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第1章 ひろうすの初夏
2話ー2
しおりを挟むいつもは二階の式神たちの部屋で行うのだけれど、今回はどうしたのか珍しく一階で、木陰たちは玉の話を聞くという。
店舗の照明を落とし、奥座敷には蠟燭を灯して何ともいい雰囲気だ。
智子の母親がいつ頃亡くなったのかも、私たちは知らん。
それはこれから聞くとして、よほどの事情があるに違いないと日向も木陰も思っているようだった。
支度が整ったのか、日向が木陰に目で合図する。
すると、木陰が瓢箪の栓を抜いて玉へと話しかけた。
「智子さんから勝手に引き離してしまって、申し訳ありません。あなたのお話を聞かせてもらえませんか?」
すると、以外にもすぐに、玉はスッと瓢箪の中から出てきた。
今、様子を伺うように、私や日向や木陰の周りを浮遊している。
「智子さんのお母さん、いつも僕たちは智子さんに良くしてもらっています」
と、日向が声をかけると、玉が日向の目の前に降りてきて、人の形になった。
「あなたが、日向さんやね?」
「はい。僕が日向です」
人の形になった玉の光源は、生前の姿へと変わっていく。
私たちの目の前に現れた女性は、三十代くらいの若い女性だった。
「あなたたち、人ではないんでしょう?」
そう言った、女性の目はかなり訝し気だ。
「そうだ。私は元人ではあるが、この日向と木陰は私が大昔に作り出した式神だ」
「元は人ってどういうこと? 式神って何?」
「やれやれ。そこから話さねばならないのか」とぼやくと、木陰が言う。
「こちら側の事を知ってもらってからの方がいいでしょう」
それから私たちは、智子の母親に親切丁寧に、今までのいきさつを話して聞かせた。
あとで、木陰が教えてくれたが、玉との信頼関係を構築することも、成仏させるには大切なんだとか。
三時間後。
なんせ、平安時代から現代までのいきさつを話して聞かせたのだ。
よく三時間でまとめられたものだと、話し終わって感心していたのだが、当の聞いていた玉は理解したようなしていないような反応をみせた。
こちらが話している間も玉の姿に戻り、ふよふよと浮遊していたのだから。
「ところで、智子さんのお母さん。お名前はなんというんですか?」
日向がにこにこしながら聞く。
すると、玉が日向の目の前に再び姿を現す。
人の姿になった智子の母は、日向の顔をまじまじと見て一言言った。
「……今後、智子に優しくしないって約束してくれへん?」
「え? そんなことできません!」
「じゃあ、私もこれ以上は話さへん」
「えー!? どうしてですかぁ! お母さん、僕が何か智子さんにしましたか?」
「……約束できはれへんのやったら、もう私は帰らせてもらう」
「そんなぁ……木陰ぇ……どうしよう」
何だか、よくわからん問答が繰り広げられている。
まあ、智子の母親の心配していることは何となくわかるが、それは日向が気を付けたとてムリではないか?
だって、智子が日向を好いているのだから。
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