京都式神様のおでん屋さん 弐

西門 檀

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第1章 ひろうすの初夏

3話ー3

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 猫の姿は身軽だ。
 軽やかに走り、時にはジャンプして高いところにも上れる。
 しかし、そもそも猫は長距離走には向いていないのだ。
 途中で、人間と同じように息切れもする。
 
(それにしても、木陰……どこにいるにゃ?)
 京都の道は碁盤の目のようになっているのは、誰もが知る有名な話だ。
 いつも木陰は、錦小路通へ行く際に六角通を使う事が多い。
 私は、店から新町通に出て、南へと下ってすぐの六角通へと左へと入った。
 その途端、誰かとぶつかる!!
「フギャッ!」
「おや? セイメイ様どうしたんですか?」
「こ、木陰!!! お前、何処もなんともないのかにゃ!?」
 木陰は私を抱き上げると、涼しげな顔で言う。
「どこもなんともないですよ」
「ホントかにゃ?」
「大丈夫です」
 いや、木陰の大丈夫ほどアテにならない気がする……
「智子が来て、お前がふらついていたと言ったにゃ」
「あぁ……」
 な、なんだ?
 何を濁してる?
 私は、木陰が何か隠している、そう感じた。

 木陰と『結』に戻ってくると、日向がすぐに木陰の下にかけつけた。
「ふらついたって聞いたよ? 大丈夫なの? どこも何ともない?」
 ぺたぺたと木陰を触りまくる日向。
 木陰は店内を見渡すと、私をおろしてカウンター内へと入る。
「ねぇ、木陰。大丈夫なの!?」
 おいおい、心配している日向に対してちょっとひどいんじゃないか?
 そう思っていると、木陰が日向に「心配ない」と小さな声で言った。

「ところで、智子は帰ったのか?」
「うん。お父さんから電話が入ってね」
 何だか、今回の玉の悩みも解消しそうにないし、智子は日向を諦めそうにないし、木陰の火種は消えていなかったみたいだ。
 こういうことってあるもんだ。
 何も解決しないまま、一つしかなかった火種がいつの間にか二つに増え、二つだった火種はまた三つに増えて……この火種が集まって大きく燃え上がらないことを祈るほかない。
 
 
  日向と木陰の火種は再発火?
 私が少女になった火種は先日、鎮火した。
 智子を心配する母の想いの火種は未だ燃えている。
 新たな火種は――木陰の体調不良?

 ああ、いやだいやだ。
 猫の小さな脳ミソでいくつも悩み事を抱えるのは不向きだ。
「日向、お前たちの火種はお前たちで解決してくれ」
「え? セイメイ様?」
 私はひとまず玉の智子の母親の様子を伺いに、二階へと駆け上がった。

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