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一章 異世界に転移しました
04 ヒロインでもない
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クリスティアン王子は着ぐるみを指して言う。
「私はこのような女性は好みではないのだが、最近ずっと一緒にいたようだし、今日も何か仕出かしてしまったのではないか?」
綺麗な青い瞳で、じっと梨奈を見る。
「遠慮なく言ってくれないか。君は率直に言ってくれそうな気がする。今、君に聞いておいた方が良さそうなんだ」
梨奈は少し迷った。しかし、こういう事ははっきり言った方が良い、どうせ一蓮托生なんだし、と思い直して単刀直入に告げた。
「あなたはホールの真ん中で、綺麗な銀髪のお嬢さんに婚約破棄を言い渡していらっしゃいました。私があなたの頭を叩いたのは、修道院に入れるとか他国に追放とか、余計なことをこれ以上言わないよう、お止めしたからなの」
王子は頭を抱えてしまう。
「クロチルド・ラフォルス嬢は公爵家の申し分のない令嬢だ。申し訳ない事をしてしまった。謝罪に行かねばならん」
「婚約破棄は間違いでしたって言えばいいのでは──?」
「いや、皆の前で口に出してしまった以上、もうどうしようもない」
クリスティアン王子は両手で顔を覆った。
自分の言った言葉を取り消せないとか、王族ってめんどくさいんだなと梨奈は思う。この男はヒロインに魅了されて婚約破棄をしたバカ王子ではないのか。割とまともなことを言っているが。首を傾げて王子を見る。
悪役令嬢が主人公の話が殆んどだし、令嬢はたいてい他の人とくっ付いて、バカ王子はざまぁされるけれど、この人はどうなるんだろう。断罪をしていないから少しはマシだろうか。
しかし王子様はすぐに立て直した。
「とりあえず王宮に行こう。父上に報告せねばならん」
(立ち直り早いじゃん)
王子は梨奈を振り返り聞く。
「リナはそれを着れるか?」
「コレ?」
手に持った着ぐるみを見る。
今更ドレスだ何だというのもめんどくさい。ドレスはひとりでは着られないと本で読んだ。下着もコルセットとか色々あるだろうし。
「侍女を呼べばドレスは手に入るが、君のことは誰も知らないから、その顔でここから出ると咎められるかもしれん」
「そういえばそうですね」
梨奈は此処では部外者の不審人物だ。異世界から来たと言って誰が信じるだろう。この王子は信じてくれたみたいだが。しばらくヒロインに成り済ますしかないのだろうか。着ぐるみを着たくはないが仕方がない。
「ちょっとやってみますね」
着ぐるみに腕を通して王子殿下にファスナーを上げてもらう。自分の身体にピタリと添った。何か着ている感があるけれど。
どういう仕掛けでこんなにぴったりなのか。中身が素っ裸だからか?
何となく理不尽で納得がいかない。
タグが薄くなった所為か、ブツブツという声がかなり小さくなっている。
「短時間だったら大丈夫そうです」
「そうか」
クリスティアン王子は頷いてドアに向かう。
ドアを開けて外の誰かと話をしているようだ。取り巻きだろうか「正気に戻るまで……」とか「家に帰って……」とか切れ切れに聞こえる。
王子が外で相談している間、部屋の鏡に気付いて見ると、ピンクの髪で可憐な感じの少女が映っていた。胸が大きい。
「ふーん?」
ドレスの胸元を引っ張って中身を見て、持ち上げてプルプルと揺らしていると、「行くぞ」と王子がげんなりした様子で声をかけた。
宮殿のようなパーティ会場の回廊をクリスティアン王子にエスコートされて出て立派な馬車に乗った。会場の外はもう暗かったが入り口は明々と照明が灯され、石畳の街路を街灯の薄暗い明かりが鈍く照らしている。
馬車の揺れとか、時折すれ違う人や馬車や馬、そして家々に灯る明かりが元の世界とかけ離れていて、違う世界にいると思わせてくれる。
これは異世界転移なのだろうか。
小説とかゲームとか漫画の世界に転移したのかもしれない。しかし、ゲームはしないし、昨夜寝る前に読んだ漫画の登場人物とは名前が違うし、大体、何で着ぐるみの中に入っていたんだろう。
考えてみればヒロインはこの着ぐるみで、自分はヒロインでさえない。
着ぐるみに負けた気がして最悪な気分だ。
帰りたい。帰れるのだろうか。帰れなかったらどうすればいいんだろう?
