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第1章

消えた温かい存在。

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 「涙は止まった?アイヴィ。」

 「うん…。」

 「そう。じゃあ、昼食を食べに行きましょうか。あの人と、エヴィがお腹を空かせて待っている筈よ。」


お母様に手を引かれて、ダイニングルームへと向かう。


閉ざされた扉。この中で、お父様とエヴィが待っているらしい。


本音を言えば、夢の中であっても、私のことを捨てた人達なんかと会いたくはなかった。けれど、お母様が居た頃の私達は、確かに1つの“家族”だった。


ガラにもないことに、幸せだったあの時間を一瞬でも取り戻せるなら…と、夢に縋りつきたくなったのだ。


ギィ…と軋む音を鳴らして、開く扉。


私は、夢の中だということもあり、都合よく考えていた。お父様とエヴィが、私達が来るのを待ってくれていると、信じて疑わなかったのだ。


そして、想像をしていた光景とは違う、目の前の光景それを見たとき、私は思った。


ああ、これは幸せな夢に見せかけた“悪夢”だと――。


 「あら、アイヴィ。貴方の料理ぶんは、此処には用意してないわよ?」

 「どうして……。」


どうして此処に、サンドラが居るのだろうか。


我が物顔でお母様の席に座って食事をするサンドラに、お父様もエヴィも何も言わない。それどころか、楽しく会話なんてしている。


目の前にお母様が居るというのに、何故、サンドラなんかに笑い掛けているのか。何故、お母様の方を振り向かないのか。何故、お母様をまるで居ない者のように扱うのか。


ふざけた彼等の態度に、はらわたが煮えくり返る程の怒りを覚える。


今にも爆発しそうな“怒り”という感情を抑えるべく、お母様と繋いでいた手に力を入れる。


 「ねえ、アイヴィ。」


名前を呼ばれた私は、隣に立つお母様を見た。お母様は寂しげな笑みを浮かべると、私に『ごめんね』と謝った。


何故、お母様が私に謝るのだろうか。そもそも何に対しての謝罪なのだろうか。私には、分からない。


 「アイヴィ。私の大切な宝物。」


お母様は私に目線を合わせると、そっ…と額に唇を落とした。そして、額から唇が離れた瞬間。温かった存在をが、ゆらゆらと儚く消えていく。


 「お母様…!」


私は、急いで手を伸ばしたけれけれど、その存在を掴むことは出来なかった。


周りをキョロキョロと見渡してみたけれど、お母様は何処にも居ない。何度も『お母様』と呼んでみたけれど、返事をしてくれる気配すらなかった。


じんわりと残っていた手の温かさが次第に消えていく。

 
 「待って…。」


待って、お母様。行かないで。私を1人にしないで。お願いだから、二度も私の前から居なくならないで。


何処?何処に居るの?









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