」
「レヴィ!!目覚めたんか!良かったぁ!」
彼はニッと笑う。
あんなに傷つけたのに笑いかけてくる彼に対して、レヴィはどうすれば良いのかわからず曖昧な顔をした。
その時、診療所のドアが勢いよく開いた。
「あー!レヴィ起きてる!!」
アテナ、ハル、アキ、ユキが果物を持って見舞いに来たのだ。
彼らはレヴィを見て驚き、喜ぶ。
対照的にレヴィは困惑している。
「み、みんなどうして…。僕は君たちを騙してたのに」
彼らは顔を見合わす。
そして、笑いだした。
「いやー、ビックリはしたぜ?」
「でもレヴィがいた2週間は楽しかったし、」
「その間のアナタの優しさは嘘じゃなかった」
「友達として…心配するのは当然…」
「……!!」
レヴィは無言のまま涙をポロポロと流した。
全員焦る。
「な、泣かないでくれるかしら!アタシたちがいじめてるみたいじゃないの」
「レヴィ~泣かんといてぇ。俺まで泣きそうになるやん~」
「どうしてアナタも泣いてるのよ!?」
その時。ものすごい音を立てて扉が破壊された。
入ってきたのはリアンだった。
後ろからミラが息を荒くしている。
どうやら彼女を止めようとしたものの間に合わなかったらしい。
「みんなーーー!!!勝ち申した!!」
リアンは高々と1枚の紙を掲げる。
しかしその瞬間彼女はふらりと後ろに倒れる。
ミラは慌てて支える。
「病み上がりなんだからじっとしとけよ!!」
「ごめんってばぁ~」
「どーでもいいケド扉は弁償してくれよォ?」
「アンタも医者ならコイツを止めてください」
「おネーサンちょっと耳が遠くて…」
女医は煙草を吹きながら、耳を指してみせる。
ミラは苛立ったものの相手がリアンではないので「クソが」とも言えない。
すると、リアンがもう一度紙を掲げる。
「じゃーーん!!」
護衛班は全員「・・・・」と状況がよくわかっていない。
レヴィが小さく手を挙げ、
「えっと、それは何ですか…?」
と尋ねる。
リアンは口角を上げる。
「あのね、君が寝てる間、君の処罰をどうするかの緊急会議があったんだけど────
あの事件のあと、山へ駆けつけたケイトと護衛班は合流し、王城へ戻った。
レヴィを診療所へ運んだ後、会議は急遽開かれた。
戯言かと思われていた『六罪』の脅威が明確になったことで、役員は皆焦っていたのだ。
(団員は世界の機関である一方、役員は国の機関であり、団員と対立することもある。ちなみに貴族出身がほとんど)
会議には、王女、軍長、リアン、ケイト、護衛班の責任者としてカレン、事件の参考人としてレオとアテナ、そして国の役員が集められた。
「見せしめに公開処刑するべきでしょう!
