上 下
22 / 56
第1章

騒々しい夕食の時間。

しおりを挟む







 それから少し経って、やっと情緒が安定し始めた公爵様は、私に、ウィンストン家の執事長としてではなく、“マナー講師”としてジェームズを紹介した。


 「ウィンストン家は、みな、ジェームズにマナーを教わっているんだよ。ヒューゴも、エイダンも、カーシーも。そして私もね。」

 「僭越ながら、この私が、これからアイヴィ様に一通りのマナーをお教えします。」


宜しくお願いしますね、と微笑むジェームズは、私に嫌味ばかりを言ってくるようなバーサ先生とはまるで違った。


教え方も優しく、間違えたとしても決して馬鹿にするようなことは言わない。それどころか、『実はエイダン様もそこまで得意なわけではありませんので、大丈夫ですよ』とフォローまでしてくれる。


聞けば、エイダンは、ウィンストン家の次男でありながらも、マナーのような堅苦しい決まりが苦手らしい。それでも、所作には洗礼された美しさがあるとのことで、夕食時、お手本として彼の食べている姿を見ていたら、何故か一口サイズに切られたお肉を与えられた。


 「食べたいんだろ?」


ただ食べ方を見ていただけなのに、お肉が欲しくて仕方のない食い意地の張った女だと思われていたようだ。


そうじゃない、とは思いつつも、貰ったお肉は食べる。


もぐもぐと咀嚼する私に対して、エイダンが、『お前はもうちょっと太った方がいい』と言って来る。


お肉の味を噛み締めながら、私はやはり細いのかと、どこか他人事のように思った。


 エルズバーグは、私が太ることをとても嫌がった。他の子達には、普通にお肉やお魚を与えている中で、私に与える食べ物といえば基本的に野菜だった。


痩せ細られるのも嫌だとかで、月に一度程度は、お肉やお魚を食べる機会に恵まれたが、絶対に甘いお菓子だけは許されなかった。


ウィンストン家へ来て、私は久々に絶品だと思えるような美味しい料理やお菓子に出会えたわけだが、私の胃はすっかり1年半もの野菜生活に慣れてしまっていたようで、残念なことに、そう多くの量は摂取出来なかった。


徐々にこの食生活に慣れて来た頃ではあるが、私の体に肉がつき始めるのはもう少し先のように感じる。


 「エイダン。レディの体型に物申すなんて、失礼ですわよ。」

 「悪かったよ、母さん。」

 「私にではなく、アイヴィに謝りなさい。」

 「…悪かった。」


奥様に叱られ、罰が悪そうに謝るエイダンに私は『構わない』と一言だけ返す。


別に傷ついてなどいないし、私が細っこいのは事実だから言い返そうとも思っていない。


 「流石、脳筋なエイダンだね~!女心、全然分かってない!」

 「うるせぇよ。どうせお前だって、分かってないだろ。8歳の餓鬼に分かる訳もねぇ。」

 「エイダンよりかは分かるもんねー!」


この場が食事の場でなければ、ベーっと舌でも出していたであろうカーシーと、そんなカーシーに対して、チッと鬱陶しそうに舌打ちをするエイダン。


どうやらこの2人、実の兄弟だというのに、馬が合わないようだ。


未だ言い争いを続ける2人を横目に、食事を進める私。

 
貴族の食卓にしては、随分と騒々しい。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の次は爵位剥奪ですか? 構いませんよ、金の力で取り戻しますから

