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アフター編
20.秘めた不安(※R18)
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私が玄関に下りると、口論は終了したようだった。笹塚はぐい、と私の腕を掴んで足早に去ろうとする。
くすくすと、後ろから笑い声が聞こえた。
「焦るくらいに余裕がないのなら、いっそ手放したらいいのに」
ぴたりと笹塚が止まり、しかし彼には振り返らず私の手を握り締める。
一体何の話をしていたのか。言い争いの火種は間違いなく私なんだろうけど、岸さんは本当に諦めが悪い。
宗像さんもだけど、なんで二人揃って私達を別れさせようとするのだろう。好きなら何をしても構わないのだろうか。
そんな八つ当たりじみたことを、つい思ってしまう。
「こんなに不釣合いなカップルも珍しいよね。二人の趣味が、全く逆方向に向いているなんて」
軽薄と言えるほど、軽快な声が聞こえてくる。
内と外。それで言うなら、確かに私と笹塚の趣味は逆方向だ。
「ねぇ、笹塚さん。羽坂さんはあなたに合わせて、いつも気を使っているんですよ。あなたは彼女に負担を強いているんです。それを、知っていますか?」
岸さんが、笹塚の背中へ問いかける。
「……知ってる」
ぽつりと低く呟くのは笹塚。彼は私の手を握ったまま、一度も振り返る事なく駅に向かって歩いて行った。
言葉少なに電車へ乗り、二人揺られて、目的の駅で降りる。
がたんごとんと遠く電車の音が聞こえる中、笹塚のマンションに向かって黒い道を歩く。
歩幅の広い笹塚の足に合わせて、私の足取りは小走りだった。
ふと前を見れば、少し陰のある笹塚の背中。
あなたは今、何を考えているんだろう。
それは私に言えないことなの?
どんな不安を感じているの?
……それは、私と同じ不安なの?
疑問が沢山、心の中に沸きあがる。
4月のはじめの頃はあんなにも浮かれていたのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう。
なぜ、不安なんて感じてしまったんだろう。
恋愛って、楽しいことばかりだと思ってた。笹塚が私の事を好きで、私も笹塚の事が好きなら、問題なく幸せになれるんだって。
ぬるま湯のように、穏やかな気持ちが続くんだって。
でも、恋は、こんなにも不安で、悲しくて辛い気持ちも味わうものなんだね。
私、初めて知ったよ。あなたで初めて知ったよ。
でももう、嫌だよ。例え恋にそんな一面があったとしても、もう嫌だ。
笹塚には笑ってほしい。
幸せそうに、笑っていて欲しいんだ。これからも、ずっと。
そんな事を考えた時、私はハッと自覚する。
……そういう事なんだ。私はこんなにも、笹塚に幸せになってもらいたいんだ。
つくづく自分が馬鹿だと詰りたくなる。
笹塚はあんなにも私にメッセージを送っていたのに、相変わらず私は鈍感で、察しが悪い。
全てに対して、気付くのが遅すぎるのだ。笹塚のマンションに入り、玄関で彼が私を抱きしめてきた時、心からそう思った。
――笹塚のからだが、震えている。
「由里」
「……浩太さん」
「お前は、俺から離れたり、しないよな?」
キスをされる。今までのようなゆっくりとした優しいものではなくて、噛み付くようなキス。口腔をくまなく舐め回され、息苦しさにくらくらする。そして体がふわりと浮いた。
笹塚が私を抱き上げたのだ。驚いて「ひゃあっ」と声を上げるが、彼は全く気にせず寝室を足で乱暴に開け、私をベッドに落とす。
「きゃ!」
「由里は、あんなくだらない理由で違う男を選んだりしないよな?」
