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二章 自由都市へ
15 白い髪の美しい魔獣使い
しおりを挟む「この人が魔獣使いで合っているの?」
アルトを見ると肩を竦める。
「森の中に居てローブ着てて、よく見えなかった」
「アデリナ知ってる?」
首を横に振る。
「兵士に追われて逃げていたら魔獣が出て……」
「スヴェンは知らない?」
「噂で聞いたことはありますが、直接会ったことは──」
みんな面識がないようだ。
とても目立つ美人さんなのだけれど、もしかして秘密兵器とかだろうか?
「ねえあなた、お名前はなんていうの?」
「名前聞いてくれるの?」
「ええ、名前が分からないと話しかけられないし」
「ノア。おいらの名前はノアだ」
ノアって男でも女でもどっちでもいける名前だな。うーん。どっちなんだろう。
「ノアはどうしたいの?」
「おいらに聞いてくれるの?」
「聞かないと分からないし」
「あなたの名前、おいらに教えて?」
「メリーよ」
「メリー……!」
ノアは何とも言えない顔をして、嬉しそうに笑った。
ええと、すぐ気が変わるような怖い人じゃないよね。
こういう場合、たいてい戦闘になって、捨て台詞とかになって、何回か会って仲良くなるという展開じゃないの? 全然違うじゃない。どうすればいいの?
「くそっ、覚えてろよ!」
お決まりのセリフを残して、兵士達がこの子を置き去りにして逃げちゃうし。
兵士でしょ、何で戦わないんだろう。腰の剣は飾りだろうか。
いや、戦うとしたら私は水魔法を使うしかないんだけれど。昨日と同じ黒焦げは見たくないし、逃げてくれて良かったのか。
◇◇
トンネルを出たら兵士と魔獣使いが待ち構えていた。出口が分かるってすごい。いや、橋がある所に行きたかったので見当を付けていたのだろう。一本道だし。
昨日の惨状を見てもまだ来るなんて根性あるよね。
でも、思いがけなく魔獣使いは懐いてしまって、兵士は逃げて行った。
魔獣使いが現れた。
魔獣使いは仲間になりたがっている。
優秀な人材は是非とも欲しいが──。
それより食糧だ。五人になって人数増えたし、防災非常食セットは底をつきそうだし町はまだ遠いのだろうか?
夕方になって橋に着いたけど検問は無かった。兵士もそこらに見当たらない。
「橋を渡ると、もう帝国自由都市ケプテンだよ」
アルトが説明する。よく知っているな。ここらはお父さんともよく来たのかな。
「帝国自由都市?」
「市民が冒険者ギルドや商工ギルドを作って、帝国に自治権を求め皇帝に許された街です」
今度はスヴェンが説明する。私の居たコルディエ王国では、この辺りは帝国の属国の小国群で纏めていた。マイエンヌ侯爵領は王国の東北側にあって、ここは王都の方が近い。
「ケプテンはウェイデン伯爵の統治を逃れたくて、帝国に縋ったと聞いています」
どんな領主だ。
そういえばアルトを追いかけている兵士と、アデリナを追いかけている兵士は違うような気がする。橋で検問をしていた兵士も違ったら、この伯爵領はどうなっているんだろう。よその国の兵士が我が物顔で歩き回っている国って──。
橋からは馬車がすれ違えるぐらいで、ちゃんと歩道もある整備された街道になった。帝国自由都市ケプテンはお金持ちな街なのだろう。
しかしながらこの辺りはまだ街まで遠く、夜は魔物が出て危険だという。
「野営の場所は?」と、アルトに聞くと、
「もう少し行くと、馬車が野営する広場があるんだ」と答えた。
ああ、そうか。金持ちの商人や貴族は馬車で移動するんだ。
祖父と出かける時は馬車だった。そういう事全部遠い昔のようだ。
何か色々あり過ぎて、頭が全然追いついて行かない感じ。こんなお荷物な私を見捨てないで欲しい。