『六罪』どもに国の力を見せつけるのです」
役員の半数以上がレヴィの処刑に賛成していた。
火種となりそうなものは即刻排除したいのが上の考えだ。
一方、白竜団はそうは考えていなかった。
役人の意見に、レオは立ち上がる。
「そんなんアカンに決まってるやろ!!」
「お前は黙っておれ!!」
「な!?」
アテナがレオの肩を叩いた。
「感情論じゃアイツらは動かないわ」と囁き、立ち上がる。
「発言をお許しください」
「ああ、許可する」
アテナの深々としたお辞儀に、王女が凛と応えた。
アテナは前を向く。
「彼はアタシたちと交戦した際、『あの人のために』と言っていました。彼を洗脳している人物がいる可能性があります」
「それは────
軍長がゆっくり口を開く。
────十分に有り得る話だね」
その反応に、アテナは手応えを感じる。
「すなわち、彼の公開処刑は妥当でないと思います」
彼女は言い放った。
しかし軍長は真剣な面持ちで、
「アテナ君…だったかな。なら君はどうすれば良いと考えているんだい?なんの処罰も無いとなれば、不公平と騒がれるのは目に見えている」
「そ、それは…」
アテナは返答に詰まった。
全くその通りだからだ。
すると、リアンとレオが勢いよく立ち上がった。
「「それならいい考えがある!」」
全員そちらに注目を集める。
2人はニッと口角を上げた。
「「遠征班に入ればいい!!!」」
会議がザワつく。
ケイトは2人を止められず途方に暮れ、手を額に当てる。
ただ王女と軍長だけが笑っている。
軍長は手を挙げた。
「発言をお許しください、王女様。実は私も同じことを言おうと思っておりました。処罰を労働とし、国のために働いて貰うべきかと」
会議がさらにザワついた。
軍長の言うことに、反論する者はいない。
唯一意見できるとしたら王女様だろう。
役員は彼女の方を見る。
彼女は金色の髪を揺らし、ゆっくりと口を開く。
注目が集まる。
「────私も賛成だ」
会議が途端に静まり返った。
もうこれで、反論するものは誰もいない。
「労働場所を遠征班とし、国にために働いてもらう。こちらとしても楽曲持ちを牢獄に留めておくのは惜しい」
役員らは、
「確かに王女様の言う通りか…」
「遠征班は死んでも入りたくないと言うやつもいるし、処罰としては適当かもしれん」
「白竜団団長なら何かあっても対応できるだろうしな」
と、口々に賛成し始める。
「皆の者、異論は無いな?
それでは、六罪のレヴィアタンに遠征班での無期限労働処罰を命じることとする」
「「やったあああああ!!!」」
レオとリアンは飛んでハイタッチした。
────ってことで、君は今日から遠征班の一員!」
「「「「ええええええ!?!?」」」」
レヴィ、ハル・アキ・ユキは驚く。
アテナは勝ち誇ったような顔をし、ミラはため息をつく。
レオはレヴィに笑いかける。
「これからよろしくなぁ!」
それを傍目で見ていた女医は、煙を弄びながら、
「若いねェ」と呟いた。
水でできたその身体はとても巨大だ。
レオは剣を握り直す。
しかしその瞬間、視界が揺らぐ。
大蛇が尻尾でレオをはたいたのだ。
レオは腕で防御の姿勢をとるが、木に叩きつけられてしまった。
ドゴン、と大きな音がなり、砂埃が立ち込める。
「嘘でしょ!?」
アテナは冷や汗をかく。
すると、砂埃の中からレオ飛び出してきた。
「うおおおおお!!!」
木を利用して高く跳ぶ。
そして大蛇に狙いを定め、剣を振る。
が、彼の体ごとドプンと吸い込まれる。
「うぇ!?」
実態があると思った大蛇の身体は、ただの水のようにレオの攻撃をすり抜ける。
感覚が狂ったレオは危なげに着地した。
大蛇は威嚇し、彼に襲いかかる。
ギリギリで牙を避けた。
レヴィは冷徹な表情で人差し指を動かす。
それに合わせるように大蛇が尻尾でレオを殴ろうとする。
しかし今度は剣で迎え撃つ。
しばらく力は拮抗していたが、レオはずるずると後ろへ押される。
その時、レヴィのすぐ後ろにアテナが木刀を構えていた。
が、振り下ろそうとした瞬間、
「見えてるよ」
レヴィが水塊を放つ。
アテナは無防備な状態で受けてしまい、木にぶつかりそうになったが、間一髪でレオが間に合った。
「大丈夫か!?」
「アナタに心配されるほど弱くないわ」