尋問のように笹塚が囁き、がさがさと音を立てて私の服を剥いてくる。慌てて抵抗するが、彼は私の肩をぐっと押さえつけ、再びキスをする。
「んっ……」
一方的なキスをされ、するりと笹塚の手が肌を滑る。優しいようでせわしない手つき。やがて煩わしく自らのスーツの上着を脱ぎ、ビッと音を立ててネクタイを取るとソレを投げ、ワイシャツのボタンを一つ二つと片手で外す。
そして私のブラを上にずらすと熱く息を吐いて頂を舐めた。
「ひゃ、あ……っ、ン!」
あられもない声が口からこぼれ出る。しかし彼は何も言わずただ執拗にそこを舐め、何かを急くように片手が下半身へと辿られた。
スカートをまくりあげ、ショーツの中に手を差し込み指先をこすり付ける。
何も潤っていないそこを削るように擦られて、私は痛みに小さく呻いてしまった。
チッと舌打ちがされる。そんな粗野な仕草をする笹塚は初めてだ。私が驚いているうちに、彼は私の下着を脱がし、指を軽く舐めて湿らせてから再び秘所を探ってきた。
唾液によってぬめる指が芯を擦る。途端にそれは性感となって気持ちよさが巡り、それでも笹塚の荒い指使いに戸惑ってしまって、私の頭が混乱する。
「あう、はっ、んん! 浩太さん、ちょっとまって……っ」
必死に彼を止めようと声をかけるが、笹塚は無視をして何も話さない。ただ急速に私を促す。胸の頂を舐める舌と、芯を弄る指が私を高みに登らせようと急かして来る。
クルリと舌が頂の周りを辿り、ちゅっと音を立てて優しく吸う。そして口腔で転がされ、指がくにくにと動かされ、芯が弄られる。
気持ちが良くて、早々とおかしくなってしまう。私は抵抗するように笹塚の肩を押したが、彼はびくともしない。
しつこくされる愛撫はやがて私から力をうばい、やがてされるがまま、肩を掴んでいた手が外れ、ベッドに投げ出される。
「んっ、あ。こ、こうた、さん……っ、んぁっ!」
びくんと体が揺れる。いつもみたいに頭が真っ白な感じにはならないけど、すごく感じてしまって、頭がキンッとした。
背中に汗をかいている。
笹塚は胸の頂を舐めるのをやめ、顔を上げると指を膣内に埋めていく。ぐにぐにと異物が挿入る感覚に、私の肩がぴくりと震える。
「はぁっ、あ、ちょっと、待って、少し、だけ、ああっ」
私の制止の声も聞かず、笹塚が指を動かし始める。関節を曲げたり伸ばしたりしてナカをかきまぜる。
いやだ。すごく気持ち良いからやめて。私、またおかしくなるから。
「浩太さんっ! だめだってば、私、い、いっちゃうからぁ!」
「いけばいいだろ」
上から降ってくるのは氷みたいな冷たい声。思わず彼の顔を見れば、無表情で冷たい顔をしていた。
その怖さに体が震える。同時に、ここまで笹塚を不安にさせていたんだと、泣きそうになった。
じゅく、くぷ。音を立てて指が抽挿される。それに伴って私の体が再び性感を受け入れ、ぴくぴくと反応しはじめる。心より体が、笹塚の仕草に悦んでいる。
下腹の部分がきゅうっとして頭に霞がかかった。これは、ヤバイ。すごく気持ちがいい時の――。
「んっ、あ、あぁーっ!」
さっきよりも大きく体が跳ねる。大きく息をつくと、体はぐったりと脱力していた。頭がぼうっとしてうまく働かない。
「何度でもイけばいい。お前をそんな風にできるのは、俺だけなんだから」
「え……?」
「この体に触れていいのは、その顔を見ることができるのは、俺だけ。そうだろ?」
ちゅ、と私の耳に口づける。熱い息がかかり、舌が差し込まれた。同時に笹塚が胸の頂を指で摘み、ぎゅっと抓られる。
一度果てたのに何が足りないのか、私の体は嬉しそうに反応した。
こんなにも笹塚の目は冷たいのに、私はいつも通り気持ちよくて、体がそれを表していて。
それが悲しい。
私の体がすごく浅ましい気がして、つらい。
「……答えろよ。俺だけだろ?」
