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11 色魔法・赤

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 倒したイソガニの周りを調べてラッジが聞く。
「すごいな。こんな石を簡単に投げれて。石をたくさん『吸収』したのか?」
 拳大くらいの大きさの石だった。
「いや、一個入れたら無くならないんだ。大きさは変えられる」
 ラッジが目を丸くしている。そして首を傾げて考えた。
「『吸収』って何でも出来るのか?」
「ええと、生きている奴以外は大丈夫だと思うけど、大きなものは知らない」

 転生の醍醐味・番外編、持ち運びに苦労しないアイテムボックスは、かなりたくさん入るようだが『色魔法・黒』の容量は確かめていない。水とか石の無限湧きとか恐ろしいのだが、枠としてはひとつだけだし。

「そっか、ちょっとそこに居て」
「うん」
 疑いもせずにそこに立つレニー。
「坊ちゃん」
 ラッジが魔法の呪文を唱え始めて、エリアスが引き留めようとするが。
「その身に纏え!『アースウオール』『キュアガード』『エアシールド』」
 ラッジの魔法の発動は早くて、レニーの身体を色の違う魔法が包んだ。

「『吸収』できるか?」
「え、うん。やってみる。『吸収』」
 レニーの身体を覆っていた魔法が消えた。
「『アースウオール』『キュアガード』『エアシールド』が『排出』出来る。ラッジ、これ」
「どうだ、使えるか」

「うん、やってみる。『排出』キュアガード」
 レニーの身体を水色のキラキラしたものが覆った。
「うわ、すごい。ラッジありがとう」
 レニーはラッジに抱きついた。
「ちょっと待て、ラッジは三属性魔法が使えるのか」
 エリアスが睨んでいる。
 属性魔法が三つも使えるって、ラッジって貴族……なのか?

 ラッジに抱きついたまま、その顔を見上げる。なめらかな浅黒い肌、しなやかな手足、整った顔、綺麗な緑の瞳。

 エリアスの言葉に答えずに、ラッジはレニーの頭をポンポンと撫でる。
「凄いのはお前だ、俺は行けないからな」
 その言葉でラッジが心配して、レニーの様子を見に来たのが分かった。
「頼むぞ」とエリアスに向かって言う。
「分かっている」とエリアスが睨む。
「無事に帰って来い」
 レニーの耳元で、小さな声でラッジが囁く。
「うん」
 ラッジの腕の中で頷いた。


  * * *

 その日の夕飯は、ラッジと山分けにした魔魚と黒いイソガニだった。
「水から茹でるんだよ。足は焼いちゃおうか。鍋もいいなあ」
 料理人も喜んでいる。カニは食べるようだ。そう言えばたまに食卓に出る。
「坊ちゃん、グラタンにサラダ、クリームコロッケも作りますね」
「魚は白身なのでポワレとムニエル、マリネも作ります」
 コンロの側で料理人たちと色々話し合いながら出来る事を手伝った。

『色魔法・赤』を覚えました。

(へ、黒の次は赤か? まあいいや、カニを食べよう)
 大鍋で茹でたカニをみんなで食べた。


  * * *

 レニーが住んでいる港町デルマスは、昔からシノン伯爵家が治めるシノン領だった。父のモーリスはシノン伯に高い税金を払っている。シノン伯の領地は広く領都はピケティ、港町デルマスから馬車で四日の距離だ。

 領都の東に大きなピケ川が流れている。橋は無く、渡しが1か所あって、渡れば強大なザルデルン帝国の版図である。ドーファン王国とザルデルン帝国が直接国境を接しているのはここと、アロン辺境伯領だけである。

 レニーは父親と一緒に馬車に乗り、初めてデルマスの外に出た。他に商売用の荷馬車がニ台で、父の執事とエリアス、そして御者が三人と護衛が五人の旅である。

 緩くうねって流れるピケ川の支流を見ながら、のんびり馬車の旅であった。道は途中までは整備されていたが、西に王都に向かう道と別れて、東に向かうピケティに行く道に入ると、狭くなり整備もされていなくて馬車が揺れまくった。

 王国の国力はある、しかし、シノン伯はあまり財政状況が良くない、もしくは他の事に金を使っている。レニーはそう考える。家庭教師シャンペイユ先生の課題だった。
「街と建物、道路、農地そして人をしっかり見て来るのです。あなたの感想を纏めて提出してください」
 鍛錬のルドン先生といい、シャンペイユ先生といい、なかなか良い教師だと思う。見つけて来た父親の顔の広さと、人を見る目の確かさを称賛するべきか。
 レニーにはなかなか厳しい教師たちだったが。

 馬車は道中は何事もなく無事にシノン領都ピケティに着いた。街はデルマスの賑やかさに比べて大人しい感じだった。静かというか、活気がないというか、成熟した街というか。繁華街は娼館と飲み屋街が賑やかだった。
 その日はピケティで積み荷を降ろして、宿に泊まった。

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