せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり

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07 鍛錬と魔力検査

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 翌日はエリアスにたたき起こされた。
「坊ちゃん、朝ですよ。朝の鍛錬に行きますよ」
「エリアス、もうちょっと」
 足も腕も身体中が筋肉痛であった。脆くも決心が挫けそうになる。
「朝食までに済ませますよ。元はといえば坊ちゃんの所為ですからね」
 全くもってその通りである。レニーのとばっちりを受けて、エリアスまで厳しい稽古をしなければならないのだ。機嫌が良かろうはずがない。
「う、分かったよ」
 それでもひとりではなかった、エリアスに引き摺られて何とか続ける。

「お前は腕力が無い」
 鍛錬の師匠のステファンに言われた。
 うん、最近レニーのお坊ちゃま加減に泣きたくなる。前世もそんなに腕っぷしが強い方では無かったが、これほどまでとは。

 生っ白いもやしの様な手足はすぐへばって、心臓はドキドキだし息もゼイゼイと上がっているし、一向に頑丈にならない。
 いや、まだ十一歳だ。ガキなのだ。大丈夫だ。と、必死で自分を鼓舞する。


  * * *

「お前に合った武器を探してみるか」
「あ、はい!」
 ステファンに武器屋に連れて行ってもらった。普通の両刃の剣は重すぎてレニーには扱えない。
「剣は難しいな。レイピアにするか」
 レイピアは軽いが先端で突き刺す感じで、動きが今一つかめない。

「あのう、双剣で出来ませんでしょうか」
 某狩りゲームとか、忍者とかのノリなら軽くていけるんじゃないだろうか。素早く動かせばいいんだ。
「小型の片刃の剣とか、丸い剣とかをですね、両手で振り回す感じで」
 レニーは絵を描いた。太刀と円月輪と、ついでに手裏剣も描いて説明する。

「こういう風に持って、身体全体を使ってシュシュシュと。この丸いのは投げると帰ってくる感じで、こっちの手裏剣は投げる武器です」
「フム」

 レニーのいい加減な説明を聞いて、ステファン先生は的確な指示を出した。
「素早さを上げた方がいいな。縄跳び五十回。腕立て伏せ十回。反復横とび二十回」
「もう、坊ちゃんは……」
「ごめん、エリアス」

 レニーに付き合わされるエリアスは迷惑極まりない。そして、くたばりそうなレニーを追いたて引きずるのもエリアスの役目だった。
 お陰でエリアスの方はどんどん力がついていく。剣を振る姿も様になってきてかっこいい。レニーは細細の弱弱のままなのに。



 武器が出来たというので、エリアスと一緒に武器屋に行った。
 エリアスは両刃の剣だ。重たい武器を軽々と振っている。

 レニーは説明した通りの太刀と円月輪が出来ていて喜んだ。嬉々として武器を持って帰ると、腕を組んで待っていた鍛錬のステファン教師は言い渡した。
「お前がその剣を振り回すのはまだ危ない。許可するまで私が預かっておこう」
 ステファン先生にダメ出しされて、取り上げられてしまった。

 仕方なく手裏剣を出すと咎められる。
「それは何だ」
「これが手裏剣です。投げて敵に当てます」
 レニーが投げると、手裏剣は木に当たってチャリンと落ちた。
「なるほど、こうか」
 カッ!
 ステファン先生が投げると手裏剣は木に突き刺さった。

 すごい、何をやってもすごいなこの人は。
 怪我した足がもったいないな。しかしレニーには回復スキルは無い。
「お前を鍛錬していると、色んな物が出てきて面白いな」
(異世界人だからなあ)
 でも、チートじゃないんだな、何も強くない。相変わらず弱いお坊ちゃまだし。


  * * *

 勉強をしたり鍛錬をしている内に、レニーの誕生日はあっという間に来た。
 その日は魔力検査の日だった。レニーは父のモーリスに連れられて、検査会場である教会に行った。

 魔力が多くて属性魔法が使えれば、貴族平民問わず王都の魔術学校に入れるのだ。だがもう分かっていた。レニーは属性魔法が使えない。魔力も少ないだろう。
『鑑定』でそこに来ている子供を見れば分かる。平民はほとんど属性魔法を使えない。使えない人間は魔力も少ないのだ。

 レニーの順番が来て、教会の中の小部屋に入った。スキルの『鑑定』も『隠蔽』も『色魔法』もすべて隠している。レニーにあるのはスキル『調理』と『剣術』しかない。

「ここに手を乗せて下さい」
 検査に来た教会の職員が言う。魔力検査は丸い水晶球に手を乗せて調べる。
「残念ながら、坊ちゃんには属性魔法は使えませんな。魔力も少ないです」
 その通りなので文句はないが、他人にダメ出しされるとやはり心が折れる。

「そうか、仕方ないな」
 モーリスは上二人の子供は自分に似ていたので、魔力は仕方ないと思っていたが、レニーはレオノーラに似ているので少し期待していた。息子と一緒にがっかりして屋敷に帰った。


 次の日の午後、父の執務室に呼ばれた。
「レニー、再来週はこの辺りの領主シノン伯爵に招待されている。お前も連れて行くよう言われた」
「え、僕もですか」
「そうだ」
 父親は言葉少なに頷く。さっさとレニーを執務室から追い払った。

 再来週か。シノン伯領都はここデルマスから馬車で四日だ。もう十日も無い。
 レニーの心を不安がモクモクと黒雲のように湧き上がった。
(側室とか、側室とか、側室とか……。でも僕はまだ十二歳だ。側室とか早すぎる)
 では……。もっと何か、別な何か──。
 昔読んだ小説は、貴族以外だと結構悲惨だったような気がする。一番悲惨なのは奴隷だった。あの隷属の首輪とか。
 うわあ、どうしよう──。

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