「(めっちゃ大丈夫そうやな!)」
ムスッとした顔で答えるアテナを見て逆に安心する。
そしてレオは何かを彼女に耳打ちした。
「────え?」
「じゃあよろしくな~!」
「えぇ!?」
困惑するアテナをそのままに、レオは大蛇に向かって走り出した。
「もう!そんな事して何になるのよ!?────『幻想曲!」
桃色の蝶がヒラリと舞う。
一方レヴィは、向かってくるレオにため息をつく。
「何度やっても同じだよ」
レヴィは軽く指を動かす。それに大蛇が合わせる。
その瞬間、レオは黒剣を大蛇に向かって投げつけた️。
あの刃に斬られると危険だ、とレヴィの脳が信号を送る。
彼は剣を目で追う。
剣は空中で一瞬止まったあと、大蛇目掛けて落ちてきた。
彼は避けさせようと、指を動かす。
その時だった。
黒剣が桃色の蝶となってフワリと消える。
そして、レオが視界からいなくなっていることに気づいた。
「レヴィ!!!!!」
彼は声のする方へ振り返る。
そこには黒剣を大きく振りかぶるレオの姿があった。
レオの周囲には白炎が舞い、黒剣はその炎を強く纏う。
レオは、思いきりレヴィを斬った。
彼の目には、レオの鋭い青い目が映る。
────海、みたいだ……
すると大蛇がただの水となり、重力にしたがって崩れた。
レヴィは全身に力が入らなくなる。
そしてふらりと後ずさる。
しかし、運の悪いことにそこは崖。
後ずさる彼の足元が、崩れてしまった。
「え…」
身体がガクンと落ち始める。
視界が急に上を向く。
一瞬、時が止まったようだった。
彼の記憶が思い起こされる。
目の前で海へ落ちてゆく○○○。
手を伸ばせば届いたはずだったが、それをしなかった。
────僕が、見殺しにした
その時の○○○の姿が、今、自分にリンクする。
────天罰かな……
始め、助けを求めるように伸ばしていた手を、下ろす。
唯一信じて力を託してくれたあの人に報いることが出来なかった。
生きる理由がないことに気づいてしまった。
彼が目を閉じた、その瞬間。
「レヴィ!!危ない!!!」
レオがレヴィの手を取った。
身体がガクンと落ちるのをやめる。
「どうして……!」
すると、再び身体が落ち始めた。
「あ、待って、あかんあかん!」
レオの力では引き上げられなかったのだ。
2人は一緒に落ち始めようとした────
「「「「「レオ!レヴィ!」」」」」
しかし、アテナ、カレン、ハル、アキ、ユキが2人を引っ張る。
間に合ったのだ。
「「「「せーのっ!!!」」」」
いっせいに力を込め、2人を引き上げることに成功した。
全員ドサドサと、1番後方にいたアキに積み重なる。
彼は「うっ」と呻き声を上げる。
レオはレヴィを見て、「良かった…!」と笑う。
その笑顔を見たレヴィは、左手で目元を隠し、
「眩しすぎるよ……」
と呟いたあと、レオに向かって倒れた。
気絶してしまっていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
レヴィは過去を思い出していた。
「どうしてアンタはお兄ちゃんみたいに出来ないの!」
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
幼少期、母親に髪を掴まれ、怒鳴られることが毎日だった。
父親は見て見ぬふり。
周囲の大人たちは、
「お兄ちゃんは優秀なのにねぇ」
などと母親に言う。その度に母親の僕への当たりは強くなる。
村の子供同士で遊んでいる時も、
「え~○○と同じチームかよぉ」
「兄貴の方と一緒が良かった」
空気を読んで笑うものの、胸はズキズキと痛んだ。
どうして双子なのに、僕は兄みたいに出来ないのか。
毎晩布団の中で泣いた。
当の兄は、僕へ優しくしてくれた。
けど、母親を止めることも、友人を諌めることも、僕への言葉を否定してくれることも無かった。
ある日、兄と海を見に行った。
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その瞬間。
兄が足を滑らせてしまった。
落ちてゆく彼のそばに居たのは僕だった。
手を伸ばせば、きっと、届いた。
けど僕は、兄への嫉妬に襲われ、見ていることしか出来なかった────。
