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23.勇者リン

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 タロスはアマリスの中央に近いところに宿を取っているようだった。
 とりあえず今日は事務所に戻って皆に挨拶して寝よう。
 リンはそう思ってギルドを辞することにした。
 リンが出て行ったあと、グレイはライカとレンザを呼んでリンのことを聞いた。
 「見た感じ、前と同じ人間に見えますがね」
 「私も同じくあれは先日会ったのと同一人物と思います。
 いわゆる「魔族のなりすまし」を考えていたグレイは二人の言葉に腕を組んで思案した。
 「では君ら二人ともサベンテからアマリスまであの娘が九歳の娘を連れて移動できると思うかね?」
 まず無理でしょうという二人の答えは一致していた。
 「ということは何かしら別の力を利用したか、或いは利用されているかと見てよいということでよいか?」
 グレイの問いに二人とも肯定する。
 とにかく見張っておくべきという意見で今日はこれまでにした。
 リンがチームウルマの事務所に戻ると、ヤライ他ミラとラキが涙で迎えてくれた。
 ミラとラキは泣きながら言葉にならない。ヤライも「リン様よくぞご無事で」と絶句したまま立ち尽くしている。
 「大げさだなみんな」
 極力大げさに無事をアピールして、もうすぐシーマも回復してこちらに向かうだろうと伝えた。
 そして食堂で二人の意外な人物を見て驚いた。
 一人はタロスである。今日無事にこちらについたという報を受けて急遽やってきたのだ。シーマの事も心配しており、明日にでもレーベに向かうかもしれない。
 レーベにはオラレも一緒にいるが、タロスが知っているのはシンキが化けたオラレであるから、話をすれば同一人物ではないことはすぐわかってしまうかもしれない。
 まずいなとは思うがそこはどうしようもない。出来るだけこちらに引き留めておくことにしよう。
 もう一人の意外な人物はオルテシアであった。ウルマの生き残り領主としてアラン隊長と共にどこかに行っていたのだが、シーマの訃報を聞いてこちらに来たのだそうだ。それが誤報であると知って涙を流して喜んでいた。後で知ったのだが、イノセント領に来てからも時々会っていたらしい。シーマの行動力の裏にある資金源がなんとなくわかった気がする。
 それにしてもここ一か月ずいぶんと休みなしで働けたと思う。
 明日は野丁場長のオルク商会に挨拶に行ってイアンに挨拶に行ってそれからそれからと考えているうちにリンは眠りについてしまった。
 翌日、朝起きるとラプタのフウハがいなくなっていた。
 まあ、魔族などいてもいなくても良いので、久しぶりに皆と食事を取ることにした。
 いつもは奴隷たちは別の場所で食事を取っているのだが、そうするとリンだけ一人飯になってしまう。従って、リンは双子を同席させて食事を取ったのだった。ヤライは相変わらずつまみ食いで終わらせていた。
 その日、予定通りオルク商会とイアンの所に行き、ついでにギルドに寄ってみた。
 すぐにレンザが寄ってきて、話ができないかと言ってきた。
 ギルドの小食堂で飲み物を飲みながら二人は話すことにした。
 「大したことではないのだが」そう前置きをしてラプタが今日いないのはなぜなのかを聞く。
 「ああ、どこかに遊びに行ったみたい。食事かもしれないけど恋人いるみたいだし」
 「どこかにって?」
 行き先を知らないのか?というより話がリンが使役しているラプタの話をしているはずなのに、知り合いの友達の話をしているような感覚だ。
 「あのラプタは山で知り合ったの。ちょっと心を折ったかもしれないけど謝ったから仲直りしてるし。だから別に向こうがどう思っているか知らないけど飼っているわけでもないし、何かしてもらおうとも思ってないし」
 ストローで飲み物をずずーという音を立てて飲んでいるリンに対してレンザは衝撃を受けていた。そのような感覚でラプタに接したことがある人物は聞いたことがない。まさに友達感覚。
 普通なら支配して言うことを聞かせるし、場合によっては制裁を加えることもある。
 また、隙あれば逃げようとするし、ラプタは賢いので主人を見限る事さえある。
 ところがリンは全く違うやり方で信頼関係を築いていた。それがレンザにとって衝撃なのであった。
 レンザは今後の鷹匠の在り方を根本的に変えてしまうかもしれない、そう期待を膨らませていた。
 実際の所はそのラプタは魔獣どころか魔族なので、そんな友人のような付き合いでラプタと親交を深めることができるわけはないのではあるがそんなことはレンザは知らない。
 しかし、あのラプタがもしかして魔獣で人間に危害を加える可能性も否定できないとはレンザ不安に感じていた。その可能性を摘んでおきたいとも思う。
 「それじゃあ、あのラプタは野生なのか?」
 「よく言って聞かせてあるから人に危害は加えないよ。それは保証するから」
 レンザの危惧にリンは打てば響くような回答をする。
 そうなのか。保証するとまで言うのか。魔族や魔獣に利用されている可能性はまだ否定できないが、どうやらリンは普通の考え方をしていないようだ。考えてみればあの早熟なシーマが唯一認めている相棒とも呼べる存在なのだから、それは当たり前なのかもしれない。
 実はレンザは別の資料も手に入れていた。
 これは各町にあるギルドのルートから入手したもので、王都ベルクラント騎士団の報告書にあった一文で「アマリスのリン、勇気と胆力に瞠目す。勇者、惜しむらくは魔獣の森に消ゆ」というものだ。
 アマリスの言葉が入っていたので記録がこちらにも飛んできたが、これを入手していることは機密事項である。
 「そうだ、タロス氏がリン殿によろしくと言っていたよ。サベンテに戻るそうだが、今日今からならまだ出発に間に合うかもしれない」
 ひとまずラプタのことは置いておいて、次の話題に移ったが、こちらもリンにとってあまり続けたい話ではない。。
 レンザの話を聞いて「見ないと思ったら今朝の便でどこかに行ったのか」そうリンは思ったが、昨日会って話をしたのでもう特に話すことはない。オラレの件があるので実はあまり会いたくはないとも思っているぐらいだ。
 しかし金欠状態は変わらないので、これから少しの間シーマという得難い知略抜きで依頼を受けなければならないのだ。
 そうしてしばらくの間リンとラプタにはギルドの監視が付くことになったのだが、オラレやシーマが合流するまで数週間の間、何事も問題が発生することはなかったのである。
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