かなり不安になってきた。
「私はこのような女性は好みではないのだが、最近ずっと一緒にいたようだし、今日も何か仕出かしてしまったのではないか?」
綺麗な青い瞳で、じっと梨奈を見る。
「遠慮なく言ってくれないか。君は率直に言ってくれそうな気がする。今、君に聞いておいた方が良さそうなんだ」
梨奈は少し迷った。しかし、こういう事ははっきり言った方が良い、どうせ一蓮托生なんだし、と思い直して単刀直入に告げた。
「あなたはホールの真ん中で、綺麗な銀髪のお嬢さんに婚約破棄を言い渡していらっしゃいました。私があなたの頭を叩いたのは、修道院に入れるとか他国に追放とか、余計なことをこれ以上言わないよう、お止めしたからなの」
王子は頭を抱えてしまう。
「クロチルド・ラフォルス嬢は公爵家の申し分のない令嬢だ。申し訳ない事をしてしまった。謝罪に行かねばならん」
「婚約破棄は間違いでしたって言えばいいのでは──?」
「いや、皆の前で口に出してしまった以上、もうどうしようもない」
クリスティアン王子は両手で顔を覆った。
自分の言った言葉を取り消せないとか、王族ってめんどくさいんだなと梨奈は思う。この男はヒロインに魅了されて婚約破棄をしたバカ王子ではないのか。割とまともなことを言っているが。首を傾げて王子を見る。
悪役令嬢が主人公の話が殆んどだし、令嬢はたいてい他の人とくっ付いて、バカ王子はざまぁされるけれど、この人はどうなるんだろう。断罪をしていないから少しはマシだろうか。
しかし王子様はすぐに立て直した。
「とりあえず王宮に行こう。父上に報告せねばならん」
(立ち直り早いじゃん)
王子は梨奈を振り返り聞く。
「リナはそれを着れるか?」
「コレ?」
手に持った着ぐるみを見る。
今更ドレスだ何だというのもめんどくさい。ドレスはひとりでは着られないと本で読んだ。下着もコルセットとか色々あるだろうし。
「侍女を呼べばドレスは手に入るが、君のことは誰も知らないから、その顔でここから出ると咎められるかもしれん」
「そういえばそうですね」
梨奈は此処では部外者の不審人物だ。異世界から来たと言って誰が信じるだろう。この王子は信じてくれたみたいだが。しばらくヒロインに成り済ますしかないのだろうか。着ぐるみを着たくはないが仕方がない。
「ちょっとやってみますね」
着ぐるみに腕を通して王子殿下にファスナーを上げてもらう。自分の身体にピタリと添った。何か着ている感があるけれど。
どういう仕掛けでこんなにぴったりなのか。中身が素っ裸だからか?
何となく理不尽で納得がいかない。
タグが薄くなった所為か、ブツブツという声がかなり小さくなっている。
「短時間だったら大丈夫そうです」
「そうか」
クリスティアン王子は頷いてドアに向かう。
ドアを開けて外の誰かと話をしているようだ。取り巻きだろうか「正気に戻るまで……」とか「家に帰って……」とか切れ切れに聞こえる。
王子が外で相談している間、部屋の鏡に気付いて見ると、ピンクの髪で可憐な感じの少女が映っていた。胸が大きい。
「ふーん?」
ドレスの胸元を引っ張って中身を見て、持ち上げてプルプルと揺らしていると、「行くぞ」と王子がげんなりした様子で声をかけた。
宮殿のようなパーティ会場の回廊をクリスティアン王子にエスコートされて出て立派な馬車に乗った。会場の外はもう暗かったが入り口は明々と照明が灯され、石畳の街路を街灯の薄暗い明かりが鈍く照らしている。
馬車の揺れとか、時折すれ違う人や馬車や馬、そして家々に灯る明かりが元の世界とかけ離れていて、違う世界にいると思わせてくれる。
これは異世界転移なのだろうか。
小説とかゲームとか漫画の世界に転移したのかもしれない。しかし、ゲームはしないし、昨夜寝る前に読んだ漫画の登場人物とは名前が違うし、大体、何で着ぐるみの中に入っていたんだろう。
考えてみればヒロインはこの着ぐるみで、自分はヒロインでさえない。
着ぐるみに負けた気がして最悪な気分だ。
帰りたい。帰れるのだろうか。帰れなかったらどうすればいいんだろう?
かなり不安になってきた。
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