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第1章

嫁にはやらん。

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 「アイヴィに婚約なんてものは、まだ早い!」


突然、何の話だと思う。


やっと石化が解けて動き出したかと思えば、突拍子もないことを言い出す公爵様に、気でも触れたかと、失礼ながらに思ってしまう。


 「お義父様は許しません。」

 「……。」


公爵家の利にならないような相手と結婚をするつもりはないのだが…なんだか、そういうことを言われているわけではない気がするから、黙っておこう。


 「貴方。アイヴィが困ってるわ。こんなに可愛らしいんだから、7人や8人ぐらいの令息を釣って来たっておかしくないわよ。」

 「多い。多いよ、フレデリカ。そんなに釣って来られたら、こっちが困るじゃないか。」

 「出会いがあったらそれはそれでいいじゃない。私にとってはアイヴィの幸せが一番よ。」

 「たかだかパーティーに行くだけだというのに、何故だか嫁に出す気分だ。」

 「いつか本当に嫁に出す日が来るわよ。」

 「そんな日は、永遠に来なくていい。」

 「ですってよ?アイヴィ。」


出会ったその日から、公爵様と奥様は、私のことを実の娘かのように扱う。


この2ヶ月間で、何度も『私の可愛い娘アイヴィ』と言われた。強請ってもいないのに、『アイヴィに似合うだろうから』と様々な物を買い与えられた。


その度に、私は危うく勘違いしそうになるのだ。


本当に愛されているのではないか――と。


そんなこと、あるわけがないのに。少しでも期待をしてしまう自分に、笑ってしまう。


私は、実の父親に捨てられるような子なのだ。血の繋がりがない人達に愛されるわけなど、尚更ない。


 「アイヴィ。他の貴族なんて気にしなくていい。食事だけを楽しんでおいで。今日はそういう場だ。」

 「貴方、往生際が悪いですわよ。アイヴィ。今日の貴方はとても素敵よ。誰にも負けない可愛さだわ。だから、決して1人になっては駄目よ。走行性のある虫が寄って来るだろうから。」

 「フレデリカ。君も大概じゃないか?」

 「あら、私は“ウィンストン”というブランドに群がってくるような男には気をつけなさいと言っているだけよ?」


うふふ、と口元に手を当て、上品に笑う奥様。


走行性のある虫…という表現は些か気持ちが悪いが、“ウィンストン”という光に群がる虫が多いことは確かなのだろう。


私はあまり、貴族ひととの関わりが得意ではない。下手に取り入れられないよう気を付けなければ。







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