何気なく【救急箱】を見ると《テント》と《野営セット》が入っていた。
うっ、すごい。どうしてこんなに大盤振る舞いなんだろう。
だんだん申し訳ない気持ちになる。自分では何もしていない感じなのだ。
馬車などが野営する休憩地まで行くと夜になっていた。
広場があって、馬を繋ぐ水場があって、馬車置き場がある。テントを張ったり、馬車の中だったり思い思いに野営をする人々が三組ほどいた。
商隊がニ組と貴族らしい。護衛の人々がチラリチラリとこちらを見ている。怪しい連中だと思うだろうな。
広場の隅っこにテントを出して設置をお願いする。焚火を起こして野営セットから簡単に食べれる丼物とスープを作って、デザートにドライフルーツを出した。
ガスバーナーとガスボンベとテーブルは人目もあるし出さない方がいいだろうか。
「おいらも、お肉持ってる」
ノアが色々なお肉を出してくれた。
「バーラルにタール、アナグマにナキウサギ、ジャガイモと玉ねぎもあるよ」
「おお、すごい。ありがとうね」
野営セットに付いていたステンレスの包丁とまな板と金串を出して、肉を切り分け塩コショウをして金串に刺して焼く。
「これは何の肉?」
アルトが肉を串に刺すのを手伝いながらノアに聞く。
「バーラルだ。ちょっと癖があるから香草をまぶしてある」
「なるほど、これはタールだね」
「そうだ。美味いよ」
二人の話を聞きながら、アデリナが玉ねぎとジャガイモの皮を剥いてくれる。
串刺しした肉や野菜を焼くのはスヴェンだ。トングを渡すとカチカチと動かしてみてから、どんどん金網に乗せ焼いてゆく。
みんなが金串やら包丁やらをじろじろ見ているが気にしない。
テーブルも出して野営セットに付属しているお皿とナイフ、フォークも出した。
久しぶりにというか、記憶が戻って初めて料理が豪勢になった。お肉は口に入れると蕩ける食感で魔獣の臭みも無く美味しい。
「コレ何? 美味しいお肉だね」
「アナグマの肉だ。こっちも美味しいよ」
「あ、こっちは歯ごたえがあっていい感じ」
「美味い」
「この香辛料が効いて美味しいわ」
アデリナが言う。
そうなのよ、女性がいるっていいわ。仲良くしましょうね。
「ノアはマジックバッグ持ってるの?」
「そう、入れた物しか入ってないけど」
そうなのだ。入れてない物が出てくるのは変だよね。
ノアが「これなあに?」って無邪気に聞くので、
「これは調理したものが袋に入っているの。温めて食べるのよ。こっちはスープを乾燥させてあるの。お湯で戻して食べるのよ」
親子丼やらミソスープを説明する。
「メリーって何者?」
「普通の人間よ」
ちょっと首を傾けるノア。とっても美人さんなのだけど、そういう仕草をすると可愛い。
「おいら、レベルアップしたいの。あともうちょっとなの」
レベルアップか。そういえばノアは魔獣使いだった。
「あなたの魔獣を殺してしまってごめんなさい。それは、レベルアップに支障ないの?」
私とアルトは熊みたいな大きな魔獣を殺してしまったのだ。アレはこの人の魔獣だったのではなかろうか。
「うん。あいつらはおいらに懐かないで、出すと暴れるから人のいない所でないと出せなかったんだ」
「懐かない魔獣もいるの?」
「そういう奴は魔力で捻じ伏せるけど関係は良くないから、あまり強くはならないんだ。あいつら村で暴れてて、二匹いたから面倒で調伏したんだ」
「関係がいい魔獣もいるの?」
「うん、おいらによく懐いている魔獣もいる。お互いに一目惚れっていうか、そういう奴は強くなるんだって」
「そうなんだ」
ノアは綺麗な笑顔で笑う。その笑顔に引き込まれてこっちも笑顔になる。
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