「ああっ! ン。そう、だよ。浩太さんだけだよ……っ!」
こくこくと頷くと、笹塚は指をナカに挿し込んでくる。次は指を二本にして、ゆっくりと抽挿を始めた。先ほどよりも大きな指の圧迫感に、体が戦慄く。高い声が上がる。
「はっ、ア……っ! ひゃ、ああ!」
笹塚の舌が耳から移動して、頬を伝う。首筋にチリッとした痛み、さらに肩、胸元、胸の膨らみ、お腹。色々な所に小さな痛みが走る。
体中に痕をつけられ、指の抽挿は絶え間なく水音を立てる。
私の息は小刻みになり、ただただ性感に耐える。だけど、そんな我慢はあっという間に瓦解した。
あの感覚が、再び襲ってくる。もう、疲れ果てて声も上がらない。
「~ッ! っ、はぁ」
達した時に力みすぎたのか、反動で脱力する。まばたきをすれば一筋の涙が伝い流れ、耳に落ちた。
体はすっかり弛緩していて、力が入らない。目線も定まらなくて、笹塚の顔が二重に見える。
だけど、秘所の割れ目を擦り付けてくるものに気付いた私は、少しだけ頭が冴えた。
ゆっくりと滑らせているそれは、笹塚の。
「……」
息が上がって声が出ない。ただ彼は、何度も確認するようにぬるりと触れてきた。
一つ、違和感に気付く。
彼は――避妊具をつけた? そういう所を見ていない。
フィルムを破る音も、何も聞こえていない。
「ん、浩太さん。つ、つけてる、よね?」
「……気になるなら、触って確かめてみたらどうだ?」
……恥ずかしい。でも、確認しなくちゃ。私が力の出ない腕をゆるゆると上げると、笹塚がその手を取り、彼のものに導いてくれた。
そっと先端に触れる。……それは、明らかに何もつけていなかった。
「つ、つけてないよ!」
「ああ。……そうだな」
ゆるり、と私の手を動かして自身を触らせる。熱くて、固くて、冷たい笹塚の表情と相反してドクドクと脈打っている。
彼は、私の秘所に再び擦り付けてきた。ゆっくりと、何かを促すように。
「これを、このまま由里のナカに挿れたら……どうなるだろうな?」
「えっ……?」
笹塚は何故か嬉しそうに、だけど同時に泣きそうな顔で、ふわりと笑った。
「何も起らないかもしれない。――だけど、”何か”が起きるかもしれない。そうしたら、お前はどうする?」
「こ、浩太さん?」
「俺に縋る? 一緒になりたいって言ってくれる? 由里の中で、俺は一番になれる? 俺だけになる?」
自分の目が、自然と見開いていく。
彼が不安に思っていたこと。彼が欲しがっているもの。私に求めているものが、聞こえた気がした。
だけど、それは、だめだ。まだ、駄目なんだ。浩太さん。私はあなたが好きだけど、それはいけないことなんだ。
ふるふると首を振る。私の否定に笹塚の目が暗く、陰に落ちる。
違うんだよ。そうじゃない。嫌じゃないんだ。笹塚が嫌なんじゃないんだよ。
「だめ、だよ。そんな可哀想なこと、したらだめ。ちゃんと、してからじゃないと」
「……」
「望んで迎えたいの! でも、それは今じゃない。……ね、そうでしょ?」
笹塚の目が暗闇から少し光を取り戻す。少し頭が冷えたような顔をして、私の頬をそっと撫でた。
「そう、だな。そうだった」
「うん……ごめんね」
「俺が悪いんだ。ごめんな。でも、していいか? ちゃんとつけるから」
私はにっこりと笑う。笹塚の悲しい顔をどうにかしたくて堪らなかったから、とにかく笑みを作った。
「勿論だよ。浩太さんが好きだもん」
「ああ、知ってる。俺も好きだよ、由里」
ちゅ、と軽く唇を重ね、やがて顔を上げると笹塚はベッドの傍にある小さな引き出しから避妊具を取り出し、フィルムを破る。
次はちゃんと準備して私の秘所に宛がい、ゆっくりと、膣内へ侵入してくる。
凹凸が重なるみたいに、ぴったりとはめ込まれていく。
繋がる、私とあなたのからだ。
笹塚が小さく、熱い息を吐く。
