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24 稼ぐ(3)
しおりを挟む暖斗のバイトは二度目もうまく行った。義純にもばれずに済んで三度目の日がやって来た。
その日も二回暖斗の勝ちでジャンケンを終えて三回目になった時だった。どこかで見たような渋い男が他の客を押し退けてステージに上がってきた。
すでに一杯やって来たのか男の目は座っていた。暖斗は男の顔をまじまじと見て思い出した。その男の黒光りした刀身のように反り繰り返った一物を。男の顔よりソッチの方を良く憶えていた。
(ぐぇー! コイツ、俺を攫ったヤツじゃん!)
塗り壁の大姐御の方を見ると逃げろと手で合図している。相手が悪いらしい。
しかしここで逃げたら男じゃないよなと暖斗は思った。キッとその男を睨みつけて、胸にハートの模様のあるピンクのTシャツのあるかなきかの袖を捲り上げた。
男の方も暖斗をじっと眺めている内に気付いたらしい。ニヤリと笑って舌なめずりをした。
「バンビちゃんか。いい所で会ったねえ。オジサンが勝ったら何をくれるんだい」
「何もあげないよ。ワタシが勝つもん」
「まあまあ、お客さんこれはゲームですから……」
塗り壁の大姐御が割って入ろうとする。
「ママ。ゲームなら勝ち負けはあるだろう。ここは何かを賭けた方が盛り上がると思うんだがどうだ!」
男の言葉に男と一緒に繰り出して来たいやにガタイのいい連中が「わーー!! ブチョー!! 頑張れー!!」と盛大に拍手して盛り上げた。
(こ、こいつら……)
ヤバイと思ったが今更引き下がれない。部長と呼ばれた男の合図で様子を見ていたバンドが野球拳の演奏を始めた。演奏をバックミュージックにして部長が言い放った。
「私が勝ったらバンビちゃんを頂く。なんならここでナマのショーをしてもいいぞ!!」
「ギャー!! ヤレヤレーー!!」
「わぁーーー!! 頑張れーー!!」
部長の連れが一斉に手を叩いた。
(こいつ露出狂だったっけ……)
暖斗は思い出して内心げんなりしながら部長を見て「分かった」と頷いた。
音楽が大きくなって客が声を上げて歌いだした。他の客は何かのイベントかと思っているらしい。ナマショーと聞いて盛り上がる客もいる。皆の注目の中、部長と暖斗は踊りだした。
『アウト! セーフ! ヨヨイノヨイ!!』
はじめは部長の負けだった。
「ブチョー!! 頑張れー!!」
部長の連れの連中がだみ声の声援を送る。それに同調する客もいる。その中で部長と暖斗のじゃんけんは続く。
二回目は暖斗が負けた。思いっきり良くTシャツを脱ぐ暖斗を「ピュー!!」「ピュー!!」と客が囃した。
三回目は部長の負け。四回目は暖斗の負け。
ステージの上の勝負は段々白熱化してきた。一度勝負が付くたびに客席から野次と声援が交差する。
しかし、着ている服を見れば当然暖斗の方が不利だった。ブラジャーを取っ払った暖斗はさすがにヤバイと思った。
その時「もういい加減にしませんか」と白熱したステージに水をさした男がいた。
対戦相手の部長と呼ばれる男が連れて来た連中よりもガタイが良い。歳は三十くらいか。ステージにいる部長に話しかけた片頬にえくぼが浮かんだ。後ろに塗り壁の大姐御がいるところを見るとどうやら彼女が頼んだらしい。
ステージにいるワイシャツにズボン姿の部長は新たに現れた男を見て少し怯んだようだ。折角の獲物を前にどうしようかと獲物は離せず男の言葉も無視できず固まっている。
このまま新たに現れた片えくぼの男に任せたら逃げる事が出来るだろう。しかしそれでいいんだろうか。
暖斗は舞台から飛び降りた。
「逃げる気か!」部長が叫ぶ。
「逃げないよ!」
暖斗はそう答えを返して、客席にあったお客のグラスを引っ掴んで呷った。わっと上がる声。客の視線が集まる中、にっこりと笑って口を拭いステージに駆け上がった。
「続きをやろーぜ!!」
そう言ってバンドの方に合図する。
「うちのネコとどっちが気が強いかな」
片えくぼの男が苦笑して大姐御に言った。
上半身裸。白いしなやかな体は文字通り若鹿のようだ。下に穿いているのはパンストに提灯のようなピンクのパンツ。その細い身体で舞台の上を踊りまくって男に向き直った。
『アウト! セーフ! ヨヨイノヨイ!!』
ジャンケンは暖斗の負けだった。きゃー!! と上る悲鳴のような声。
「負けを認めるか」と部長が言った。
「慌てんじゃねえよ」
暖斗はそう答えて客席から背を向け、ゆっくりと振り返り、振り返り、提灯のようなパンツを脱いだ。そのパンツをクルリクルリと回して客席に放った。
わーー!!と叫んで客席は奪い合いになった。
暖斗はまだ下にパンツを穿いていた。
「よっしや!!」
部長が気合をかけて音楽がまた始まった。
『ヨヨイノヨイ!!』
今度は暖斗の勝ちだった。部長がワイシャツをかなぐり捨てる。
客席が静まり返った。その中で音楽だけが鳴り響く。
『ヨヨイノヨイ!!』
暖斗が負けてパンストを脱いだ。下にフリルのパンツだけである。
「負けたと言え」
「まだまだ」
音楽が鳴り響く。くるくる回る部長と暖斗。
『ヨヨイノヨイ!!』
『ヨヨイノヨイ!!』
暖斗の勝ちだった。どういう訳か歓声が湧き起こった。しかし部長は自分のズボンを脱ぎ捨てた。
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