修道院で生まれた娘~光魔法と不死の一族~

拓海のり

文字の大きさ
32 / 60

32 帝国軍にいた仲間

しおりを挟む

 仲間かもしれない彼らがどこにいるか分からない。しかし彼らは帝国の兵士達と一緒には戦わない。傷を負えば一緒にいる味方にも被害が出るからだ。


 そして次の日、マガリとクルトが帝国の兵士から思わぬ情報を仕入れて来た。
「何か焦ってるんですかね」と魔獣が拾ってきた情報を、作戦会議の席で将校たちに見せたのだ。それによれば帝国の将兵たちは国内に問題を抱えていて、この遠征は早期に終わるものと踏んでいたらしい。
 しかし実際は決戦場で双方睨み合ったままで、動きもない。そうなれば遠征している方が不利だろう。元々出城で食料は辺境領から仕入れていた。流通が止まり帝国からは山越えで遠い。

『いつまでこんな所に閉じ籠っているんだ』
『なら、お前ら行ってこい』
『冗談だろ、俺っち二人しかいねえのに』
『辺境兵の奴ら逃げて、遠くからしか攻撃しないんだぜ』
『敵も味方も分からぬ殺人兵器など役に立たぬな』
『散々こき使っておいて、くそう』

 クルトとマガリはそろっとお酒の付け届けを城兵に差し出したらしく、酒宴になって、城兵たちの不平不満の声が続く。その隅に、毒見で呼ばれた仲間らしき者がいる。

「相手は二人か」
「首輪をしているようだが」
「隷属の首輪だろうか」
「待遇が悪そうだな」
 五人は作戦会議場の隅に固まって、帝国側にいる仲間について話す。

「帝国にいる教授たちは大丈夫なのか? 捕まらないか?」
 今更ながらミハウが心配するとエドガールが説明した。
「帝国は一枚岩ではない。今の皇帝は老齢で妃は多いし皇子も多い。長子は側妃の子で、正妃の子は三男で足の引っ張り合いらしい」
「それは知っているが、モンタニエ教授は変わり者で派閥に入っていないと聞いている。余計な事をして目を付けられたりしていないか?」

「いや、あの女魔道具士だ。女性だと蔑ろにされて、作品を盗られたり、休む暇もなくこき使われたりと、酷い目にあったようだ。今はお返しとばかりに、昔の伝手から女同士の情報を手に入れているらしい」

 アストリは大柄の赤い髪の女性を思い出す。自信に溢れた女性に見えたがそんな過去があったらしい。
「前は皇帝も元気だったし帝国も盤石だったが、この最近、急に衰えたようだと聞いたぞ」
 その言葉に作戦会議をしていた辺境の将校たちがチラリとこちらを見る。

 アストリはミハウの側でローブを被って控えている。そういえば言われるままに様々な薬を作っていた。薬効が分かって薬の売れる先が分かれば、そういう事も分かるのだと気付く。多分あの魔道具士も色々な物を作っているのだろう。

「敵が焦っているようなら誘い込んでみるか」
 将校のひとりが提案して、皆が身を乗り出す。
「乗るかな」
「まあ、動かねばそれでもよい」
「作戦は──?」
 辺境伯の作戦会議はたけなわであった。


  ◇◇

 辺境伯は次の日の夜動いた。リュクサンブール城の南方向に疎らな木の生えた雑木林が広がっている。リュクサンブール家の者達がいた頃は、果樹やオリーブなどを植えて手入れをしていたようだが、今は見るも無残に荒れ果てている。

 城を建て家を建て、人が集まりその地に根付き繁栄する。人の営みの根底を覆すものが戦争だ。土地を奪って人を奪って、そして更なる繁栄を願うならまだしも、無骨な砦に使い、廃墟として置き去りにする。

 辺境伯は軍を二手に分け、片方をその雑木林を抜けて、敵陣の後ろ側に出て挟み撃ちにする戦法を取った。城兵は極端に少ない。城を出て追いすがってもあっさり返り討ちに出来る程の人数だ。だが、辺境伯の派兵に気付いた城兵はここぞとばかりに仲間と思しき彼らを派遣した。恰好の獲物であった筈だ。


 しかし、辺境伯の軍に襲い掛からんとした彼らの周りを、突如結界が張り巡らされる。捕らえられたかと思ったが中に人がいる。片手で足りる程に少数だ。
「馬鹿め」
 男は携えた剣を抜き指を切って走り出した。正面に剣を抜いて佇んだ男がいる。しゃにむに斬りかかった。弾かれてたたらを踏む。ここまでは予想通りだった。

 しかし、男の血を浴びてもその男は平然としている。
「むっ、何故死なない!」
「お前、やっぱり仲間か」
「仲間ぁー? へえ? 俺ら以外にいるんだ、へえ」
 後ろから来た大きな男が彼を押さえる。
「何をするんだ」
 正面の男があっさり、実にあっさり彼の首輪を外してくれた。
「へっ?」
 あれほど悩まされた隷属の首輪が、あっさりと外れてぽとりと地面に落ちた。男は信じられない思いで自分の首を探る。

 もう一人の男はその隙に一番弱そうな者に向かった。ローブを着た細っこい弱っちそうな者を羽交い絞めにしてナイフをちらつかせる。
「おい、仲間を──」と脅そうとした。
『プティ・トネール』
 ドッシャン!
「がっ! ぐががが……」
 小さな雷撃が男の頭を直撃して、男は痺れて倒れた。
「すごいぞ、アストリ。無詠唱だ」
「はい、出来ました」
 ミハウがアストリを褒めて、痺れて転がっている男の首輪を外す。男の身体を蹴って離し「怪我はないか?」とアストリの身体を調べる。
「大丈夫です。ついでに浄化しますね」
 頷いたミハウに頷き返して、真剣な表情で手を組んだ。

「地に封じられし巨人よ、光の触媒として蘇り、浄化せよ『ピュリフィエ』」

 ゴゴゴゴゴゴ…………
 大地より湧き出た巨人は、前回よりかなり大きかった。

「わああ、何だ、これはぁぁぁーーーー!」
 巨人は両手を広げ、結界の中を光が渦巻いた。
 転がっていた男も目を覚まし「ぎゃああーー!」と恐怖の声を上げる。

 結界の中をすさまじい浄化の嵐が吹き荒れ、結界の外に流れて行った。

「流れるような連帯でございますね」
「いや、聞いていたがこれ程とは──」
「浄化だけです」
 アストリが済まなさそうに言うが皆消え去って行く巨人を呆然と見るのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳―― それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。 公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。 だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、 王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。 政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。 紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが―― 魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、 まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。 「……私が女王? 冗談じゃないわ」 回避策として動いたはずが、 誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。 しかも彼は、 幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた―― 年を取らぬ姿のままで。 永遠に老いない少女と、 彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。 王妃になどなる気はない。 けれど、逃げ続けることももうできない。 これは、 歴史の影に生きてきた少女が、 はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。 ざまぁも陰謀も押し付けない。 それでも―― この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...