「……こうやって繋がっている時だけが、一番、安心する」
それは私を抱きしめる笹塚の、心に秘め隠した言葉だった。
くすくすと、後ろから笑い声が聞こえた。
「焦るくらいに余裕がないのなら、いっそ手放したらいいのに」
ぴたりと笹塚が止まり、しかし彼には振り返らず私の手を握り締める。
一体何の話をしていたのか。言い争いの火種は間違いなく私なんだろうけど、岸さんは本当に諦めが悪い。
宗像さんもだけど、なんで二人揃って私達を別れさせようとするのだろう。好きなら何をしても構わないのだろうか。
そんな八つ当たりじみたことを、つい思ってしまう。
「こんなに不釣合いなカップルも珍しいよね。二人の趣味が、全く逆方向に向いているなんて」
軽薄と言えるほど、軽快な声が聞こえてくる。
内と外。それで言うなら、確かに私と笹塚の趣味は逆方向だ。
「ねぇ、笹塚さん。羽坂さんはあなたに合わせて、いつも気を使っているんですよ。あなたは彼女に負担を強いているんです。それを、知っていますか?」
岸さんが、笹塚の背中へ問いかける。
「……知ってる」
ぽつりと低く呟くのは笹塚。彼は私の手を握ったまま、一度も振り返る事なく駅に向かって歩いて行った。
言葉少なに電車へ乗り、二人揺られて、目的の駅で降りる。
がたんごとんと遠く電車の音が聞こえる中、笹塚のマンションに向かって黒い道を歩く。
歩幅の広い笹塚の足に合わせて、私の足取りは小走りだった。
ふと前を見れば、少し陰のある笹塚の背中。
あなたは今、何を考えているんだろう。
それは私に言えないことなの?
どんな不安を感じているの?
……それは、私と同じ不安なの?
疑問が沢山、心の中に沸きあがる。
4月のはじめの頃はあんなにも浮かれていたのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう。
なぜ、不安なんて感じてしまったんだろう。
恋愛って、楽しいことばかりだと思ってた。笹塚が私の事を好きで、私も笹塚の事が好きなら、問題なく幸せになれるんだって。
ぬるま湯のように、穏やかな気持ちが続くんだって。
でも、恋は、こんなにも不安で、悲しくて辛い気持ちも味わうものなんだね。
私、初めて知ったよ。あなたで初めて知ったよ。
でももう、嫌だよ。例え恋にそんな一面があったとしても、もう嫌だ。
笹塚には笑ってほしい。
幸せそうに、笑っていて欲しいんだ。これからも、ずっと。
そんな事を考えた時、私はハッと自覚する。
……そういう事なんだ。私はこんなにも、笹塚に幸せになってもらいたいんだ。
つくづく自分が馬鹿だと詰りたくなる。
笹塚はあんなにも私にメッセージを送っていたのに、相変わらず私は鈍感で、察しが悪い。
全てに対して、気付くのが遅すぎるのだ。笹塚のマンションに入り、玄関で彼が私を抱きしめてきた時、心からそう思った。
――笹塚のからだが、震えている。
「由里」
「……浩太さん」
「お前は、俺から離れたり、しないよな?」
キスをされる。今までのようなゆっくりとした優しいものではなくて、噛み付くようなキス。口腔をくまなく舐め回され、息苦しさにくらくらする。そして体がふわりと浮いた。
笹塚が私を抱き上げたのだ。驚いて「ひゃあっ」と声を上げるが、彼は全く気にせず寝室を足で乱暴に開け、私をベッドに落とす。
「きゃ!」
「由里は、あんなくだらない理由で違う男を選んだりしないよな?」
尋問のように笹塚が囁き、がさがさと音を立てて私の服を剥いてくる。慌てて抵抗するが、彼は私の肩をぐっと押さえつけ、再びキスをする。
「んっ……」
一方的なキスをされ、するりと笹塚の手が肌を滑る。優しいようでせわしない手つき。やがて煩わしく自らのスーツの上着を脱ぎ、ビッと音を立ててネクタイを取るとソレを投げ、ワイシャツのボタンを一つ二つと片手で外す。
