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第1章

倒れるアイヴィ。

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 その日はなんだか、朝から気だるかった。


けれど、体調を崩すことなど滅多になかった私は、ボーッとするのは寝起きだからだと、寒いと感じるのは雨だからだと勝手に思い込んでいた。


 「スザンヌ。」

 「はい。何でしょうか、お嬢様。」

 「このドレス、重い。」

 「え?」


どうしてこのドレスはこんなにも重たいのだろうか。普段着ているドレスとデザインはそう変わらないのに、重さだけが全然違う。


あまりの重たさに、つい猫背になってしまう私。


ダイニングルームへ入る前に一度背筋を伸ばすけれど、すぐさまへにょりと曲がってしまった。



 「アイヴィ。どうした?食事が進んでないようだが…。」

 「申し訳ありません。」


さっきから然程食事が進んでいない私が気になったのか、公爵様は私に『今日の料理は、美味しくないか?』と聞いた。決してそんなことはないと、首を横に振る。


公爵家で出る料理は、いつだって美味しい。それなのに、何故だろう。朝だから空腹の筈なのに、全く食欲がわかないのだ。


無理に胃に流し込むことも出来るけれど、そんなことをしてしまえば吐き出してしまう気がした。


私は持っていたスプーンをテーブルに置き、食事の終わりを告げる。朝食の殆どを残した私に、使用人を含むこの場に居た全員が心配そうな表情を浮かべた。


 「アイヴィ。具合でも悪いの?」

 「いえ。大丈夫です。」


でもやっぱり食欲はないので、朝食はもう要りません。


自分の部屋へ戻ろうと、椅子から立ち上がったその瞬間。グラリと視界が大きく歪む。


足のバランス感覚を失った私は立っていられず、ばたりとその場に倒れ込んだ。


その際、思い切りテーブルに頭をぶつけたようで、くらくらと脳が揺れる感じがした。


 「アイヴィ…!!」


悲鳴にも似たような声で名前を呼ばれる。


あれ、何でだろう。とても息苦しい。


ハァハァ、と息を上げる私の元に、公爵様が駆け寄ってくる。そしてそのまま私を抱き上げると、その大きな手で私の額を覆った。


 「凄い熱じゃないか…!」


熱?そうか、私は今、熱がある状態なのか。


だから、体が重いのだ。ボーッとするのも、寒いと感じるのも全部、熱のせいだったのか。


意識が朦朧とする中で、いつもとは違う体の不調に納得する。


ああ、頭が痛い。さっき、思い切りぶつけたからだろうか。それともこれも熱のせいなのだろうか。


 「アイヴィ、しっかりしろ!今すぐ医者を呼んでやるからな…!…アイヴィ?アイヴィ!」


私の名前を何度も呼ぶ公爵様の声が、どんどんと遠ざかって行く。返事をしたいのに、口が動かない。


体が思うように動くような状態ではないことを察した私は、『無視をしているわけではないです』と心の中で呟いてから、起きていることを諦めた。


ぷつり。そんな音と共に意識が途絶える。










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