上 下
17 / 42
二章 自由都市へ

15 白い髪の美しい魔獣使い

しおりを挟む

「この人が魔獣使いで合っているの?」
 アルトを見ると肩を竦める。
「森の中に居てローブ着てて、よく見えなかった」

「アデリナ知ってる?」
 首を横に振る。
「兵士に追われて逃げていたら魔獣が出て……」

「スヴェンは知らない?」
「噂で聞いたことはありますが、直接会ったことは──」
 みんな面識がないようだ。
 とても目立つ美人さんなのだけれど、もしかして秘密兵器とかだろうか?

「ねえあなた、お名前はなんていうの?」
「名前聞いてくれるの?」
「ええ、名前が分からないと話しかけられないし」
「ノア。おいらの名前はノアだ」
 ノアって男でも女でもどっちでもいける名前だな。うーん。どっちなんだろう。
「ノアはどうしたいの?」
「おいらに聞いてくれるの?」
「聞かないと分からないし」
「あなたの名前、おいらに教えて?」
「メリーよ」
「メリー……!」
 ノアは何とも言えない顔をして、嬉しそうに笑った。
 ええと、すぐ気が変わるような怖い人じゃないよね。

 こういう場合、たいてい戦闘になって、捨て台詞とかになって、何回か会って仲良くなるという展開じゃないの? 全然違うじゃない。どうすればいいの?
「くそっ、覚えてろよ!」
 お決まりのセリフを残して、兵士達がこの子を置き去りにして逃げちゃうし。
 兵士でしょ、何で戦わないんだろう。腰の剣は飾りだろうか。
 いや、戦うとしたら私は水魔法を使うしかないんだけれど。昨日と同じ黒焦げは見たくないし、逃げてくれて良かったのか。


  ◇◇

 トンネルを出たら兵士と魔獣使いが待ち構えていた。出口が分かるってすごい。いや、橋がある所に行きたかったので見当を付けていたのだろう。一本道だし。
 昨日の惨状を見てもまだ来るなんて根性あるよね。
 でも、思いがけなく魔獣使いは懐いてしまって、兵士は逃げて行った。

 魔獣使いが現れた。
 魔獣使いは仲間になりたがっている。
 優秀な人材は是非とも欲しいが──。

 それより食糧だ。五人になって人数増えたし、防災非常食セットは底をつきそうだし町はまだ遠いのだろうか?


 夕方になって橋に着いたけど検問は無かった。兵士もそこらに見当たらない。
「橋を渡ると、もう帝国自由都市ケプテンだよ」
 アルトが説明する。よく知っているな。ここらはお父さんともよく来たのかな。

「帝国自由都市?」
「市民が冒険者ギルドや商工ギルドを作って、帝国に自治権を求め皇帝に許された街です」
 今度はスヴェンが説明する。私の居たコルディエ王国では、この辺りは帝国の属国の小国群で纏めていた。マイエンヌ侯爵領は王国の東北側にあって、ここは王都の方が近い。

「ケプテンはウェイデン伯爵の統治を逃れたくて、帝国に縋ったと聞いています」
 どんな領主だ。

 そういえばアルトを追いかけている兵士と、アデリナを追いかけている兵士は違うような気がする。橋で検問をしていた兵士も違ったら、この伯爵領はどうなっているんだろう。よその国の兵士が我が物顔で歩き回っている国って──。

 橋からは馬車がすれ違えるぐらいで、ちゃんと歩道もある整備された街道になった。帝国自由都市ケプテンはお金持ちな街なのだろう。

 しかしながらこの辺りはまだ街まで遠く、夜は魔物が出て危険だという。
「野営の場所は?」と、アルトに聞くと、
「もう少し行くと、馬車が野営する広場があるんだ」と答えた。

 ああ、そうか。金持ちの商人や貴族は馬車で移動するんだ。
 祖父と出かける時は馬車だった。そういう事全部遠い昔のようだ。
 何か色々あり過ぎて、頭が全然追いついて行かない感じ。こんなお荷物な私を見捨てないで欲しい。


