11 / 15
11 色魔法・赤
しおりを挟む倒したイソガニの周りを調べてラッジが聞く。
「すごいな。こんな石を簡単に投げれて。石をたくさん『吸収』したのか?」
拳大くらいの大きさの石だった。
「いや、一個入れたら無くならないんだ。大きさは変えられる」
ラッジが目を丸くしている。そして首を傾げて考えた。
「『吸収』って何でも出来るのか?」
「ええと、生きている奴以外は大丈夫だと思うけど、大きなものは知らない」
転生の醍醐味・番外編、持ち運びに苦労しないアイテムボックスは、かなりたくさん入るようだが『色魔法・黒』の容量は確かめていない。水とか石の無限湧きとか恐ろしいのだが、枠としてはひとつだけだし。
「そっか、ちょっとそこに居て」
「うん」
疑いもせずにそこに立つレニー。
「坊ちゃん」
ラッジが魔法の呪文を唱え始めて、エリアスが引き留めようとするが。
「その身に纏え!『アースウオール』『キュアガード』『エアシールド』」
ラッジの魔法の発動は早くて、レニーの身体を色の違う魔法が包んだ。
「『吸収』できるか?」
「え、うん。やってみる。『吸収』」
レニーの身体を覆っていた魔法が消えた。
「『アースウオール』『キュアガード』『エアシールド』が『排出』出来る。ラッジ、これ」
「どうだ、使えるか」
「うん、やってみる。『排出』キュアガード」
レニーの身体を水色のキラキラしたものが覆った。
「うわ、すごい。ラッジありがとう」
レニーはラッジに抱きついた。
「ちょっと待て、ラッジは三属性魔法が使えるのか」
エリアスが睨んでいる。
属性魔法が三つも使えるって、ラッジって貴族……なのか?
ラッジに抱きついたまま、その顔を見上げる。なめらかな浅黒い肌、しなやかな手足、整った顔、綺麗な緑の瞳。
エリアスの言葉に答えずに、ラッジはレニーの頭をポンポンと撫でる。
「凄いのはお前だ、俺は行けないからな」
その言葉でラッジが心配して、レニーの様子を見に来たのが分かった。
「頼むぞ」とエリアスに向かって言う。
「分かっている」とエリアスが睨む。
「無事に帰って来い」
レニーの耳元で、小さな声でラッジが囁く。
「うん」
ラッジの腕の中で頷いた。
* * *
その日の夕飯は、ラッジと山分けにした魔魚と黒いイソガニだった。
「水から茹でるんだよ。足は焼いちゃおうか。鍋もいいなあ」
料理人も喜んでいる。カニは食べるようだ。そう言えばたまに食卓に出る。
「坊ちゃん、グラタンにサラダ、クリームコロッケも作りますね」
「魚は白身なのでポワレとムニエル、マリネも作ります」
コンロの側で料理人たちと色々話し合いながら出来る事を手伝った。
『色魔法・赤』を覚えました。
(へ、黒の次は赤か? まあいいや、カニを食べよう)
大鍋で茹でたカニをみんなで食べた。
* * *
レニーが住んでいる港町デルマスは、昔からシノン伯爵家が治めるシノン領だった。父のモーリスはシノン伯に高い税金を払っている。シノン伯の領地は広く領都はピケティ、港町デルマスから馬車で四日の距離だ。
領都の東に大きなピケ川が流れている。橋は無く、渡しが1か所あって、渡れば強大なザルデルン帝国の版図である。ドーファン王国とザルデルン帝国が直接国境を接しているのはここと、アロン辺境伯領だけである。
レニーは父親と一緒に馬車に乗り、初めてデルマスの外に出た。他に商売用の荷馬車がニ台で、父の執事とエリアス、そして御者が三人と護衛が五人の旅である。
緩くうねって流れるピケ川の支流を見ながら、のんびり馬車の旅であった。道は途中までは整備されていたが、西に王都に向かう道と別れて、東に向かうピケティに行く道に入ると、狭くなり整備もされていなくて馬車が揺れまくった。
王国の国力はある、しかし、シノン伯はあまり財政状況が良くない、もしくは他の事に金を使っている。レニーはそう考える。家庭教師シャンペイユ先生の課題だった。
「街と建物、道路、農地そして人をしっかり見て来るのです。あなたの感想を纏めて提出してください」
鍛錬のルドン先生といい、シャンペイユ先生といい、なかなか良い教師だと思う。見つけて来た父親の顔の広さと、人を見る目の確かさを称賛するべきか。
レニーにはなかなか厳しい教師たちだったが。
馬車は道中は何事もなく無事にシノン領都ピケティに着いた。街はデルマスの賑やかさに比べて大人しい感じだった。静かというか、活気がないというか、成熟した街というか。繁華街は娼館と飲み屋街が賑やかだった。
その日はピケティで積み荷を降ろして、宿に泊まった。
2
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
転生先がBLの世界とか…俺、聞いてないんですけどぉ〜?
彩ノ華
BL
何も知らないままBLの世界へと転生させられた主人公…。
彼の言動によって知らないうちに皆の好感度を爆上げしていってしまう…。
主人公総受けの話です!((ちなみに無自覚…
転生したら溺愛されていた俺の話を聞いてくれ!
彩ノ華
BL
不運の事故に遭い、命を失ってしまった俺…。
なんと転生させて貰えることに!
いや、でもなんだかおかしいぞ…この世界…
みんなの俺に対する愛が重すぎやしませんか…??
主人公総受けになっています。
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
お迎えから世界は変わった
不知火
BL
「お迎えに上がりました」
その一言から180度変わった僕の世界。
こんなに幸せでいいのだろうか
※誤字脱字等あると思いますがその時は指摘をお願い致します🙇♂️
タグでこれぴったりだよ!ってのがあったら教えて頂きたいです!
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
少女漫画の当て馬に転生したら聖騎士がヤンデレ化しました
猫むぎ
BL
外の世界に憧れを抱いていた少年は、少女漫画の世界に転生しました。
当て馬キャラに転生したけど、モブとして普通に暮らしていたが突然悪役である魔騎士の刺青が腕に浮かび上がった。
それでも特に刺青があるだけでモブなのは変わらなかった。
漫画では優男であった聖騎士が魔騎士に豹変するまでは…
出会う筈がなかった二人が出会い、聖騎士はヤンデレと化す。
メインヒーローの筈の聖騎士に執着されています。
最上級魔導士ヤンデレ溺愛聖騎士×当て馬悪役だけどモブだと信じて疑わない最下層魔導士
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
召喚されたアラサー元ヤンはのんびり異世界ライフを満喫……できません
七夜かなた
BL
門脇紫紋(かどわきしもん)(30歳 元暴走族総長 現農業従事者)は、偶然歩道橋の上ですれ違った女子校生と共に異世界に転移してしまった。
どうやら彼女は聖女として召喚されたらしい。
そして彼本人のステータスは、聖女を護る聖騎士になっていた。
仕方なく自分の役割を受け入れ、騎士として過ごすことになったが、最初は彼のことを警戒していた人々も、次第に彼に魅了されていく。昔から兄貴肌で、男に好かれていた彼の元には彼を慕う人々が集まってくる。
しかし、彼の思う好意と、相手の好意は何だか違うみたいで…
イラストは樹 史桜(fumi-O)(@fumio3661)さんがXで上げていた名もなきスーツメンを贈呈してもらいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる