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六章 戦争

26 再びの魔領

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 翌日、ミランダに着付けてもらったドレスは濃い青で、片側の胸から裾まで金糸で刺繍が施され、ブルーのレースが濃淡取り混ぜて襟や袖を覆っていて、派手ではないけれどかなり豪華だった。
 お姫様に見えるだろうか。

 迎えに来たクリスティアン殿下が小箱を取り出す。
 中は雫型のブルーダイヤの周りを小さなダイヤで装飾して薄青い金属のチェーンで繋いだネックレスだった。
「こんな豪華なものを……?」
 殿下はさっさとネックレスを梨奈につけて「よく似合っている」と、目を細める。梨奈の耳には相変わらずジェリーのピアスが付いている。
 彼は今日は魔法庁の騎士服を着ている。とてもかっこいい。

 玄関ホールに行くと、ダールグレン教授はすでに待っていた。
「いや、独占欲丸出しだねえ」
 このダイヤとドレスの色は殿下の瞳の色と同じだけど、そういう意味なのか。

「シドニーには見えるか」
 フォルカーが聞く。皆さまこの離宮にお泊りで、梨奈たちが帰って来るまで、この離宮で待つという。

「いや、かかっているのは分かるんだが。私はまだまだだな」
「何が?」と、ジョサイア。
「リナ嬢の認識阻害がだね」シドニーが頭を掻きながらジョサイアに説明する。
「え、そんなものが」ジョサイアはびっくりして、リナの侍女や侍従たちを見回すと、自分と同じ反応の者と、表情を変えない者とに別れた。
「うん、チラチラとだね」
「見えるのか、フォルカー」
 殿下の低い声に、フォルカーが慌てる。
「見えない、見えない。邪魔されているなと分かるだけ」
「ウーム、私もまだまだだな」

「殿下、何やってるんですか。他にする事あるでしょうに、昨日はさっさと引き籠って。取り敢えず、帰って来るまでに詰めておく事を──」
 スチュアートがダメ出しをする。
「そろそろ行きますよ」
 教授の一声で馬車に乗り込んだ。


  * * *

 魔領に行くのはダールグレン教授とクリス王子と梨奈、それにジェリーだ。
 一度に飛ぶ人数は、四、五人が限度だそうで、それも教授だからこそ出来る事だとか。転移魔法自体、非常に高位の魔法で、簡単にポンポン飛べたら、国の秩序も防衛も何もあったもんじゃないか。

 クリス殿下が梨奈の所に飛んだのは、ジェリーの細胞に描いた転移魔法陣のおかげで、ジェリーがそんじょそこらに居る訳がなく、そんなものに魔法陣を描ける人がそんじょそこらにいる訳もなく、さらに言えば魔法庁にあった、上階に上がる魔法陣も、高位の魔術師でないと起動できないそうだ。


 西の森の王都の外に着くと、ダールグレン教授が転移魔法を紡いで飛ぶ。この森は王都近辺で一番魔素が多い。転移に最適だという。

 四人で不毛の大地に降り立った。周りは草木が生い茂り、見違えるようだった。
「いや、見違えたな。魔法を間違えたのかと思った」
 教授が呆然とした様子で言う。
「ここは前に来たときは荒野だったな。草木一本生えていなかった」

 見回すと、真実の愛の墓標もちゃんと建っていた。
 割とシンプルなシルバーグレイの墓標で、ジジの髪色のマゼンタで『真実の愛の墓標』と書いてある。うん、知らない文字だけど読める。
 魔族の皆さんありがとう。
 早速、手を合わせた。

「やあ、嬢ちゃん。よう来たのう」
 ベルナドット伯が迎えに来てくれた。
「旦那と一緒かい。相変わらず仲がええのう」
 旦那って、ええと。
「無理なお願いを聞いていただいて、ありがとうございます」
 クリス殿下、さらっと流しているけどいいの?
「やや、そこに居るのはアンフィン殿か」
「やあ、久しぶりです、ベルナドット伯。陛下はお元気ですかな」
 教授はやっぱりお知り合いだった。


 魔領王都の王宮に行くと、麗しい魔王陛下が迎えて下さった。
「森林火災の時、しばらくユースフの所にお世話になったんだよ。あの後、戦になったんで私は魔領から出たんだ」
 エルフも棲んでいた森だったという。
「一緒に勉強をした仲だった。いいライバルだった」
 幼友達ってやつかしら。しかし、森林火災ってずいぶん昔の話だよね、二人とも幾つだろう、ずいぶん長生きだな。


 ジジの後任はもう任務に就いていた。
 新しい四天王はジョアンナ・ステッド女候爵という、蝦茶色の髪の大層大柄な女性で、胸も腰も腕も梨奈の二、三倍はありそうな程立派だった。
「アンタがやったのかい、こんなに小さいのにね」と、背中をバンバンと叩いてワハハと笑う、豪快な人だ。
「息子が三人いるんだよ。一人どうだい」と売り込んで、殿下と陛下に速攻で遠ざけられアハハと笑っていた。

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