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七章 コルベルク公国編
53 オフジェ川清掃作戦
しおりを挟むリザートイドたちはしばらく湖で療養して元気になった。ウィンプルを回収しに行きたいと申し出たので、コルベルク公国から魔族のソラノとアルタ、そして魔法省のシドニーが騎士のギードと一緒に小隊を組んで付き添うことになった。
「ウィンブル回収には危険が伴うと思う。あなた方は慣れていると思うが無理はしないで欲しい。何かあれば我々が到着するまで待っていて欲しい。王都で会おう」
クリス殿下から激励を受けて、彼らは公都を出発をした。
オフジェ川に到着した彼らは狂暴になったウィンブルを見て眉を顰める。
「この川に何か興奮するような草があるのか?」とソレンセン長老が聞いた。
「草?」
「さよう、ウィンブルのエサは水草なれば」
「ここの水草を調べるか」
「教授にも知らせて聞いてみよう」シドニーが伝書鳥を出して知らせる。
知らせを受けたダールグレン教授とクリスティアン殿下はノイジードル王国を急遽訪問する事にした。教授の転移で行くので少人数である。ステュアートもフォルカーもジョサイアも連れて行けないで、梨奈とジェリーを連れて行くことになった。置いて行くと五月蠅そうなので仕方なしにだが。
四人が西の森に着くと弟のエアハルト殿下が出迎えてくれた。梨奈はエアハルト殿下が初めて会った時から随分成長しているのを見て「まあ、こんなに大きくなって、立派になって」と涙ぐんだ。母親気分である。兄のクリス殿下と並ぶと背丈は同じくらいだが、横に大きいエアハルト殿下が面映ゆそうに頬を掻く。
王宮でノイジードル国王と対面して話し合った結果、ノイジードル王国からも応援の兵を派遣され、両国の共同事業とするという。
早速オフジェ川の砦に行って検討の結果、リザートイドたちとギードやシドニーたちと一緒になって問題のウィンブルの食料になった水草を探すことになった。
水辺は危険なので、ウィンブルの嫌いな香草を燻した布切れを巻き付け四、五人で組んで探す。
「これじゃないか」
「こんな草は昔は無かったが」
少し上流の湿地帯に、太い茎に百合に似た葉がびっしりと生えた水草があった。殆んど水中に生えていて浅い所ではぼうぼうと生い茂っている。
「大藻なら食べるが、これはよく似ているが違う種類でござるが……」
草を受け取ったリザートイドが首を傾げる。
「餌がなければ食べるかもしれませぬ」
葉を一枚ちぎって匂いを嗅いだ者が顔を顰める。
「これは、調べた方がよかろう」
そういうことで、砦で待機していた教授が呼ばれ、殿下と梨奈も付いて行った。
「これが狂暴化した原因かねえ、ブルグンドにあるブルグ藻じゃないかな、葉の先がちょっと赤いだろう」
採集して来た肉厚の食用になりそうな水藻を覗き込んで梨奈が聞く。
「これ、浄化できるんですか?」
「リナ、やってみてくれ」殿下に言われて頷いた。
「はい」
一行はオフジェ川上流の湿地帯の手前に行って、藻が生えている一帯を見る。
梨奈は湿地一面に生えた水藻に向かい、祈った。
(浄化、毒素削除、無毒化)両手を広げると、手から零れる光が辺りのブルグ藻を浄化した。
「もう毒は浄化されたようだが──」葉先の赤い藻を口に入れて食べてみる殿下。梨奈が口に入れようとすると止められる。
「こんな物をどこで」
「帝国だろうよ」
「なるほど」
「私、ここで浄化していますね」
植物ならば次が生えてくるだろうし、根こそぎ抜いたほうがいいかしらと考える梨奈。
「そうか、その間に父上と話し合って来よう」
クリス殿下はギードと教授を連れて王都に戻るようだ。
梨奈は公国や王都から派遣された兵士、ソラノとアルタとシドニー、それにジェリーとオフジェ川の砦に残って、一緒に浄化して行く。ブルグ藻はそう繁殖力が強い草ではないようだが、植え付けた場所が良かったのかその辺りではかなり繁殖していた。
「我々で根こそぎ抜いて焼き払おう」
「残っている水藻は私が浄化するわ」
シドニーが兵士を指揮して、何か所かにブルグ藻を積み上げ焼き払う作戦を展開する。残りの根や種なんかを梨奈が浄化する作戦に出た。
これでしばらくは大丈夫だし、藻が生えればその都度抜いて行けばよい。
「ダフネがいたら火を使えるノ」
「今回、留守番だな」
「ギードと仲がいいノー、可哀そうウネ」
「そうか、知らなかったな」
「こちらにもアルヨ」
アルタとシドニーは仲が良い。梨奈は余計なことかと思いながらも、つい側で警護をしながら水藻を引いているソラノに聞いてみる。
「ソラノはいいの?」
「何がで?」
水藻を幾つか抜いたソラノが振り返る。幻惑のピアスをしているけれど、この頃は梨奈のレベルも上がっているのか元の姿が分かる。魔族である。薄紫の肌に鈍色の髪、瞳は赤い。副官タイプだわと梨奈は思った。
「いや、アルタを助けたのも面倒を見ているのもソラノだと聞いたけど」
「一族の者だし、半魔は手がかかる。そうだな、魔王様の気持ちも少しは分かる、あんたはガキだ。面倒を見てやらなければならん。一度助けたからな。まあ、俺もそのうち番を探しに出るさ」
「そうなの」
まあ魔族の気持ちは魔族でないと分からないし、これからも魔王様には迷惑をかけるだろうし、と梨奈は考えた。
水藻で遊んでいるジェリーが来た。
「番―、オイラも欲しいー」
「お前はいらんだろ」
「なんでー」
「自分で何とかできるだろ」
二人の言い合いを聞いていて気付いた。ソラノは面倒見がいい。
「トニョとソラノってどっちが上なの」
「トニョだ。俺はあいつを補佐しないとな」
やっぱり面倒見がいい。出来の良い副官タイプだ。魔領に戻ったらモテるんじゃないかな。
梨奈たちが浄化して行くうちに段々とウィンブルは大人しくなっていった。リザートイドたちに引かれて川の湿地帯に作られた生け簀に、次々と入って行く。そこで飼育して行けば毒素も完全に抜けて大人しくなるだろう。
ウィンプルの扱い方をリザートイドたちに習い、調理方法も習うという。
オフジェ川沿いに検問所と宿泊施設、そして川船と桟橋、ボート小屋なども作ってウィンプル料理を出すという計画も始動する。街道も順に整備されてゆけば賑やかになるだろう。
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