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第1章
皆様にご紹介。
しおりを挟む「なんか目立っちゃってるね。」
「主にヒューゴ達のせいだと思うけど。」
「そんなことないよ。アイヴィだって目立ってる。」
「私?」
「うん。凄く可愛いもん。此処に居る誰よりも。」
「…。」
スザンナといい、ヒューゴといい、一々大袈裟なのだ。
お世辞だということは分かっているけれど、よく義妹に向かって、『此処に居る誰よりも可愛い』だなんて甘ったるいことが言えるなと思う。私だったら恥ずかしくて、そんなこと言えない。
「最初の頃に比べると、上手に踊れるようになったね。アイヴィ。」
「お陰様で。」
ダンスの経験なんてなかった私が、2週間でここまで踊れるようになったのは偏に、基礎を教えてくれた奥様と、ぎこちないダンスに付き合ってくれたヒューゴとカーシーのおかげだ。
「…ありがとう。」
そう言えば、まだお礼の1つも言っていなかったと気づいた私は、今更ながらに礼を述べた。
一瞬、驚いた表情を浮かべたヒューゴだったけれど、やがて、いつもの優しい笑顔に戻る。
「どういたしまして。いつでも付き合うから、遠慮なく言ってね。」
「…うん。」
曲と共に話に区切りがついた私達は、どちらともなく体を離した。
誰とも踊ろうとしなかったウィンストン公爵家の子息が立て続けに踊った令嬢として、一気に注目の的となる私。
私はさっき、ただの義妹だと弁明したつもりだったが、あれは心の声だったか。当然、私の心の声が読める人など居る筈もなく、周りは再び、私のことを誰かの婚約者なのではないかと話し始めた。
これはいい機会だと思ったヒューゴが、私のことを紹介する。
「彼女は、アイヴィ・ウィンストン。血は繋がっていませんが、ウィンストン家にとって、大事な家族であり、僕にとっては大事な義妹です。皆さんには、以後お見知りおきを戴きたく存じます。」
私に向けられる反応は様々だった。
お世辞にも『可愛らしい』と褒めてくれる人も居れば、私の方がお似合いだと、ただの義妹である私に張り合う人も居た。ダンスを踊った相手が義妹だと知って安堵する人も居れば、それを知っても尚、嫉妬の目を向けてくる人もいた。
義妹を相手に何故嫉妬をする必要があるのか、とは思ったけれど、結局この日、ヒューゴは『非公式な場だしね』と言って。エイダンは『ダンスは好きじゃない』と言って。カーシーは『お義姉ちゃんと踊れたから満足した』と言って、私以外の誰とも踊ろうとしなかった。
これでは嫉妬をされても文句は言えない気がする。
そんな私の元にも、ウィンストン公爵家との繋がりが欲しいのか、色々な所の令息からダンスの申し入れがあった。
私はそれを受け入れようとするも、エイダンからストップがかかる。
何故止めるのだと、怪訝な顔をする私に、エイダンが『足を踏む気か』と言う。
実際に足を踏んでしまった彼に言われては、何も言えない。
仕方がない。ウィンストン公爵家の養女として顔を覚えてもらうという目的は果たしたし、今日はもう大人しくしておこうと、踊ることは諦める。
――そして、きらびやかな時間は、音楽と共に終わりを告げる。
ゴーン…ゴーン…と王宮内に響き渡る大きな鐘の音。
どうやら、パーティーはこれにてお開きのようだ。
「俺達も帰ろうか。」
「やっと終わったか。」
「疲れたねー。」
大したことなんて何もしていないのに、なんだかとても疲れた。体が重たいのは、疲れから来るのもなのか。はたまた単純にドレスが重たいだけなのか。
帰りの馬車内。私はつい、こくりこくりと舟を漕いでしまう。馬車のガタガタとした揺れが心地良いのだ。
眠たそうな私見て、ヒューゴが『寝てていいよ』と言ってくれる。私はその言葉に頷くと、そっ…と瞼を閉じた。
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