姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました

拓海のり

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40 色事師(5)

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 そこに宿年の敵の如月義純が現れた。尊大な態度で伽耶人を顎から見下ろし、低い寂びのある声で言った。
「おい、久しぶりじゃないか。コイツがどうしてもっていうんで俺も譲歩してやったんだ。部屋は取ってある。行こうぜ」

「あ、葵クン?」
 何がどうなっているのか、とにかくこれは非常に不味い事態ではないだろうか。
「だから、4Pしたいって」
 それまでずっと黙っていた葵が口を開いた。葵の頬が染まっている。
「お互い見るだけだ。仕方がない。今回だけだぞ」
 義純が暖斗に念を押している。伽耶人は、カードキーを手に渋い顔をしている義純とその横で嬉しそうに頷いている暖斗を見比べた。過去の記憶が甦る。非常に不味い。あの時と同じ泥沼に陥りたくない。どん底を知っていれば人はそう思うだろう。

「わ、わ、私は……」
 伽耶人は逃げたかったがもう一つ余計な事を調べていた。
 実は如月義純は隠れヤクザだったのだ。表向きはすっぱり足を洗ってまともな事業に精を出しているようだし、葵はまだ大学生だから自分の腕を持ってすれば充分垂らし込めるから、陰で操ればいいと踏んでいたのだが、そんなに甘いものではなかったようだ。
 気配を感じて伽耶人は周りを見回した。なにやら厳つい感じの男達が増えているような気がする。気のせいだと思いたいが。


 何の為に今までこのテクニックを磨いたのか。大体男のソレは膨張率も違うし、角度の問題もある。伽耶人は自分の卑屈に逃げようとする心を鼓舞いした。
 しかし、一度葵を知って、義純と戦わなくてもいいと安易な道を見つけてしまうと、伽耶人の義純に対する競争心、闘気は必死になって奮い立たせようとしても萎えた。
「いやデス。どうせならスワップにしましょう」
 あくまでも正面から戦おうとしない伽耶人であった。義純はその言葉に憮然とするが、暖斗は無邪気に言い放った。
「いいよ、俺」
 瞳を輝かせて伽耶人を見ている。
「オイ、こら、はる」
 義純の方が慌てている。
「だって、よっぽど自信あるんだろ」
(自信はあります)
「希代の色事師なんだろ」
(まさにその通りデス)
「どんなモノ持ってるか興味あるんだ。俺もそのテクを教えてもらって義さんに勝ちたい。俺、義さんしか知らないからさ、義さんの有難味がよっく分ると思わないか」
 暖斗の言い草を伽耶人は呆れ半分に聞いた。

「君は如月に勝つ気ですか?」
「もちろん!」
 暖斗が胸を張る。ガキの言い分に伽耶人は脱力してしまう。義純は渋い顔でそっぽを向いている。どうやらこの跳ねっ返りの少年がいたく気に入っているらしい。
 伽耶人は義純と対等に言い合っている暖斗と大人しくそこにいる葵を見比べた。
(こっちの方がいい)

 そういえば昔から義純が選ぶ女はどこかしら気に入らなくて、いつも対等に張り合えるような別の女を選んでいた伽耶人だった。それ自体がすでにして動物的嗅覚から義純を避けているのだと気が付かない。直接対決を避けて身の安全を知らず知らずに図っていた。戦う相手は義純であるのにそれをしようとしない、同じ土俵に上がろうとしない、戦う前から負けていた。
 伽耶人はそれに気が付かない、いや、気が付こうとしなかった。しかし戦いの時は来たのだった。

「葵は俺の大事な後取りだ。ハンパな奴には任すことは出来ねえ」
 義純が鋭い視線で伽耶人を見ながら言う。
「だって、コイツは義さんと張り合う為に、俺と間違えて葵さんを誘拐したんだろ」
「お前が相手だったら、コイツは半殺しにしてコンクリート詰めだ。間違えてよかったな、滝」
 義純がニヤリと凄みのある笑顔を見せた。とても、はったりとは思えない。伽耶人の背筋が震えた。

