姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました

拓海のり

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 二人は睨み合った。音楽が始まる。
 負けるもんかと暖斗は思っている。音楽にあわせてクルクル回っている内にいつもより酔いが回った。
 何だかとってもいい気分。部長の顔が二重に見える。
 その顔を見ている内にあの醜悪なモノが頭に甦った。アレは見たくないなと暖斗は思った。
『ヨヨイノヨイ!!』
『ヨヨイノヨイ!!』
 見たくない気持ちが前面に押し出されて暖斗はパーを出した。
 部長のゲンコツが見えたような気がした。
「わーー!!」と歓声が沸きあがった。
「勝った!!」と暖斗はガッツポーズをした。しかし……。
「待った!! まだまだ!!!」と部長が引き止める。部長はパンツ一丁である。これ以上何を脱ぐというのか。
(こ、こいつ露出狂だった……)
 部長がパンツに手をかけた。
(み、見たくない……そんなモン)
 暖斗だけでなく客席の皆も固まった。

 その時である。塗り壁の大姐御の横でこれを見ていた片えくぼの男がササッと手を振った。すると固唾を呑んで成り行きを窺っていた部長に付いて来た男達が舞台に駆け上がり、パンツに手をかけた部長を担いで下ろした。
「わーーー!! バカモノ!! まだまだだーー!!」
 しかし大勢のガタイのいい男たちに押さえ込まれてしまった。
「バンビの勝ちだよ、文句はないね!」
 塗り壁の大姐御が勝負の決着を宣言して暖斗を抱き上げ脩二に渡した。
「姐さん!!」
「気持ち悪い……」
 脩二は暖斗を抱えてトイレに駆け込まねばならなかった。

 * * *

 義純が家に帰ると暖斗が出迎えに現れない。
「はるは?」
 脩二に問うと「姐さんは風邪を引いてお休みです」という返事だった。
「そうか」と何はともあれ愛妻の顔を見に行く義純だった。

 暖斗は布団の中で大人しく寝ていた。覗き込むと少しばかり酒臭い。枕元に玉子酒の冷めたものが少し残っていて、その所為かと大して気にも留めずに義純は眠っている暖斗の額に手を置いた。
「義さん……」
 暖斗が目を覚まして、どういう訳かその手にすがり付いてきた。頬が赤く染まり目が潤んで色っぽい。
「どうした、はる。風邪か?」
「うん……」
 大人しくクテッと横になっているが手だけは義純の手を離さない。
 義純は暖斗の布団の中に入った。
「義さん……、風邪がうつっちゃうよ」
「俺にうつせばお前が直るだろう。俺は丈夫だから平気だ」
 そう言って義純は暖斗の寝巻きを剥ぎ始めた。
「う……ん……、義さん……」
 義純に身体を弄られてすぐに暖斗の身体に火がついた。腕も足も自分から義純の体に絡めた。
「大丈夫か?」
 一応は風邪引きの暖斗の事を考えて気遣う義純だった。
「うん……平気……。義さん、もっと……」
 目元の染まった暖斗の顔が色っぽい。唇が濡れて誘う。柔らかい唇を軽く吸うと少し酒臭い吐息が転がり落ちた。義純は頬から喉元へそして胸へと唇を這わせた。
「ああん……義さん……」
 パンツの中の暖斗の息子に手を伸ばすと、すでに立ち上がっていた。それを扱いてやると「いや……、おっきいの……」とせがむ。大丈夫かなと思いつつも蕾を解してゆっくりと押し入ると「うふふ……、一杯……。義さんらー……」と義純にしがみ付いた。
 はて……? と思いながらもせっせと暖斗を揺さぶる義純だった。

 * * *

「おや、可愛い柄のネクタイですね」
 秘書の梅田に言われて義純は満更でもない。暖斗がバレンタインに無理をして義純に贈ってくれたのは、暖斗お気に入りのゲームのキャラクターの模様が入ったネクタイだった。
 あの後、暖斗やら脩二やら、果ては塗り壁の義純の父親に聞いて暖斗のバイトの件を知った。
 義純は烈火のごとく怒ってこってり皆を絞った。
「義さんをコレで縛っとくんだ」と言って暖斗は義純にネクタイを渡した。ネクタイを贈るという事はあんたに首っ丈という意味だと暖斗は知らないらしい。

 一方暖斗は脩二に義純からの手紙を渡されていた。
『はるへ』
(はいはい)
『お前の気持ちは嬉しいが、年に一度のことよりも日々の積み重ねが大事である』
(イベントだって大事だい)
『俺のことを思ってくれるなら、日々俺を大事にし花嫁修業に励む事こそが肝要。人に甘えず、身を慎み、危険な事に身を置かぬよう。俺に心配をかけぬことこそが嫁の勤めである』
(もう、うるさいな)
『義さん大好きと日々唱えつつ、ずっと我が側に居れるよう心して励むように。義純』
(ヘイヘイ)
 手紙を読んでいると側で脩二がぶつぶつと零した。
「全く、姐さんのお陰で若頭領にこっぴどく叱られやした」
 脩二に睨まれて暖斗は肩を竦めながらもエヘヘと小さく笑った。ちょっとだけど達成感がある。それが嬉しくて。


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