 何気なく【救急箱】を見ると《テント》と《野営セット》が入っていた。
 うっ、すごい。どうしてこんなに大盤振る舞いなんだろう。
 だんだん申し訳ない気持ちになる。自分では何もしていない感じなのだ。

 馬車などが野営する休憩地まで行くと夜になっていた。
 広場があって、馬を繋ぐ水場があって、馬車置き場がある。テントを張ったり、馬車の中だったり思い思いに野営をする人々が三組ほどいた。
 商隊がニ組と貴族らしい。護衛の人々がチラリチラリとこちらを見ている。怪しい連中だと思うだろうな。

 広場の隅っこにテントを出して設置をお願いする。焚火を起こして野営セットから簡単に食べれる丼物とスープを作って、デザートにドライフルーツを出した。
 ガスバーナーとガスボンベとテーブルは人目もあるし出さない方がいいだろうか。

「おいらも、お肉持ってる」
 ノアが色々なお肉を出してくれた。
「バーラルにタール、アナグマにナキウサギ、ジャガイモと玉ねぎもあるよ」
「おお、すごい。ありがとうね」
 野営セットに付いていたステンレスの包丁とまな板と金串を出して、肉を切り分け塩コショウをして金串に刺して焼く。
「これは何の肉?」
 アルトが肉を串に刺すのを手伝いながらノアに聞く。
「バーラルだ。ちょっと癖があるから香草をまぶしてある」
「なるほど、これはタールだね」
「そうだ。美味いよ」
 二人の話を聞きながら、アデリナが玉ねぎとジャガイモの皮を剥いてくれる。
 串刺しした肉や野菜を焼くのはスヴェンだ。トングを渡すとカチカチと動かしてみてから、どんどん金網に乗せ焼いてゆく。
 みんなが金串やら包丁やらをじろじろ見ているが気にしない。
 テーブルも出して野営セットに付属しているお皿とナイフ、フォークも出した。

 久しぶりにというか、記憶が戻って初めて料理が豪勢になった。お肉は口に入れると蕩ける食感で魔獣の臭みも無く美味しい。
「コレ何? 美味しいお肉だね」
「アナグマの肉だ。こっちも美味しいよ」
「あ、こっちは歯ごたえがあっていい感じ」
「美味い」
「この香辛料が効いて美味しいわ」
 アデリナが言う。
 そうなのよ、女性がいるっていいわ。仲良くしましょうね。

「ノアはマジックバッグ持ってるの?」
「そう、入れた物しか入ってないけど」
 そうなのだ。入れてない物が出てくるのは変だよね。

 ノアが「これなあに?」って無邪気に聞くので、
「これは調理したものが袋に入っているの。温めて食べるのよ。こっちはスープを乾燥させてあるの。お湯で戻して食べるのよ」
 親子丼やらミソスープを説明する。
「メリーって何者?」
「普通の人間よ」
 ちょっと首を傾けるノア。とっても美人さんなのだけど、そういう仕草をすると可愛い。

「おいら、レベルアップしたいの。あともうちょっとなの」
 レベルアップか。そういえばノアは魔獣使いだった。
「あなたの魔獣を殺してしまってごめんなさい。それは、レベルアップに支障ないの?」
 私とアルトは熊みたいな大きな魔獣を殺してしまったのだ。アレはこの人の魔獣だったのではなかろうか。
「うん。あいつらはおいらに懐かないで、出すと暴れるから人のいない所でないと出せなかったんだ」
「懐かない魔獣もいるの?」
「そういう奴は魔力で捻じ伏せるけど関係は良くないから、あまり強くはならないんだ。あいつら村で暴れてて、二匹いたから面倒で調伏したんだ」
「関係がいい魔獣もいるの?」
「うん、おいらによく懐いている魔獣もいる。お互いに一目惚れっていうか、そういう奴は強くなるんだって」
「そうなんだ」
 ノアは綺麗な笑顔で笑う。その笑顔に引き込まれてこっちも笑顔になる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜

秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』 ◆◆◆ *『お姉様って、本当に醜いわ』 幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。 ◆◆◆ 侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。 こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。 そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。 それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。

処理中です...