それからというもの、母親の僕への暴言・暴力は酷くなった。
「お前が死ぬべきだったのに」
聞き飽きてしまった言葉なのに、まだ胸を苦しめる。
それは多分、自分でもその通りだと思ってるから。
そんな毎日をあの人が変えてくれた。
「君が欲しいんだ」
僕は手を取った。
そしてこの力を与えられ、“レヴィアタン”という名を授けられ、『六罪』に加わることとなった。
それから僕は昔の名前を捨て、レヴィアタン…レヴィと名乗ることにした。
でも、どうだろう。
任務に失敗した今、また帰る場所を失ってしまった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
レヴィはゆっくり目を開ける。
白い天井が映る。
「目ェ覚めたァ?丸2日眠ったままだったぜ」
声の方を見ると、煙草を吹かせている女性がいた。
どうやらここは診療所のようだ。
次に目覚めた時は断罪される時だと考えていたのだが。
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そこには、レヴィのベッドに突っ伏すように眠るレオがいた。
「ソイツ、ずっとアンタの傍から離れねェんだよ」
「……」
レヴィはレオを見る。
すると、彼は悪夢をみているのかうなされている。
「…ここじゃたこ焼きが食べられへん…うう…」
レヴィは思わずクスリと笑った。
一体どんな夢を見ているのだろう。
レヴィは優しく微笑んで、
「ごめんね…ありがとう」
と呟いた。
その声に気づいたのか、レオが目を覚ました。
「あ、寝ちゃってたんか」
「……おはようレオくん」
「レヴィ!!目覚めたんか!良かったぁ!」
彼はニッと笑う。
あんなに傷つけたのに笑いかけてくる彼に対して、レヴィはどうすれば良いのかわからず曖昧な顔をした。
その時、診療所のドアが勢いよく開いた。
「あー!レヴィ起きてる!!」
アテナ、ハル、アキ、ユキが果物を持って見舞いに来たのだ。
彼らはレヴィを見て驚き、喜ぶ。
対照的にレヴィは困惑している。
「み、みんなどうして…。僕は君たちを騙してたのに」
彼らは顔を見合わす。
そして、笑いだした。
「いやー、ビックリはしたぜ?」
「でもレヴィがいた2週間は楽しかったし、」
「その間のアナタの優しさは嘘じゃなかった」
「友達として…心配するのは当然…」
「……!!」
レヴィは無言のまま涙をポロポロと流した。
全員焦る。
「な、泣かないでくれるかしら!アタシたちがいじめてるみたいじゃないの」
「レヴィ~泣かんといてぇ。俺まで泣きそうになるやん~」
「どうしてアナタも泣いてるのよ!?」
その時。ものすごい音を立てて扉が破壊された。
入ってきたのはリアンだった。
後ろからミラが息を荒くしている。
どうやら彼女を止めようとしたものの間に合わなかったらしい。
「みんなーーー!!!勝ち申した!!」
リアンは高々と1枚の紙を掲げる。
しかしその瞬間彼女はふらりと後ろに倒れる。
ミラは慌てて支える。
「病み上がりなんだからじっとしとけよ!!」
「ごめんってばぁ~」
「どーでもいいケド扉は弁償してくれよォ?」
「アンタも医者ならコイツを止めてください」
「おネーサンちょっと耳が遠くて…」
女医は煙草を吹きながら、耳を指してみせる。
ミラは苛立ったものの相手がリアンではないので「クソが」とも言えない。
すると、リアンがもう一度紙を掲げる。
「じゃーーん!!」
護衛班は全員「・・・・」と状況がよくわかっていない。
レヴィが小さく手を挙げ、
「えっと、それは何ですか…?」
と尋ねる。
リアンは口角を上げる。
「あのね、君が寝てる間、君の処罰をどうするかの緊急会議があったんだけど────
あの事件のあと、山へ駆けつけたケイトと護衛班は合流し、王城へ戻った。
レヴィを診療所へ運んだ後、会議は急遽開かれた。
戯言かと思われていた『六罪』の脅威が明確になったことで、役員は皆焦っていたのだ。
(団員は世界の機関である一方、役員は国の機関であり、団員と対立することもある。ちなみに貴族出身がほとんど)
会議には、王女、軍長、リアン、ケイト、護衛班の責任者としてカレン、事件の参考人としてレオとアテナ、そして国の役員が集められた。
「見せしめに公開処刑するべきでしょう!
