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笹塚浩太のリア充旅行
門倉悠真との邂逅(詳細編)
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――それは今年に入ってすぐの事。まだ彼女をこの腕に納めていない時。
俺は羽坂由里の親友、門倉悠真と初めてサシで話をした。
「あのさ、なんで初めて会った時、あんな事言ってきたんだ?俺の事、由里から聞いてたんだろ?」
「ええ。でも、遅かれ早かれ僕という存在をいつか貴方は知る事になるでしょう?それなら早い方がいいかなって思ったんです」
敬語はいいから、と口を挟むと「そうですか?じゃあ遠慮なく」と彼は頷く。
「成程な。わざと疑念を抱かせて俺が由里に聞くことを見越したのか。彼女が怒る事も含めて」
「うん。あの時はごめんね? 引っ掻き回すような事して。でも、由里ちゃんは絶対自分から言う事は出来ないって思ったんだ」
「全く。そのまま自然消滅したらどうするつもりだったんだ」
「それならそれで、それまでの関係でしょ?」
しれっと言ってくる。どうやらこういう性格らしい。昔「根暗オタク」というレッテルを貼られていただろうに、中身の性格が明るい所は由里と同じだな、と思う。
「ハァ……それで? 本音を聞かせてもらおうか。由里を取ろうとしている所で聞くのも何だが」
「それはそういう風に僕も望んでるから気にしないでよ。大体今もまだ好きなら、全力で阻止してるし? ふふ」
「今も、という事は、やっぱりそういう事か」
「……うん、そう。好き、だったよ。と言っても高校生の頃だけどね。つまり、引きこもるまで」
クスクスと笑う。自分がかつて家に引きこもり、家どころか部屋からも出ようとしなかった頃を、すでに過去のものとして受け止めている……そんな顔をしている。
「考えてみれば、必然なんだよね。ずーっと僕、1人でさぁ……。ホントまじで暗くって。周りの人間、心の中でバカにしまくってて。それなのに、どうしようもない寂しがりで、でも自分から歩み寄る事もできなくて。……そんな時にさ、自分と趣味がぴったり合って、仲良くしてくれるような女の子が現れたら、そりゃあ好きになっちゃうよね」
頭を掻きながら笑みを零し、彼の母親が淹れたアールグレイの紅茶をつつ、と飲む。……ちなみにあの母親はすごいテンションでやや驚いた。涙を流さんばかりに喜んで、悠真に初めて同性の友達が来てくれた! とクルクル回って……いや、踊っていた。
「好きだったのに、ずっと言わなかったのか」
「うん」
「何故、と聞いていいのか?」
「勿論。……想像したらね、想像、できなかったから。だから僕は、恋人への昇格より親友を選んだんだ」
「想像?」
うん、と悠真は頷く。
「恋人になったらしたい事あるでしょう?キスしたり、体に触れたり、それ以上の事をしたり。その全てがね、想像できなかったんだ。この部屋に由里ちゃんが来るようになって、少しずつ話せるようになって、僕は一生懸命想像したよ。……なのに、僕は由里ちゃんとそういう風になるのが全く想像できなかった」
その目はどこか遠く、まるで過去を見ているよう。
「それでね、分かってしまったんだ。僕は由里ちゃんの事が好きだけど、恋人になりたいとは違うんだって。もう、ね、そういう友とか恋とかって言う所を超えてしまってたんだ、僕達は」
「成程。親友、と言う訳か」
そういう事ですと答えて、ケーキ皿に置かれたアップルパイにフォークを差す。
「分からなくはないが。それにしても、どうして突然こんな話をしてきたんだ?ゲーム内で呼びつけて。正直驚いたぞ?」
「あははっ!ごめんね~? でも笹塚さんなら来てくれると思ったし、笹塚さんには言っておきたかったんだ。僕の気持ちを。その方が、色んな意味で遠慮なく由里ちゃん口説けるでしょ?」
「……お前な」
「あー図星って顔。笹塚さんはイイヒトだね~」