そして私のブラを上にずらすと熱く息を吐いて頂を舐めた。
「ひゃ、あ……っ、ン!」
あられもない声が口からこぼれ出る。しかし彼は何も言わずただ執拗にそこを舐め、何かを急くように片手が下半身へと辿られた。
スカートをまくりあげ、ショーツの中に手を差し込み指先をこすり付ける。
何も潤っていないそこを削るように擦られて、私は痛みに小さく呻いてしまった。
チッと舌打ちがされる。そんな粗野な仕草をする笹塚は初めてだ。私が驚いているうちに、彼は私の下着を脱がし、指を軽く舐めて湿らせてから再び秘所を探ってきた。
唾液によってぬめる指が芯を擦る。途端にそれは性感となって気持ちよさが巡り、それでも笹塚の荒い指使いに戸惑ってしまって、私の頭が混乱する。
「あう、はっ、んん! 浩太さん、ちょっとまって……っ」
必死に彼を止めようと声をかけるが、笹塚は無視をして何も話さない。ただ急速に私を促す。胸の頂を舐める舌と、芯を弄る指が私を高みに登らせようと急かして来る。
クルリと舌が頂の周りを辿り、ちゅっと音を立てて優しく吸う。そして口腔で転がされ、指がくにくにと動かされ、芯が弄られる。
気持ちが良くて、早々とおかしくなってしまう。私は抵抗するように笹塚の肩を押したが、彼はびくともしない。
しつこくされる愛撫はやがて私から力をうばい、やがてされるがまま、肩を掴んでいた手が外れ、ベッドに投げ出される。
「んっ、あ。こ、こうた、さん……っ、んぁっ!」
びくんと体が揺れる。いつもみたいに頭が真っ白な感じにはならないけど、すごく感じてしまって、頭がキンッとした。
背中に汗をかいている。
笹塚は胸の頂を舐めるのをやめ、顔を上げると指を膣内に埋めていく。ぐにぐにと異物が挿入る感覚に、私の肩がぴくりと震える。
「はぁっ、あ、ちょっと、待って、少し、だけ、ああっ」
私の制止の声も聞かず、笹塚が指を動かし始める。関節を曲げたり伸ばしたりしてナカをかきまぜる。
いやだ。すごく気持ち良いからやめて。私、またおかしくなるから。
「浩太さんっ! だめだってば、私、い、いっちゃうからぁ!」
「いけばいいだろ」
上から降ってくるのは氷みたいな冷たい声。思わず彼の顔を見れば、無表情で冷たい顔をしていた。
その怖さに体が震える。同時に、ここまで笹塚を不安にさせていたんだと、泣きそうになった。
じゅく、くぷ。音を立てて指が抽挿される。それに伴って私の体が再び性感を受け入れ、ぴくぴくと反応しはじめる。心より体が、笹塚の仕草に悦んでいる。
下腹の部分がきゅうっとして頭に霞がかかった。これは、ヤバイ。すごく気持ちがいい時の――。
「んっ、あ、あぁーっ!」
さっきよりも大きく体が跳ねる。大きく息をつくと、体はぐったりと脱力していた。頭がぼうっとしてうまく働かない。
「何度でもイけばいい。お前をそんな風にできるのは、俺だけなんだから」
「え……?」
「この体に触れていいのは、その顔を見ることができるのは、俺だけ。そうだろ?」
ちゅ、と私の耳に口づける。熱い息がかかり、舌が差し込まれた。同時に笹塚が胸の頂を指で摘み、ぎゅっと抓られる。
一度果てたのに何が足りないのか、私の体は嬉しそうに反応した。
こんなにも笹塚の目は冷たいのに、私はいつも通り気持ちよくて、体がそれを表していて。
それが悲しい。
私の体がすごく浅ましい気がして、つらい。
「……答えろよ。俺だけだろ?」
「ああっ! ン。そう、だよ。浩太さんだけだよ……っ!」
こくこくと頷くと、笹塚は指をナカに挿し込んでくる。次は指を二本にして、ゆっくりと抽挿を始めた。先ほどよりも大きな指の圧迫感に、体が戦慄く。高い声が上がる。
「はっ、ア……っ! ひゃ、ああ!」
