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第1章

忘れてしまった笑い方。

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 「それにしても、君の義兄弟きょうだい達は凄い人気だね。王太子である俺を差し置いて、ご令嬢達に囲まれているよ。」

 「家柄も見た目も良いですから。彼等は。」

 「何それ、俺は違うってこと?」

 「アリソン殿下は、性格に難があるように思えます。」

 「言うね…君。」


散々私を馬鹿にしたのだ。この程度の意趣返しぐらい許してくれなきゃ困る。


 「君だって見た目は可愛らしいけれど、鉄仮面じゃないか。」

 「鉄仮面…。」

 「全然笑わないし、この俺と話してるっていうのに頬を染めたりもしない。顔の変化と言えば、眉をひそめるぐらい?ほら、鉄仮面じゃん。」

 「私だって、笑います。」

 「じゃあ最近笑った出来事教えてよ。」


最近笑った出来事…?そんなものあっただろうか。


暫く考えてみるも、コレと言ったものが思い浮かばなかった私。よくよく考えてみれば、最近まで笑えるような日々を送っていなかった。


お母様が生きていた頃は毎日のように笑っていたような気もするけれど、月日というものは残酷で、経てば経つ程、私から大事な記憶を奪っていくのだ。正直なところ、もう薄れすぎてしまって、何故笑っていたのかも、よく覚えていない。


 「悲しかった出来事ならあります。」

 「何で笑った出来事から悲しかった出来事へと話題が変換されてるわけ?俺が聞いたのは、笑った出来事だったんだけど。」

 「すみません。ないと気付きました。」


そもそも人って、どうやって笑うのだろうか。何をすれば笑えるのだろうか。


 「…そういえば君、エルズバーグ伯爵のところに居たんだっけ?そりゃ笑えないよね。」

 「お察しの通りです。」


幸せとは程遠い生活をしていた私の心に、笑顔になれるような明るい感情が芽生える筈もなかった。辛い毎日だったけれど、“辛い”だなんて思うと尚の事辛く感じたから、その感情すらをも押し殺していた。


その影響か、私は感情を表に出すどころか、自身の感情を察知することすら苦手らしい。


これでは、鉄仮面と言われても仕方がない気がする。


 「いつか鉄仮面の君が笑っている姿を見てみたいものだね。」

 「どうですか。笑えてますか。」

 「全然。」


口角を上げることぐらいならば私にも出来ると思って試してみたけれど、『むしろ不気味』とまで言われる始末だ。やはり笑うには、“嬉しい”とか“幸せ”とか、そういう感情が伴わないと無理なのだろうか。


 「まあ、その不気味な顔も何年か続けてたら、いつかは形になるんじゃない?精々頑張って。」

 「…はい。」

 「それじゃ、俺はもう行くね。いつまでも君と話していたら、誰とも婚約なんて出来ない気がするから。」


非公式な場だけど、楽しんでいって。


そう言い残して、私の元から去っていったアリソン殿下。


性格に難があるように感じる彼だけれど、王族だということに加え、ヒューゴ達にも負けを取らない美しく整った顔立ちをしている為か、私から離れるなりあっという間に多くの令嬢達に囲まれてしまった。 







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