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39 クラウゼの告白

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「鉱山の管理者に呼ばれまして、鉱山の横道に新たな鉱脈が見つかったと」
「魔石か、しかしこれは桁が多くないか」
 ミハウが持っているのは鉱山の収支報告書である。

 ミハウの領地の鉱山は石灰石の鉱山で、産出量は多くはないが良質とされる。鉱山のある町に石灰窯があって、生石灰を生産する。石灰は薬や肥料、セメントの原材料、砂糖の精製、製鉄など用途は幅広いが、産出量が多くないので出荷販売先はノヴァーク王国内のみであった。
 ミハウ個人の収入は国王をしていた時の副収入とか、鉱山など施設団体の所有者としての報酬とか、援助した商会の報酬とか、王子だった時の財産とかその他もろもろで決して少なくはないが現役ではないので多くもない。
 何かあれば当然ミハウの財産から持ち出しになるが、幸いなことに大きな災害は起きていない。領地の屋敷はミハウの収入で維持されている。


 家令は金庫から宝石箱のような四角い箱を取り出して、更に箱に付いた鍵を開ける。二重の金庫である。内部には三段のビロードの内張をした箱が入っており、親指から小指の爪くらいの大きさで燦然と輝く色取り取りの魔石が、色毎に選別されて傷が付かないよう並べられている。

「これはほんの一部でございます。小粒でございますが、傷もなく魔力含有量も多くて大変品質がいいようです。どうぞご確認ください」
 クラウゼは三段の仕切られた箱をミハウの机に並べる。ミハウは魔力測定器と属性鑑定装置を取り出して調べて行った。
「ほう、これは素晴らしいな」
 感嘆の溜め息を吐いた。魔石の魔力含有量が多いのだ。そして属性持ちの魔石も結構ある。
 魔石の魔力の容量は大きさに比例しない。大きな魔石でも内包する魔力が薄くて少ない物がある。反対に小さくても内包する魔力量が凝縮されて、とんでもなく多いものもあるのだ。この魔石たちのように。


「実は──」とクラウゼが話すには、鉱山の管理者に呼ばれて横穴の調査に行った際、小規模な落盤が発生したという。一緒に行った管理者とクラウゼが、横穴に入った途端、まるで狙ったように落ちて来た土石で、殆んど死んでしまった筈だが二人共生き返ったのだ。

「おい、しっかりしろ」と倒れている管理者に声をかけていると、すぐ後から鉱山の男達と副長が事故現場を見に来た。
「何だ、生きているじゃないか」
「殺せ!」
 何と、彼らは助けるどころか、逆にふたりを殺そうと、シャベルやつるはしを持って襲い掛かって来たのだ。だが彼らは二人に近付いた途端、血を流して死んでしまった。

 あとから調べると彼らは魔石を見つけて勝手に持ち出そうとしていたという。彼らの持ち物の中に魔石が隠してあったのだ。鉱山の管理者にバレてクラウゼを呼んだので二人纏めて殺そうと企んだらしい。

「どうも少し勝手に売却していたようで、それが収支の上乗せになりました」
「そうか。売却先は分かるか」
「石灰の販売先に声をかけたようです。めぼしい物は他国に逃亡してから売るつもりで、小麦粒くらいの屑魔石を売り払ったと仲間の男が自供しました」
「それでこの金額か」

 大きな魔石ではなく小さくて性能に優れていれば、良いデザインに出来たり、より小さな機器に使える。

(この時期に魔石が出たという事は、やはり帰るべき時期だったということか)
 魔石を見ながらミハウは覚悟を決めなければいけないと思う。

「私も皆さまのお仲間になったのでございましょうか?」
 薄々察していたクラウゼだったが確認して来る。
「そのようだな」じっと謹厳実直な男を見る。
「クラウゼが生きていて良かった。すべて放り出して逃げ出して、悪かった」
 ミハウが立ち上がって頭を下げるとクラウゼは慌てた。
「とんでもございません。私も混乱しておりましたし、こちらの仕事があってようございました」
「今度、視察方々その管理者に会いに行こう」
「それがよろしゅうございます」

 思えば王宮でみんなが死んだ時、片付けやらを手伝う者が後から現れた。この執事も離宮に居たと思っていたが、ミハウが帰ったと聞けば王宮のあの血みどろの現場に行ったかもしれない。
 セヴェリンの話を聞くに、一日以上気を失っている者もいるようだし他にも居るかもしれないと思う。あの時は気が動転していたし、きちんと調べたかどうかも危うい。二年経った後は領地も放り出して、クラウゼに任せっきりで逃げ出した。
 大概な主人だと頭を抱えたくなる。


  ◇◇

 一方、広いホールに集まってお茶を喫している一同はのんびり話し合っていた。
「なあ、あの家令のクラウゼという奴はいつから此処にいるんだ」
「そういえばミハウ様の昔からの執事で、そのまま家令になられたとか。随分長いですね。あの頃はバタバタしていましたし、いつ仲間になられたんですかね」
 エドガールの質問にクルトがケロリとした顔で答える。離れではこき使われているが、この屋敷ではお客様待遇である。縄張り意識の所為ともいう。
「こちらに帰るとクラウゼさんが居らっしゃるという認識でございますね。ミハウ様を預けて、のんびり出来るわーって、思いますね」
 マガリの言い草がそのまんま物語っている。

「あのう、もしかして仲間は十三人ですか?」
 ミハウは仕事だと聞いているので、一足先に皆のいるホールに降りて来たアストリが聞く。
「この国は眠ったような国なんですよ。呪われているような、妖精の国のような、おとぎの国に迷い込んだらこんな所だったとか」
 廉価本好きのマガリが説明する。
「まあ、そうなのですか」
「だから、まだ仲間はいるかもしれないのです。王宮で衛兵に斬られて逃げ惑いましたし、セヴェリンさんみたいに後で息を吹き返した方もいるかもしれません。きっと、妖精に隠されて戻って来たと普通に生活してそうです」

「セヴェリン殿の存在は我々の説を覆す新発見だな」
 モンタニエ教授が頷くと、ブルトン夫人が「大聖堂にも、後で蘇った方がいるかもしれませんね」と考え込むように呟く。
「まあすぐにとはいかないだろうが、二十年も経てば大丈夫だろう。その頃、一度行って調べてみるか」エドガールが申し出ると「私も連れて行って。侍女や護衛が生きていないか知りたいわ」とマリーが頼み込む。

「俺らの仲間はいないと思うな」セヴェリンが呟く。
「そうだな、血なんてそんな遠くに飛ばないし、帝国の奴らに管理されて、ターゲットの近くに居る奴らだけで」ジャンも頷く。
「ほう、飛距離というか血の強さは、宿主によって違うかもしれんな。新たな仮説だ。これは直ぐに調べられるか」
 ホクホクと目を輝かす教授に他の者は互いの顔を見合わせる。

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