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第1章

情緒不安定な公爵様。

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 ――翌日。


私は、眠たい目をごしごしと擦りながら、公爵様と共にマナーの講師が来るのを待っていた。


欠伸が出て来そうになるも、なんとか噛み殺す。


結局、昨日は深夜の1時ぐらいまで字の練習を兼ねた復習をしていた。そのおかげで、寝不足なのだ。


 「アイヴィ、昨日はよく眠れなかったのかい?」

 「いえ。昨日やった部分を、復習をしていて…。」

 「そうか。偉いね、アイヴィは。」


微笑んだ公爵様が、私の頭を優しく撫でる。


お母様が生きていた頃は、お父様も同じように私の頭を撫でてくれていたな…なんて余計なことを思い出しては、切なくなる。


昔の懐かしい記憶をかき消すように、頭を横に振った私。その行動を、撫でられることに対しての拒否だと勘違いした公爵様は、ズーン…と分かりやすく落ち込んでしまった。


違うんです、と弁明するべきかどうか悩んでいれば、コンコンと叩かれた扉。どうやら、お待ちかねのマナー講師が来たようだ。


公爵様の許可を得て、入室してきたのは、なんとジェームズだった。予想外の人物の登場に、少し驚く私。一方のジェームズも、未だ落ち込む公爵様を見て驚いている様子だった。いったい何があったのだと。


 「旦那様、ご気分でも悪いのですか?」

 「いいや…。どうやら私は、アイヴィに嫌われているようでね…。それがとても辛くて…、うっうう…。」

言っている意味さえ分からなければ、突然、涙まで流し始める主人に困惑が隠しきれない様子のジェームズ。


説明を求めるように、ジェームズの視線がこちらに向く。なんだか少し気まずい。 


 「公爵様。私は、公爵様が嫌で頭を振ったわけではありません。誤解です。」

 「本当か…?」

 「はい。」

 「ああ、アイヴィ…!私の可愛い娘…!」


ぎゅう、と私を抱き締めるなり、頬擦りを始めた公爵様。


ジェームズの前だというのに、恥じる気配は全くない。なんなら、やられている側の私が恥ずかしい。


今までになく情緒不安定な公爵様に若干引きつつも、拒否をすれば、また落ち込んでしまうのは目に見えていた為、黙って抱き締められることにした。







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