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二章 規格外スライムとエロ王子
09 着ぐるみスライム
しおりを挟む「あのう……、アレが何だか分かりますか?」
王子はニコリと破壊力抜群の顔で微笑んで、ソレの方をチラリと見た。
「多分スライムの一種じゃないかな」
ゲームで出てくるお馴染みの最弱モンスターだ。
『オイラはースライムだけどぉー、ずっーとレアなスライムだー、うぃー』
しゃべるスライムか。レアだよね。
「あのう、モンスターってみんなしゃべるの?」
『オイラはー、たーくさんレベルアップしてぇー、スライムの希少種になったからぁー、何でも出来るんだー、うぃー』
クリス殿下に聞いたけどスライムが答えた。このスライムは酔っぱらっているようだ。殿下がもっと聞けと指で合図する。
(よっしゃ)
取り敢えずこのスライムのお陰で、たちまちの危機は回避できたと考えて、梨奈はスライムに質問する。
「あなたって、着ぐるみになれるの?」
『ちげーよぉー、ヒトはオイラのエサなんだー。オイラは主の指示に従ってー、化けているだけー』
人が餌? スライムもやっぱりモンスターなのか。襲い掛かられるのに、のんびり食事していてよかったのか? いや、その前に──。
(ヒトはオイラのエサ? 私はこのスライムのエサ!?)
梨奈は転移した時、着ぐるみの、このスライムの中だった!
『最近、こっちの人間食べ飽きちゃってぇー、主に、もっと美味しいの食べたいって強請ったらー、他の世界から召喚するつって、色々食べたけどー、美味しそうなの見つけたってー』
(え、今なんて言った、コイツ)
『抵抗がきつくて、なかなか召喚出来なかったケドー、やっと来たねー』
こいつ、人はエサとか言ったよね──!?
色々食べたとも言ったよね──!?
つまり、梨奈はコイツのエサになるために、召喚されたと……!?
召喚されてスライムのお腹の中? それってサイテー!!
梨奈の身体が怒りでわなわなと震える。目の前が真っ赤に染まる。
『やっぱー、手こずるだけあるよねー。あんたのフェロモンサイコーー』
あまりにふざけた召喚理由に、ボンっと頭が沸騰した。
「う、うるさい!! ぶっ殺すっ!!!!」
身体中に熱が集まるのが分かった。
(もっと、もっと、もっと!!!!)
沸騰した頭。身体中を熱が渦巻く。
(こんな害悪なヤツ、消滅させてやるっーー!!)
「リナ」
ふいに背中から抱きしめられた。
「うっ、離してよ! こんなボケ! こんなアホ! こんなクズ! 消してやる!」
「王宮が燃えてしまう」
「ヒック」
涙がポロポロこぼれる。口惜しくて。
『凄ーいーー熱量ーーー…………』
スライムはべちゃりとへたってしまった。
クリス殿下は梨奈を抱きしめて背中をトントンしながらスライムに聞いた。
「お前の主は誰なんだ?」
『主はジジ、淫魔ジジ・ハディだよー。でも契約印が消えちゃって、もう主じゃないけどねー』
「消えた?」
『酔っぱらった時にぃー、ぐずぐずでぐにゃぐにゃになってー、今ので溶けたー』
ドンドンドン!!
その時、部屋のドアが激しくたたかれた。
「クリスティアン殿下!!」
「護衛だリナ、向こうの部屋に」
「えっ、わっ、はい」
梨奈はそこにいたスライムをむんずと掴んでベッドルームに駆け込んだ。
それを見て王子はおもむろにドアを開ける。
「殿下、今、異常な熱量が感知されましたが」
「お怪我は」
「ああ、大事ない。ちょっとふざけてな」
美男の王子が護衛達に流し目をくれて、ドアを大きく開いて、部屋の中を見せる。部屋には誰もいない。梨奈の発した熱気の残骸が辺りに揺蕩っている。
王子の少し乱れたシャツと額に散った髪、上気してまだ冷めやらぬ頬の色は壮絶に色っぽかった。
「奥の部屋も見るか?」
護衛達は赤くなって咳払いをすると「失礼いたしました」とドアを閉める。
「まったく」チラリとこぼす声がした。
王子は息を吐きベッドルームに向かった。
ベッドルームに駆け込んだ梨奈は、手に持ったスライムを顔を顰めて放り出す。スライムはコロンとダンゴムシみたいに丸まって着地した。そのままころんころんしているスライムを見て息を吐く。
頭を冷やしてみれば、王宮を火事にする所だったのだ。そんなことをしたら今度こそ捕まって牢に入れられるだろう。危ない所だった。じっと自分の手を見る。
(私に何か力があるのだろうか)
先程はスライムを滅ぼせるほどに熱が高まった。あんなことが出来るのだろうか。自分の内側に何かないのか。梨奈は両手を握って(熱くなれー)と力を入れる。
しかし、じっと手を開いて見るが何も感じない。
火事を起こす気はないし、ノックの音ですっかり熱は冷めてしまった。
他の事をしてみよう。試しにステータスオープンとやってみようか。
梨奈は小さく「ステータスオープン」と言ってみた。しかし、何も現れなかった。あれだけ熱くなったのはいったい何だったのか。何も感じない。
「一体、何なのよー!」
部屋の中には梨奈とスライムだけだ。それなのにスライムはころんころんしているだけで、襲い掛かってくる気配もない。襲い掛かられても困るけれど。
クリス王子がベッドルームのドアを開けると梨奈が所在無げに佇んでいた。
「どうした?」
「スライムが──」
スライムはまだベッドルームの床を不規則にころんころんしている。
「こいつ魔物なんでしょ? 慌てて持って来たけど、襲い掛かって来ないのかしら」
「そうだな」
殿下はしばらく考えていたけれど、
「リナ、そのスライムに名前を付けてやったら」という。
「え」
「魔物は自分より強いと認めた相手に跪く。従魔契約して新たな主になればいい」
「こんな奴、いやよ」
梨奈はスライムを睨みつける。
スライムは床からピンクの顔をもたげて、プルプルした。
『主になってくれたらー、色々役立ってやるぞー』
(む。売り込む気か!?)
色々知ってそうだし、梨奈を召喚したなら、帰り方も知っているかもしれない。
短絡的に考えて名前を付けた。
「じゃ、じゃあ、ジェリー」
『はーい、オイラの名前はジェリーでーす。ご主人様ー、よろしくねー』
「何か馬鹿にされてるっぽい……」
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