くすくす笑う目の前の男。なんか腹が立つな。
「ん~でも、ちょっとは寂しいんだよ? さすがに由里ちゃん、笹塚さんに落ちちゃったら、今みたいに遊びに来れなくなるだろうし」
「全く。今と変わらず呼べばいいだろ。ソレくらい許すぞ俺だって。まだつきあってねえけど」
「うーん。……でもヤッパ遠慮しちゃうよ~。僕だって彼女が違う男の家遊びに行くの、嫌だもん」
「……だから、俺がお前の友達になればいい話だろ?」
「へ?」と。初めて悠真の表情が変わった。にこにこしていた顔が、キョトンとしている。
「悠真さえ良ければ友達になろう。それで、由里と一緒に遊びに行くよ。ま、つきあったらの話だけどな?」
「い、いい……の?」
「いいも何も、そうしないと由里は俺に遠慮して行けない、お前は俺に遠慮して呼べないって仲になっちまうだろ。俺はそんな心の狭い彼氏になりたくない」
「……あは、あはは。あはははっ!」
「何だよ」
「笹塚さん、面白いっ! 彼氏の器を広く見せたいから友達になろうって発想がおかしすぎ!」
うるせーな。俺だって本音で言えば嫌なんだよ。親友とはいえ男の家に通うような彼女、嫌に決まってる。
――だけど、それが嫌だって口で言えばきっと由里は悲しむ。それなら、許すしかないだろ。
しかも二人が遠慮せずに会う為には……俺が二人の輪に入るしかない。
「ハァ……お前も早く彼女作れ。大学とかで。そしたら本当に遠慮しなくてすむだろ。それでどっかに行ったりしよう。大人数で行けば楽しいしな」
「わぁ! それは本当に楽しそうだね。じゃあまずは、笹塚さんが頑張って由里ちゃん落とさないとね? 楽しみにしてるよ!」
「ああ……。まぁ、がんばる」
本当に嬉しそうに喜ぶ悠真に俺はきっと呆れたように笑って。
こうして俺に、5歳下の友達が1人、できたのだ。
まあ、この邂逅の後に由里が勝手に斜め思考に走って別れを切り出され、俺がブチギレて夜中にバイクを走らせるなど、この時は毛ほども考えていなかったのだが。
終わりよければ全てよしと、全てが丸く収まった後では思っているけれど。
――由里の鈍感さには本当に頭を抱えたものだった。
俺は羽坂由里の親友、門倉悠真と初めてサシで話をした。
「あのさ、なんで初めて会った時、あんな事言ってきたんだ?俺の事、由里から聞いてたんだろ?」
「ええ。でも、遅かれ早かれ僕という存在をいつか貴方は知る事になるでしょう?それなら早い方がいいかなって思ったんです」
敬語はいいから、と口を挟むと「そうですか?じゃあ遠慮なく」と彼は頷く。
「成程な。わざと疑念を抱かせて俺が由里に聞くことを見越したのか。彼女が怒る事も含めて」
「うん。あの時はごめんね? 引っ掻き回すような事して。でも、由里ちゃんは絶対自分から言う事は出来ないって思ったんだ」
「全く。そのまま自然消滅したらどうするつもりだったんだ」
「それならそれで、それまでの関係でしょ?」
しれっと言ってくる。どうやらこういう性格らしい。昔「根暗オタク」というレッテルを貼られていただろうに、中身の性格が明るい所は由里と同じだな、と思う。
「ハァ……それで? 本音を聞かせてもらおうか。由里を取ろうとしている所で聞くのも何だが」
「それはそういう風に僕も望んでるから気にしないでよ。大体今もまだ好きなら、全力で阻止してるし? ふふ」
「今も、という事は、やっぱりそういう事か」
「……うん、そう。好き、だったよ。と言っても高校生の頃だけどね。つまり、引きこもるまで」
クスクスと笑う。自分がかつて家に引きこもり、家どころか部屋からも出ようとしなかった頃を、すでに過去のものとして受け止めている……そんな顔をしている。
「考えてみれば、必然なんだよね。ずーっと僕、1人でさぁ……。ホントまじで暗くって。周りの人間、心の中でバカにしまくってて。それなのに、どうしようもない寂しがりで、でも自分から歩み寄る事もできなくて。……そんな時にさ、自分と趣味がぴったり合って、仲良くしてくれるような女の子が現れたら、そりゃあ好きになっちゃうよね」
