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第1章
俺がお前を、守ってやる。
しおりを挟む「私も…。」
「あ?」
「私も、騎士になってみたかった。自分の身は自分で守れるような…そんな騎士に、なってみたかった。」
座り込んでいた副隊長の手を引っ張り立ち上がらせるオスカーを見ながら、叶いもしない願望を口にする私。そんな私に同情したのか、エイダンは慰めるかのように私の頭の上へと手を置いた。
「自分で自分を守る必要はねえよ。…俺がお前を守ってやるから。」
「え…。」
隣に立つエイダンへと視線を向けるも、エイダンの視線は、相変わらずオスカーへと向けられていた。
俺がお前を守ってやる。
エイダンは今、確かにそう言った。それはつまり「私に王妃になれと言っている…?」そういうことだろうか。
的はずれなことを言ってしまったのか、エイダンの視線が物凄い速さでオスカーから私へと向けられる。困惑した様子のエイダン。その顔には『何でそうなった?』と書かれている。
何で…と言われても。騎士とは、王族に忠誠を誓うものだ。そして、騎士になろうとしているエイダンが、私に対して『守ってやる』と言った。それはつまり、自身が今後、忠誠を誓う予定の王族になれ。そういうことだと思ったのだけれど…、どうやら違ったようだ。
エイダンまで私に王妃になれと言うのかと思った私は、違うと分かって、安堵する。一方のエイダンは、はあ…と溜め息をつくと、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
スザンヌが結ってくれた折角の髪型が台無しだ。なんてことをしてくれる。
「あのなあ…、お前は俺の義妹だろ。兄には、妹を守る義務があるんだよ。」
「そんな義務、聞いたこともない。」
「お前が知らないだけで、あるんだよ。だから、王族になる必要はねえ。つか、なるな。お前があの性悪王太子の嫁とか、考えたくもねえ。」
「不敬では…。」
「うるせぇ。とにかく、お前は黙って兄貴から守られてろ。いいな?」
「…。」
ふと、考える。私に『守る』と言ってくれた人間が、過去に1人でも居ただろうかと。
まだ10年と短い人生しか歩んで来ていないけれど、私の人生はそれなりに壮絶だ。お母様は6歳のときに亡くなり、妹からは『ずっと大嫌いだった』と言われ、お父様からは、高いお金と引き換えに変態伯爵へと売られた。
その変態伯爵は、私を違った意味で可愛がり、大事にした。
オスカーに助けられ、ウィンストン家に来てからは比較的に穏やかな日常が送れているけれど、私に対して『守ってやる』と言ったのは、思い返してもエイダンが初めてだった。
私は、初めて掛けられた言葉に、なんと返すのが正解なのか分からなかった。
いいな?と聞かれたのだから『分かった』とたった一言を返せばいいだけだったのだけれど、このときの私は何を思ったのか。
「…頑張って。」
…と、脈絡のない返しをしてしまった。
少し遅れて、自身がとんでもなく上から目線の物言いをしてしまったことに気がついた私は、別の言葉に言い換えようと、新たな言葉を探す。
しかし、そんな言葉を待たずして、エイダンは「おー。見てろ?」と呆れたように笑って言ったのだった。
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