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六章 戦争

28 内緒の結婚

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 ええと、どうしてこうなったの。

 梨奈とクリス王子は、こちらの中華ファンタジー風衣裳に着替え、神殿に連れて行かれて、魔王様と養子縁組を結び、厳かに殿下とお式を挙げた。
 途中で針で指を刺し、血を二、三滴採られたのは何だったんだろう。
 血判とか押してないし。

 すべての書類は滞りなく受理された。
 どこの国であっても書類は有効であり、神殿に保管される。
 つまり、本当に正式に梨奈は魔王様の養女になり、クリスティアン殿下の妃になったのだ。ただ、ノイジードル王国には知らせていないだけで。

「王国にはまだ、伏せておいた方が良いかもしれぬ」
 その言葉に殿下は頷いた。


 その後、またしても宴会が始まった。

「めでたいのう、嬢ちゃん飲みなされ」
 アバダー卿は、やっぱりお酒を勧めてくれる。コップにトプトプと注いでくれるお酒は透明で、フルーティで飲み口はいいのに体がほんわりとする。
「これ……、美味しい」
「そうじゃろ、そうじゃろ。北の産地でとれる吟醸じゃ」
 吟醸。何処かで聞いたような。
「あの、えーと、私のような者が、陛下の養女になってもいいんでしょうか」
 なった後で聞くのもアレだが、断れない雰囲気で流されてしまった。
「なあに、魔王は実力でなるものだし、リナちゃんが娘ならこの国も潤うだろう。誰も反対せんぞ」
 ドナティエン公爵は太鼓判を押してくれた。

「陛下って独身なのですか? お子様とかいらっしゃらないの?」
「昔は妃がいらっしゃったが、今は独り身だな。長命種は子が出来にくいからのう」
 ベルナドット伯が肉を切り分けて、梨奈の皿に盛りながら言う。
「前の奥方が三百くらい年上でさ、しばらく妃は要らないとかおっしゃってたねぇ」
 女候爵は噂話が好きそうだ。しかし、三百って聞き間違いじゃないのか。

「ジジは陛下に懸想していた。全然靡かないんで焦っていたんだ」
 魔族に魅了が効かないのか、魔王様に魅了が効かないのか。

「ステッド候爵は、三人のお子様がいらっしゃると」
「私が生んだのは一人だよ。見込みのありそうなのを拾ってねえ、眷属にしたのさ」
「けんぞく?」
「養子だねえ」
「あの、ジジが私を連れて来た時、湧き上がるみたいに眷属がうじゃうじゃと」
「そんなに眷属は出来ないよ。あの子の幻影だろう。そういうの得意だったからね。リナ様のジジへの怒りの鉄槌で、その他の連中はひれ伏したさ」
 ちょっと冷や汗が出る。

「子分さんとかは?」
「ジジは単独行動していたからね、バレないように。下っ端がブルグンド帝国に少しいたかもしれない」
「そうなんだ」
「まあ、あたし程度の眷属じゃ、高が知れてるけどね」
「そんなことはねえぞ。あんたんとこのは見込みがある」
 ベルナドット伯が褒める。二人は剣の筋から始まって、武器防具、果ては都市防衛の話で盛り上がった。


 魔王様と殿下は、教授も交えて、また国の話をしている。
「姉上が嫁いだ国には行ったことがない。手紙では広い湖と高い山があり、美しい所だと書いてあったが」
「風光明媚で、牧畜も盛んで食べ物も美味しい所だった」
 ダールグレン教授が思い出すように話す。
「この前のブルグンド帝国の侵攻でどうなったかのう」
 魔王様が美しいお顔を曇らせる。
「魔領から魔の森を抜けた、一番近い国であったが」

「あそこには温泉があるんだよ」
 教授が言うと、
「温泉ーーー!」
 ふいに、クリス殿下の首に梨奈がかじりついた。
「お前は、また飲んだのか。酔っぱらっているのか」
「温泉いこー」
「温泉など、湯が熱くて飲めぬぞ」
「入るー、温泉ー…」
 梨奈はクリス王子の身体からずるずると滑り落ちて、そのままくてと寝てしまった。

「余に抱かせよ」
 クリス王子が抱き上げる前に、魔王陛下が所望した。
「う、はい……」
 断れずに陛下が抱き上げるのを見る。
「まだ子供だの」
 王子は恨めしそうに、魔王様の膝の上ですやすやと眠る、先ほど結婚したばかりの新妻を睨んだ。
「いいな、私も……」
 教授がなぜ弾かれないのかと、口を尖らせる。

「フィンも、こやつに勝てばよい」
「私は剣がからっきしだからねえ」
 諦めて、魔王の側にのんびりと腰を下ろした。
「長く生きていると生きるのに倦んでくる。若い者を見ているのは楽しい」

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