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32 帝国軍にいた仲間
しおりを挟む仲間かもしれない彼らがどこにいるか分からない。しかし彼らは帝国の兵士達と一緒には戦わない。傷を負えば一緒にいる味方にも被害が出るからだ。
そして次の日、マガリとクルトが帝国の兵士から思わぬ情報を仕入れて来た。
「何か焦ってるんですかね」と魔獣が拾ってきた情報を、作戦会議の席で将校たちに見せたのだ。それによれば帝国の将兵たちは国内に問題を抱えていて、この遠征は早期に終わるものと踏んでいたらしい。
しかし実際は決戦場で双方睨み合ったままで、動きもない。そうなれば遠征している方が不利だろう。元々出城で食料は辺境領から仕入れていた。流通が止まり帝国からは山越えで遠い。
『いつまでこんな所に閉じ籠っているんだ』
『なら、お前ら行ってこい』
『冗談だろ、俺っち二人しかいねえのに』
『辺境兵の奴ら逃げて、遠くからしか攻撃しないんだぜ』
『敵も味方も分からぬ殺人兵器など役に立たぬな』
『散々こき使っておいて、くそう』
クルトとマガリはそろっとお酒の付け届けを城兵に差し出したらしく、酒宴になって、城兵たちの不平不満の声が続く。その隅に、毒見で呼ばれた仲間らしき者がいる。
「相手は二人か」
「首輪をしているようだが」
「隷属の首輪だろうか」
「待遇が悪そうだな」
五人は作戦会議場の隅に固まって、帝国側にいる仲間について話す。
「帝国にいる教授たちは大丈夫なのか? 捕まらないか?」
今更ながらミハウが心配するとエドガールが説明した。
「帝国は一枚岩ではない。今の皇帝は老齢で妃は多いし皇子も多い。長子は側妃の子で、正妃の子は三男で足の引っ張り合いらしい」
「それは知っているが、モンタニエ教授は変わり者で派閥に入っていないと聞いている。余計な事をして目を付けられたりしていないか?」
「いや、あの女魔道具士だ。女性だと蔑ろにされて、作品を盗られたり、休む暇もなくこき使われたりと、酷い目にあったようだ。今はお返しとばかりに、昔の伝手から女同士の情報を手に入れているらしい」
アストリは大柄の赤い髪の女性を思い出す。自信に溢れた女性に見えたがそんな過去があったらしい。
「前は皇帝も元気だったし帝国も盤石だったが、この最近、急に衰えたようだと聞いたぞ」
その言葉に作戦会議をしていた辺境の将校たちがチラリとこちらを見る。
アストリはミハウの側でローブを被って控えている。そういえば言われるままに様々な薬を作っていた。薬効が分かって薬の売れる先が分かれば、そういう事も分かるのだと気付く。多分あの魔道具士も色々な物を作っているのだろう。
「敵が焦っているようなら誘い込んでみるか」
将校のひとりが提案して、皆が身を乗り出す。
「乗るかな」
「まあ、動かねばそれでもよい」
「作戦は──?」
辺境伯の作戦会議はたけなわであった。
◇◇
辺境伯は次の日の夜動いた。リュクサンブール城の南方向に疎らな木の生えた雑木林が広がっている。リュクサンブール家の者達がいた頃は、果樹やオリーブなどを植えて手入れをしていたようだが、今は見るも無残に荒れ果てている。
城を建て家を建て、人が集まりその地に根付き繁栄する。人の営みの根底を覆すものが戦争だ。土地を奪って人を奪って、そして更なる繁栄を願うならまだしも、無骨な砦に使い、廃墟として置き去りにする。
辺境伯は軍を二手に分け、片方をその雑木林を抜けて、敵陣の後ろ側に出て挟み撃ちにする戦法を取った。城兵は極端に少ない。城を出て追いすがってもあっさり返り討ちに出来る程の人数だ。だが、辺境伯の派兵に気付いた城兵はここぞとばかりに仲間と思しき彼らを派遣した。恰好の獲物であった筈だ。
しかし、辺境伯の軍に襲い掛からんとした彼らの周りを、突如結界が張り巡らされる。捕らえられたかと思ったが中に人がいる。片手で足りる程に少数だ。
「馬鹿め」
男は携えた剣を抜き指を切って走り出した。正面に剣を抜いて佇んだ男がいる。しゃにむに斬りかかった。弾かれてたたらを踏む。ここまでは予想通りだった。
しかし、男の血を浴びてもその男は平然としている。
「むっ、何故死なない!」
「お前、やっぱり仲間か」
「仲間ぁー? へえ? 俺ら以外にいるんだ、へえ」
後ろから来た大きな男が彼を押さえる。
「何をするんだ」
正面の男があっさり、実にあっさり彼の首輪を外してくれた。
「へっ?」
あれほど悩まされた隷属の首輪が、あっさりと外れてぽとりと地面に落ちた。男は信じられない思いで自分の首を探る。
もう一人の男はその隙に一番弱そうな者に向かった。ローブを着た細っこい弱っちそうな者を羽交い絞めにしてナイフをちらつかせる。
「おい、仲間を──」と脅そうとした。
『プティ・トネール』
ドッシャン!
「がっ! ぐががが……」
小さな雷撃が男の頭を直撃して、男は痺れて倒れた。
「すごいぞ、アストリ。無詠唱だ」
「はい、出来ました」
ミハウがアストリを褒めて、痺れて転がっている男の首輪を外す。男の身体を蹴って離し「怪我はないか?」とアストリの身体を調べる。
「大丈夫です。ついでに浄化しますね」
頷いたミハウに頷き返して、真剣な表情で手を組んだ。
「地に封じられし巨人よ、光の触媒として蘇り、浄化せよ『ピュリフィエ』」
ゴゴゴゴゴゴ…………
大地より湧き出た巨人は、前回よりかなり大きかった。
「わああ、何だ、これはぁぁぁーーーー!」
巨人は両手を広げ、結界の中を光が渦巻いた。
転がっていた男も目を覚まし「ぎゃああーー!」と恐怖の声を上げる。
結界の中をすさまじい浄化の嵐が吹き荒れ、結界の外に流れて行った。
「流れるような連帯でございますね」
「いや、聞いていたがこれ程とは──」
「浄化だけです」
アストリが済まなさそうに言うが皆消え去って行く巨人を呆然と見るのだった。
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