ひじり
恋愛
「エナ、僕は真実の愛を見つけたんだ。その相手はもちろん、きみじゃない。だから僕が何を言いたいのか分かるよね?」  男爵令嬢のエナ・ローリアは、幼い頃にリック・ティーレンスからのプロポーズを受けた。  将来を誓い合った二人は両家公認の仲になったが、ティーレンス家が子爵に陞爵した日を境に、すれ違う日が増えていった。  そして結婚式を前日に控えたある日、エナはリックから婚約を一方的に破棄されてしまう。  リックの新しい相手――カルデ・リスタは伯爵令嬢だ。しかし注目すべきはそこじゃない。カルデは異世界転生者であった。地位や名誉はもちろんのこと、財産や魔力の差においても、男爵令嬢のエナとは格が違う。  エナはリックの気持ちを尊重するつもりだったが、追い打ちをかける出来事がローリア家を襲う。  カルデからリックを横取りしようとした背信行為で、ローリア家は爵位を剥奪されることになったのだ。  事実無根だと訴えるが、王国は聞く耳を持たず。異世界転生者と男爵家の人間では、言葉の重みが違う。貴族の地位を失った父――ロド・ローリアは投獄され、エナ自身は国外追放処分となった。 「悪いわね~、エナ? あんたが持ってたもの、ぜーんぶあたしが貰っちゃった♪」  荷物をまとめて王都を発つ日、リックとカルデが見送りにくる。リックに婚約破棄されたことも、爵位剥奪されたことも、全てはこいつのしわざか、と確信する。  だからエナは宣言することにした。 「婚約破棄の次は爵位剥奪ですか? 構いませんよ、金の力で取り戻しますから」 ※異世界転生者有り、魔法有りの世界観になります。

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

私がいなくなっても、あなたは探しにも来ないのでしょうね

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族家の生まれではありながらも、父の素行の悪さによって貧しい立場にあったエリス。そんな彼女は気づいた時、周囲から強引に決められる形で婚約をすることとなった。その相手は大金持ちの御曹司、リーウェル。エリスの母は貧しい暮らしと別れを告げられることに喜び、エリスが内心では快く思っていない婚約を受け入れるよう、大いに圧力をかける。さらには相手からの圧力もあり、断ることなどできなくなったエリスは嫌々リーウェルとの婚約を受け入れることとしたが、リーウェルは非常にプライドが高く自分勝手な性格で、エリスは婚約を結んでしまったことを心から後悔する…。何一つ輝きのない婚約生活を送る中、次第に鬱の海に沈んでいくエリスは、ある日その身を屋敷の最上階から投げてしまうのだった…。

亡国の大聖女 追い出されたので辺境伯領で農業を始めます

夜桜
恋愛
 共和国の大聖女フィセルは、国を安定させる為に魔力を使い続け支えていた。だが、婚約を交わしていたウィリアム将軍が一方的に婚約破棄。しかも大聖女を『大魔女』認定し、両親を目の前で殺された。フィセルだけは国から追い出され、孤独の身となる。そんな絶望の雨天の中――ヒューズ辺境伯が現れ、フィセルを救う。  一週間後、大聖女を失った共和国はモンスターの大規模襲来で甚大な被害を受け……滅びの道を辿っていた。フィセルの力は“本物”だったのだ。戻って下さいと土下座され懇願されるが、もう全てが遅かった。フィセルは辺境伯と共に農業を始めていた。

虐げられた第一王女は隣国王室の至宝となる

珊瑚
恋愛
王族女性に聖なる力を持って産まれる者がいるイングステン王国。『聖女』と呼ばれるその王族女性は、『神獣』を操る事が出来るという。生まれた時から可愛がられる双子の妹とは違い、忌み嫌われてきた王女・セレナが追放された先は隣国・アバーヴェルド帝国。そこで彼女は才能を開花させ、大切に庇護される。一方、セレナを追放した後のイングステン王国では国土が荒れ始めて…… ゆっくり更新になるかと思います。 ですが、最後までプロットを完成させておりますので意地でも完結させますのでそこについては御安心下さいm(_ _)m

家に代々伝わる髪色を受け継いでいないからとずっと虐げられてきていたのですが……。

四季
恋愛
メリア・オフトレスは三姉妹の真ん中。 しかしオフトレス家に代々伝わる緑髪を受け継がず生まれたために母や姉妹らから虐げられていた。 だがある時、トレットという青年が現れて……?

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜

おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。 それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。 精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。 だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————

処理中です...