頭を掻きながら笑みを零し、彼の母親が淹れたアールグレイの紅茶をつつ、と飲む。……ちなみにあの母親はすごいテンションでやや驚いた。涙を流さんばかりに喜んで、悠真に初めて同性の友達が来てくれた! とクルクル回って……いや、踊っていた。
「好きだったのに、ずっと言わなかったのか」
「うん」
「何故、と聞いていいのか?」
「勿論。……想像したらね、想像、できなかったから。だから僕は、恋人への昇格より親友を選んだんだ」
「想像?」
うん、と悠真は頷く。
「恋人になったらしたい事あるでしょう?キスしたり、体に触れたり、それ以上の事をしたり。その全てがね、想像できなかったんだ。この部屋に由里ちゃんが来るようになって、少しずつ話せるようになって、僕は一生懸命想像したよ。……なのに、僕は由里ちゃんとそういう風になるのが全く想像できなかった」
その目はどこか遠く、まるで過去を見ているよう。
「それでね、分かってしまったんだ。僕は由里ちゃんの事が好きだけど、恋人になりたいとは違うんだって。もう、ね、そういう友とか恋とかって言う所を超えてしまってたんだ、僕達は」
「成程。親友、と言う訳か」
そういう事ですと答えて、ケーキ皿に置かれたアップルパイにフォークを差す。
「分からなくはないが。それにしても、どうして突然こんな話をしてきたんだ?ゲーム内で呼びつけて。正直驚いたぞ?」
「あははっ!ごめんね~? でも笹塚さんなら来てくれると思ったし、笹塚さんには言っておきたかったんだ。僕の気持ちを。その方が、色んな意味で遠慮なく由里ちゃん口説けるでしょ?」
「……お前な」
「あー図星って顔。笹塚さんはイイヒトだね~」
くすくす笑う目の前の男。なんか腹が立つな。
「ん~でも、ちょっとは寂しいんだよ? さすがに由里ちゃん、笹塚さんに落ちちゃったら、今みたいに遊びに来れなくなるだろうし」
「全く。今と変わらず呼べばいいだろ。ソレくらい許すぞ俺だって。まだつきあってねえけど」
「うーん。……でもヤッパ遠慮しちゃうよ~。僕だって彼女が違う男の家遊びに行くの、嫌だもん」
「……だから、俺がお前の友達になればいい話だろ?」
「へ?」と。初めて悠真の表情が変わった。にこにこしていた顔が、キョトンとしている。
「悠真さえ良ければ友達になろう。それで、由里と一緒に遊びに行くよ。ま、つきあったらの話だけどな?」
「い、いい……の?」
「いいも何も、そうしないと由里は俺に遠慮して行けない、お前は俺に遠慮して呼べないって仲になっちまうだろ。俺はそんな心の狭い彼氏になりたくない」
「……あは、あはは。あはははっ!」
「何だよ」
「笹塚さん、面白いっ! 彼氏の器を広く見せたいから友達になろうって発想がおかしすぎ!」
うるせーな。俺だって本音で言えば嫌なんだよ。親友とはいえ男の家に通うような彼女、嫌に決まってる。
――だけど、それが嫌だって口で言えばきっと由里は悲しむ。それなら、許すしかないだろ。
しかも二人が遠慮せずに会う為には……俺が二人の輪に入るしかない。
「ハァ……お前も早く彼女作れ。大学とかで。そしたら本当に遠慮しなくてすむだろ。それでどっかに行ったりしよう。大人数で行けば楽しいしな」
「わぁ! それは本当に楽しそうだね。じゃあまずは、笹塚さんが頑張って由里ちゃん落とさないとね? 楽しみにしてるよ!」
「ああ……。まぁ、がんばる」
本当に嬉しそうに喜ぶ悠真に俺はきっと呆れたように笑って。
こうして俺に、5歳下の友達が1人、できたのだ。
まあ、この邂逅の後に由里が勝手に斜め思考に走って別れを切り出され、俺がブチギレて夜中にバイクを走らせるなど、この時は毛ほども考えていなかったのだが。
終わりよければ全てよしと、全てが丸く収まった後では思っているけれど。
――由里の鈍感さには本当に頭を抱えたものだった。
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