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二話 紙吹雪舞うシンデレラボーイ

02

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「話が違うじゃないか!!」
 之彦は佳奈美の許へ駆け込んだ。しかし、佳奈美の返事は冷たいものだった。
「いいじゃない、マグロになってればいいんだから。それともあなた、男を相手に出来るの!?」
「……」それは自信がなかった。
「ねえ之彦、もう引き返せないのよ。分かっているでしょう? それともあなた私を置いて逃げるの?」
 逃げると言われて、之彦は首を横に振った。
「いや、俺は君の為なら何でもするよ」
「嬉しいわ……、之彦さん」
 佳奈美に抱きつかれて之彦は脂下がったが、同時に、背中に千布のオトコの感触を思い出し、背筋を少し震わせた。


 * * *

 それからまた何度かデートをして、超豪華クルージングなるものに招待された。之彦は佳奈美のために、マグロになる覚悟をしなければならなかった。
 ライトアップされた橋。海から見る光の大陸。しかし之彦の心は浮かない。
「綺麗だね之彦。素敵な夜になりそうだね」
 千布の言葉ににっこり笑ったつもりが、唇の端が引きつっただけだったりする。

 そしてベッドの上。
「痛くない方がいいと思うんだ。君の顔が見えないのは残念だが」
 千布にそう言われて、うつ伏せになって腰を高く掲げる。千布が之彦の足の間に体を入れて、ソコを解しながら、
「力を抜いてー。大丈夫。痛くないよー」と小児歯科医みたいな事を言う。指が何本とか言いながら、前を的確に煽り、之彦の背や肩に優しいキスを送る。
「もう大丈夫だろう。楽にして、息を吸って吐いてー」
 千布は今度は産婦人科の医師になった。之彦が千布の言うままに、深呼吸を繰り返していると、息を吐き出した隙に、千布のモノが之彦の体の中にミシミシと押し入ってきた。
「そのまま息を吸って吐いてー」
 千布が確実に体を押し進めてくる。
 苦しい──。しかし、佳奈美を手に入れるために我慢しなければ。
 之彦の体を追い上げ、その動きに合わせて千布も動いた。ゆっくりと巧みに、二人で上り詰めてゆく。之彦を先にイかせ、自分も果てた後「愛しているよ」と囁いた。
 之彦は初めての体験にくたびれ果てて、返事が出来きずただ頷いた。

 之彦に素質があったのか、千布が巧かったのか、それとも、互いの相性が良かったのか、之彦は千布との行為にすぐに馴染んだ。
 千布は之彦を上に乗せて、胸の筋肉を愛でるのを好んだ。
「綺麗だ。君の体はとても綺麗だね」と口癖のように言った。
 そしていつも最後に「愛しているよ」と囁く。

「君との相性はいいねえ。もう離したくないよ」
 千布がそう言い出したのは、付き合って三ヶ月も過ぎた頃だった。
「ずっと一緒に居たいんだ。私の籍に入ってくれるね」
 待ちわびた言葉だった。
 之彦はそれを震える思いで聞いた。


 * * *

 式を挙げたいと千布が言って、二人はアメリカへ渡った。
 教会で白いタキシードを着て式を挙げる。付き添いの男は千布の友人とかいう、きつい目をした背の高い立派な紳士で、之彦の横にいる彼のパートナーは、之彦と同い年くらいの綺麗な男だった。
 ──はにかんで笑った顔が色っぽいと思って之彦は愕然とした。男を値踏みして見ている自分に……。

 その男と二人っきりになる機会があったので之彦は聞いた。
「あなたはあの人と?」
「ええ、俺は恋人がいたんですよ。まあ囚われていたのかな。あの人が現れて……、月だと言われました。一人じゃ輝けない。でも、まあ俺はこんな性格だし変わりようも無いのかな。今はもう、君はそれでいいなんて言うんですよ」
 これはのろけだなと之彦が思っていると「あなたも囚われているのじゃないですか」と綺麗な男は言った。
(囚われている? 何に……?)
 あの立派な紳士が来て、若い男を連れて行った。中々にお似合いで何処が月なんだ……と思って、又、そういう見方をする自分に愕然とするのだった。

 一週間のハネムーンを済ませ二人は戻った。


 * * *

 之彦が帰って来ると佳奈美が待っていた。

「うまくいってるようね」
「ああ、何とか」
「之彦、あなた空手出来るんでしょう?」
「もちろん」
「それで上手く殺れない?」
 之彦は一瞬、何の事を言っているのか分からなかった。
「つぼを押したらどうとかいうの無いの?」
 之彦は首を横に振った。喉が急にカラカラになって声が出なかった。
「仕方の無い人ねえ」
 佳奈美は小さな白い錠剤を出した。
「これ」
「な、な、な、何だこれ……?」
「毒じゃないわよ。お薬」
 之彦の怯えた様子に佳奈美は薄く笑った。
「これは催眠導入剤よ」
「……」
「千布さんがドライブに、長距離がいいわね、行く前に飲ませるの」
「ね、ね、眠って……」
「そう、居眠り運転による事故ってよくあるのよね」
「お、お、俺が……!?」
「そう、あなたが飲ませるの。砕いてお料理に混ぜて。大丈夫、味は無いから」
 佳奈美は、震える之彦の手にその薬を持たせた。
「け、警察に見つかるんじゃ……」
「大丈夫。手は打ってあるから」
 佳奈美は、どういう手が打ってあるのか言わなかった。之彦の顔を真っ直ぐ見て、言い聞かせるように言った。
「之彦、愛しているわ。もう引き返せないのよ。分かっているでしょう!? あなただって、何時までもあの男の相手をするのは嫌でしょう?」
 之彦は佳奈美から貰った薬を手に、何度も生唾を飲み込んだ。
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