『六罪』どもに国の力を見せつけるのです」
役員の半数以上がレヴィの処刑に賛成していた。
火種となりそうなものは即刻排除したいのが上の考えだ。
一方、白竜団はそうは考えていなかった。
役人の意見に、レオは立ち上がる。
「そんなんアカンに決まってるやろ!!」
「お前は黙っておれ!!」
「な!?」
アテナがレオの肩を叩いた。
「感情論じゃアイツらは動かないわ」と囁き、立ち上がる。
「発言をお許しください」
「ああ、許可する」
アテナの深々としたお辞儀に、王女が凛と応えた。
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「彼はアタシたちと交戦した際、『あの人のために』と言っていました。彼を洗脳している人物がいる可能性があります」
「それは────
軍長がゆっくり口を開く。
────十分に有り得る話だね」
その反応に、アテナは手応えを感じる。
「すなわち、彼の公開処刑は妥当でないと思います」
彼女は言い放った。
しかし軍長は真剣な面持ちで、
「アテナ君…だったかな。なら君はどうすれば良いと考えているんだい?なんの処罰も無いとなれば、不公平と騒がれるのは目に見えている」
「そ、それは…」
アテナは返答に詰まった。
全くその通りだからだ。
すると、リアンとレオが勢いよく立ち上がった。
「「それならいい考えがある!」」
全員そちらに注目を集める。
2人はニッと口角を上げた。
「「遠征班に入ればいい!!!」」
会議がザワつく。
ケイトは2人を止められず途方に暮れ、手を額に当てる。
ただ王女と軍長だけが笑っている。
軍長は手を挙げた。
「発言をお許しください、王女様。実は私も同じことを言おうと思っておりました。処罰を労働とし、国のために働いて貰うべきかと」
会議がさらにザワついた。
軍長の言うことに、反論する者はいない。
唯一意見できるとしたら王女様だろう。
役員は彼女の方を見る。
彼女は金色の髪を揺らし、ゆっくりと口を開く。
注目が集まる。
「────私も賛成だ」
会議が途端に静まり返った。
もうこれで、反論するものは誰もいない。
「労働場所を遠征班とし、国にために働いてもらう。こちらとしても楽曲持ちを牢獄に留めておくのは惜しい」
役員らは、
「確かに王女様の言う通りか…」
「遠征班は死んでも入りたくないと言うやつもいるし、処罰としては適当かもしれん」
「白竜団団長なら何かあっても対応できるだろうしな」
と、口々に賛成し始める。
「皆の者、異論は無いな?
それでは、六罪のレヴィアタンに遠征班での無期限労働処罰を命じることとする」
「「やったあああああ!!!」」
レオとリアンは飛んでハイタッチした。
────ってことで、君は今日から遠征班の一員!」
「「「「ええええええ!?!?」」」」
レヴィ、ハル・アキ・ユキは驚く。
アテナは勝ち誇ったような顔をし、ミラはため息をつく。
レオはレヴィに笑いかける。
「これからよろしくなぁ!」
それを傍目で見ていた女医は、煙を弄びながら、
「若いねェ」と呟いた。
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「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉
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10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
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俺、空田広志(そらたひろし)23歳。
何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。
何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。
それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。
そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。
見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。
「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」
にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。
「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。
「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。
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