異世界転移したら断罪の現場でした。頼る人が婚約破棄した王子しかいません

七章 コルベルク公国編

閑話 コルベルクに残された人々

　ブルグンド帝国がノイジードル王国に負けた。
　そのことはコルベルク公国、いやブルグンド帝国属領コルベルクにとって衝撃的な事だった。元コルベルク公国よりさほど大きくない国が大国のブルグンドを倒してしまったのだ。

　コルベルク公国はブルグンドの属州になり下がっていたが、不意にその枷が無くなり放り出された。周辺諸国で一番警戒すべき魔族の国『アルモラヴィド魔族国』からは何も言って来ない。何も仕掛けて来ないのだ。

　ブルグンドに侵略された時にコルベルク公国は国の王たる者も、支えてきた重鎮も、兵士も、ほとんどを失っていた。国の地方に残る長的な人物は地方行政官として残された。ホルムもその一人であった。
　もちろん上にはブルグンド帝国から領の統治官らが派遣された。しかしある日、それらは『ブルグンドの悪夢』とかいう何か分からない出来事によって、コルベルクから去ってしまった。綺麗さっぱりいなくなった。

　そして誰もいないコルベルクに火事場泥棒のように戻って来たのが、大公の又従兄弟ルーカス・コルベルク侯爵であった。彼は誰もいない公国の公都カランタニアの勝手知ったる大公宮殿に居座った。
　居座ったが何をするでもない。国政を行おうにも宰相はいない、兵を派遣しようにも軍隊も将軍も近衛騎士さえいなかった。コルベルク侯爵は大公宮に居座って、ただ身内の者たちと遊び暮らすという事をした。元々公国で領地を持たず貴族年金をもらって遊んでいたのだ。彼にしたらその延長に過ぎない。

　そんな中、ノイジードル王国の第一王子が、旧コルベルクを領地として与えられ大公として着任するという。

　また戦だろうか。コルベルクの住民は怯えた。コルベルク侯爵の言いふらした噂がそれに拍車をかける。民は絶望の思いで戦々恐々として待った。待つ事しかできない。町も家も道も壊され、農地は荒れ果て、それでもその地にしがみ付いて生きて行くしかない。


　第一王子がノイジードル王国から来るなら、一番最初に通るのはホルムのいる町であった。ホルムは他の町の長を語らい、王子について調べた。
　ノイジードル王国での評判は二分された。文武に秀で、不幸を物ともせず跳ね返し、ブルグンドを倒した原動力となった人物という評価と、公爵家との婚約を破棄したバカ王子で、愛人と取り巻きとを引き連れ、偶然が重なってブルグンドが斃れた、ただのラッキーな軟弱男という評価と。

　ホルムたちは評価や噂を調べたが、まちまちで評価が定まらない。
　見極めかねている内に王子その人が来てしまった。

　王子というには少人数で、大層な軍勢も引き連れていない。まるで物見遊山のような軽々としたいでたちであった。身軽くホルムを呼び寄せ、話を聞く。
　引き籠った人々は炊き出しで呼び出され、あれよあれよと役割を与えられる。町を軽く整備し、食料と医薬品、衣料などを支給すると次の町へと旅立ってゆく。

　ホルムは町を息子に預けて、自身が付いて行くことに決めた。仲間もそれに倣うと言った。彼には惹き付ける何かがある。それを見極めなければ。

　そのまま付き従って公都迄来た。
　彼らはもう分かっている。見極める必要もないのだ。彼らは嬉々として仕えるべき人物に仕えている。その中にすでに組み込まれていることに安堵して。