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第1章 ひろうすの初夏
3話ー2
しおりを挟むだけど、その日から数日経ったが、毎日木陰が錦市場へと仕入れに出向いている。
「今朝は、僕が行くよ」と日向が言っても、木陰は自分の方が話が早いからと日向に断りを入れていることもしばしば。今朝などは、私と日向が起きたらもう木陰はいなかった。
それと、智子も来なくなったな。
木陰が仕入れに行くから、智子が『結』に来る理由がなくなったからだろう。
智子の母親の玉は、何気にまだここに居て、私は猫のセイメイへと戻った。
何も解決していないのに、猫に戻るとは不思議なことだ。
「ねえ、セイメイ様……僕、大学へ行かない方が良かったのかな?」
私を膝に乗せ、階段に座る日向が、そうごちる。
「そんなことはないぞ」
「だって、木陰がぜんぜん頼ってくれなくなった……こんなこと今までなかったのに」
確かに、日向の言う通りだ.
木陰の火種は消えてはいないのかもしれん。
「……大学は誰かのために行くものではないと思うぞ。日向、お前は学びたかったのであろう? それならちゃんと行って、卒業するんだ」
「うん、それはわかってるんだけど……もしかして、木陰も行きたかったのかなぁと思って」
「うーむ。なら、日向が卒業してから行けばいいと思うが」
あの木陰だ。自分も行きたいのなら『行きたい』と言うだろう。
その時、ガタッゴトッと二階から瓢箪が転げ落ちてきた。
と同時に、入り口がガラッと開く――
引き戸から顔を覗かせたのは、豆腐屋の智子だった。
「あれ? 智子さん。どうしたの?」
「日向さん……!」
あわや、落ちてきた瓢箪は私が咥えてキャッチ!
玉はやはり生きている身内に引き寄せられるのだ。
「木陰さん、いてはる?」
「ううん、まだ戻ってないんだ。何か用事?」
「……木陰さん、毎日お父ちゃんにひろうすを習ってはって……今朝も来てはったんやけどな、途中めまいでふらついてはったから、心配になってもうて……」
「え!? 木陰が!?」
智子からの報告に、私も日向も少し前に木陰が消えそうになっていたことを思い出した。
私が猫に戻ったのだ。木陰の具合いが悪いはずはない!
だけど、万が一具合が悪いのだとしたら……!
「にゃにゃにゃっ! にゃーぁにゃや! (日向! 私は木陰を探しに行くぞ!)」
咥えた瓢箪を階段に置くと、私はスルリと智子の足元を抜け、外に出た。
「あ! セイメイ様!」
「いややわ! 私が戸を閉めへんかったから……! セイメイー! 戻っておいで!」
智子と日向の声が、だんだんと遠くなる。
ここから智子が来た道だと、木陰はいなかったということか。
ならば、一体今どこにいるのか――
どこぞで、バラバラの木材になってたりしないでくれ――!
「どうか、どうか無事でいてくれ!」
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