 こいつはこんな奴だっただろうか。大学でも、何処でもドンと構えて鷹揚で、ガタイがよくて強そうだが喧嘩の噂など聞いたこともなくて、いいとこのボンボンにしか見えなかったが。
 どちらにしても逃げる事は出来ないようだった。
「わ、分りました。4Pでも何でも望むところデス」

 * * *

 そのままホテルのラウンジを出て四人で部屋に入った。怖げな影達は付いて来なかった。
 広いスイートルームのリビングは落ち着いた家具調度類が収まっていて、ベッドルームにはクィーンサイズのベッドが二つデンと置いてある。

 義純と暖斗はベッドルームに入るとためらいもせずに衣服を脱ぎ始めた。さすがに葵はどうしようと一瞬ためらったが、伽耶人を見てこうなったら自棄だとばかりに服を脱ぎ始めた。最後までぐずぐずしていた伽耶人が最後に服を脱いだ。

 それぞれのベッドに入って互いの相手に愛撫の手を施しはじめる。
 チラッと見た義純の背中に刺青を見つけて伽耶人の気持ちが萎えた。
 そんなものをいつ背中に背負ったんだろう。相変わらず筋肉の盛り上がったいいガタイをしているしと、チラチラとそちらに目が行く。
 そうなると怖いもの見たさか、自然と義純の股間に目が行った。そこには時ならぬ出来事に反って興奮して、そそり立ったモノがあった。
 膨張率の問題も、角度の問題も、見事なまでにクリアしている。

 伽耶人はガーーンとショックを受けた。しかし、負けを認めたくない。認めたら今までの自分の苦労は何だったのか。そこで違う方向に考える事にした。
 つまり、もしかしたら自分はこの男に憧れていたんじゃないだろうか。敵わないと知りつつ。だから敵視したのか。もしかしたら友人になりたかったのか。でも、この男の持っている雰囲気は孤高に近くて取巻きもいて近づけなかった。

 義純は少年の身体を自分の身体で巧みに隠して愛撫をしているが、その巨体の影から白い腕や足が飛び出して巨体に絡みつき、淫らな動きを見せると反ってエロティックで劣情を誘った。
 義純は時折暖斗の耳に低く囁いているがその声は聞き取れない。
「ああん、義さん……」と、嬉しそうに声を上げる高い少年の声だけが部屋に響いた。

 つと、葵が伽耶人の顔を自分の方に向けた。無心に自分を見るその顔は、過去に相手をしたどんな女の顔付きとも違った。

 伽耶人は実は男としたのは葵がはじめてであった。男と出来るだろうかと思っていたのだが、この前の感触は悪くなかった。胸はないし余計なモノが付いているが、義純の跡取りだというその事実が伽耶人の劣情を痛く刺激する。今は勝てなくてもこの男をモノにして。そうだ、まだ完全にモノにした訳ではなかった。伽耶人の興味は葵に移った。

 唇にキスをして、それをゆっくりと蝶のように身体全体にちりばめる。早く、遅く、軽く、自在に。葵の中心で少し息づいているモノにもキスを送った。葵の身体が反応して勃ち上がる。
「あ……、伽耶人……」
 恥じらいをもった低い声で呼ばれて、この声も悪くないと伽耶人は思う。そこにキスを送りながら蕾を解しにかかった。まだ硬い葵の身体をゆるゆると解しながら、身体のあちこちに唇を這わせて快感を高める。まるで羽のようなひどくソフトで優しいキスを繰り返す。相手がじれったくなるまで。剛の義純に対して柔であろうか。

 ソフトで優しいのは女を落とす為に必要なものだ。女は大事にされたがる。たまには荒々しく鷲づかみになるような恋に身も心も溺れたいと憧れつつ。
 葵が声を上げ始めると、暖斗と義純はしばらくそれをチラリチラリと横目に見ていた。それからお互いの顔を見つめあい、今度は本気で愛の行為に没頭しはじめた。


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