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第1章
義弟の趣味に付き合う仲。
しおりを挟むふと、窓の外を見れば、エイダンが剣を振っていた。持っているのは恐らく本物ではないだろうが、ああして誰かが剣を振るう姿を見るのは初めてだった為、少し新鮮に感じた。
「お義姉ちゃん、顔を動かされると困るんだけど、何見てるの?」
「あ…ごめん。下にエイダンが居たから、つい。」
「エイダン?…あ、本当だ。おーい!エイダーン!」
下に居るエイダンに、カーシーが声を掛ける。エイダンは、動かしていた手を止めると、視線を上へと向けた。目がバチリと合う。
「何やってんだ?お前ら。」
「絵を書いてたんだ!お義姉ちゃんに、今回のモデルを頼んだんだ!」
「そいつに失礼な絵だけは書くんじゃねぇぞ。」
「んなぁ!?その発言が、僕に失礼なんだけど!?」
僕はエイダンと違って芸術家タイプなんだからね!と怒る弟に対して、エイダンは『へーへー』と面倒臭そうにしている。それが尚の事気に食わなかったのか、カーシーはエイダンに『この脳筋野郎!』と言うと、元の定位置に戻ってしまった。
この2人、仲が良いのか、悪いのか。歳の近いキョウダイというのは、案外難しいのかもしれない。
剣の練習はもう終わりなのか、タオルを肩にかけたエイダンがその場から離れていく。ひらひらと手を振っていたけれど、あれは私に向けてだったのだろうか。
カーシーはエイダンの発言が相当頭に来たのか、暫くはぷりぷりと怒っていたけれど、絵を書いている内に落ち着いたのか、キリの良いところまで書き終えた頃には『お義姉ちゃんは、絵になるね』と笑っていた。
けれど、エイダンの発言を決して許したわけではないようで、いつかぎゃふんと言わせてやるのだと息巻いていた。
ちなみに描いた絵は、今はまだ途中だからと見せてはくれなかったが、完成したら私にくれるそうだ。
「お義姉ちゃん、そろそろ夕食の時間だから行こっか!」
「ええ。」
「はい!」
「…何?この手は。」
「手、繋いで行こ!」
「何故。」
私には、手を繋ぐ意味が全く理解できなかった。
馬鹿なことを言っていないで早く行こうと言う私に対して、カーシーはニコニコとした笑みを向けるだけで、差し出した手を元に戻そうとはしなかった。この男、意外と強情だ。
私は、仕方がないと一度溜め息をついてから、カーシーの手を握る。手を繋げて満足なのか、カーシーはとても嬉しそうだ。
いったい何がそんなに嬉しいのか…。よくわからない末っ子だ。
手を繋いで仲良くダイニングルームに現れた私達を、公爵様は驚いたように。奥様は、微笑ましそうに見た。
なんだかとても居た堪れなくなった私は、繋いでいた手をパッと離すと、すぐさま自分の席についた。
「アイヴィは、カーシーと仲が良かったんだな。」
「いえ…そういうわけ…」
「勿論!仲良しだよ!」
そういわけではない。
そう言おうとした私を遮り、公爵様に堂々と、仲良し発言をしたカーシー。
そうだよね?と向けられる笑みがあまりにも純粋で、反論や否定が出来る感じではなかった。
ウィンストン家の面々に、『そうなの?』と問い掛けられるような視線を向けられた私は、更に居た堪れなくなる。何なのだこの空気は…。
つい溜め息が出て来そうになるも、なんとか我慢した私を誰か褒めてほしい。
「カーシーの趣味?に付き合う仲です。」
決して仲が良いわけではありません、と心の中で付け足す。
しかし、私の心の呟きなど、当然ながら知りもしない公爵様は、本当に私とカーシーの仲が良いと思ったのか、『そうか…』とどこか安心したような表情を浮かべた。
私は何故、そんな表情を浮かべるのかと不思議に思ったが、わざわざ聞くような真似はせず、出された食事をいつものように味わった。
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