笹塚の舌が耳から移動して、頬を伝う。首筋にチリッとした痛み、さらに肩、胸元、胸の膨らみ、お腹。色々な所に小さな痛みが走る。
体中に痕をつけられ、指の抽挿は絶え間なく水音を立てる。
私の息は小刻みになり、ただただ性感に耐える。だけど、そんな我慢はあっという間に瓦解した。
あの感覚が、再び襲ってくる。もう、疲れ果てて声も上がらない。
「~ッ! っ、はぁ」
達した時に力みすぎたのか、反動で脱力する。まばたきをすれば一筋の涙が伝い流れ、耳に落ちた。
体はすっかり弛緩していて、力が入らない。目線も定まらなくて、笹塚の顔が二重に見える。
だけど、秘所の割れ目を擦り付けてくるものに気付いた私は、少しだけ頭が冴えた。
ゆっくりと滑らせているそれは、笹塚の。
「……」
息が上がって声が出ない。ただ彼は、何度も確認するようにぬるりと触れてきた。
一つ、違和感に気付く。
彼は――避妊具をつけた? そういう所を見ていない。
フィルムを破る音も、何も聞こえていない。
「ん、浩太さん。つ、つけてる、よね?」
「……気になるなら、触って確かめてみたらどうだ?」
……恥ずかしい。でも、確認しなくちゃ。私が力の出ない腕をゆるゆると上げると、笹塚がその手を取り、彼のものに導いてくれた。
そっと先端に触れる。……それは、明らかに何もつけていなかった。
「つ、つけてないよ!」
「ああ。……そうだな」
ゆるり、と私の手を動かして自身を触らせる。熱くて、固くて、冷たい笹塚の表情と相反してドクドクと脈打っている。
彼は、私の秘所に再び擦り付けてきた。ゆっくりと、何かを促すように。
「これを、このまま由里のナカに挿れたら……どうなるだろうな?」
「えっ……?」
笹塚は何故か嬉しそうに、だけど同時に泣きそうな顔で、ふわりと笑った。
「何も起らないかもしれない。――だけど、”何か”が起きるかもしれない。そうしたら、お前はどうする?」
「こ、浩太さん?」
「俺に縋る? 一緒になりたいって言ってくれる? 由里の中で、俺は一番になれる? 俺だけになる?」
自分の目が、自然と見開いていく。
彼が不安に思っていたこと。彼が欲しがっているもの。私に求めているものが、聞こえた気がした。
だけど、それは、だめだ。まだ、駄目なんだ。浩太さん。私はあなたが好きだけど、それはいけないことなんだ。
ふるふると首を振る。私の否定に笹塚の目が暗く、陰に落ちる。
違うんだよ。そうじゃない。嫌じゃないんだ。笹塚が嫌なんじゃないんだよ。
「だめ、だよ。そんな可哀想なこと、したらだめ。ちゃんと、してからじゃないと」
「……」
「望んで迎えたいの! でも、それは今じゃない。……ね、そうでしょ?」
笹塚の目が暗闇から少し光を取り戻す。少し頭が冷えたような顔をして、私の頬をそっと撫でた。
「そう、だな。そうだった」
「うん……ごめんね」
「俺が悪いんだ。ごめんな。でも、していいか? ちゃんとつけるから」
私はにっこりと笑う。笹塚の悲しい顔をどうにかしたくて堪らなかったから、とにかく笑みを作った。
「勿論だよ。浩太さんが好きだもん」
「ああ、知ってる。俺も好きだよ、由里」
ちゅ、と軽く唇を重ね、やがて顔を上げると笹塚はベッドの傍にある小さな引き出しから避妊具を取り出し、フィルムを破る。
次はちゃんと準備して私の秘所に宛がい、ゆっくりと、膣内へ侵入してくる。
凹凸が重なるみたいに、ぴったりとはめ込まれていく。
繋がる、私とあなたのからだ。
笹塚が小さく、熱い息を吐く。
「……こうやって繋がっている時だけが、一番、安心する」
それは私を抱きしめる笹塚の、心に秘め隠した言葉だった。
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