婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり

文字の大きさ
上 下
12 / 42
二章 自由都市へ

11 戻り道

しおりを挟む

「何を見ているんだ?」
「モッコウバラですわ」
「薔薇か?」
「東国から来たお花で刺が無いのでお庭のアーチなんかによいそうですの」
「野草みたいな目立たない花だな」


  ◇◇

 目が覚めると暗い岩屋の中だった。
 何か夢を見ていたようだが、目が覚めると霧散してしまった。
 あくびをして伸びをする。黒のジャージは着たきりスズメだけど、清浄魔法があるので何とかなっている。

 久しぶりに話が出来る人に出会えた所為だろうか、ぐっすり眠った。
 理不尽だという思いも、怖いという思いもどこかに押しやれた。


 それにしても【救急箱】にもう1個、非常持ち出し袋は入ってないだろうか。
「ないか……」
「ん、メリーどうしたの?」
 つい口に出てしまって、隣で寝ていたアルトを起こしてしまった。
「んー、何でもない」
 ここからは自力で頑張れって事だろうか。

「けほっけほっ!」
「どうしたの?」
 起きようとしたアルトが咳をする。流行り病だろうか。
 額に手を当ててみるが熱は無いようだ。

「大丈夫、ちょっと喉が掠れて……」
 起き上がろうと、私の手の下でジタバタと藻掻いている。
 昨日、お水をかけたし、冷えたのかな。それとも熱風でやられたか。
 もう一度【救急箱】を見る。 

《のど飴》が入っていた。それと《防災非常食セット》だ。
 まだ、見捨てないでいてくれるのかね。ありがたい事だ。
 この森は魔物とか動物の気配を感じない。たまに鳥が飛んで行くぐらいで、シンと静まり返った感じなのだ。狩りなど出来そうもない。

 包みを開けないで、防災非常食セットの内容だけチラリと確認する。
 レトルトのお惣菜各種、野菜ジュース、果物ジュース、パックご飯、餅、フリーズドライスープ、缶詰パン、梅干し、干し芋、チョコレート、調味料、他。
 なかなかのものだ。五日はいけそう。少し安心した。


 取り敢えず野菜ジュースを出して、防災非常食セットを【救急箱】に仕舞い、昨日のスープとアルトが持っていた黒パンで朝食にする。
「喉が痛いんでしょ、これ舐めて」
 お鍋と食器を片付けて、パックの野菜ジュースのストローを咥えているアルトにのど飴が五個入っている包みを一つ渡した。
「一個ずつよ。痛い時にね」
 レモン味で三角の良く買っていた物だ。アルトが飴を口に入れて微妙な顔をする。普通の飴みたいに美味しくはないか。


「髪を染めたらどうかしら」
 アルトの髪は藁色だ。ちょっとくすんだ金髪。
「茶色にしたら目立たないと思うんだけど」
「メリーは染めているの?」
「そうよ、簡単よ。これで染めるの」
 私の髪を染めた残りのチューブを見せる。
 アルトはチューブと私の髪を見ていたが頷いた。
「気休めだけどね、ついでに少し髪を切ろうか?」

 肩より長くなっていたのを襟足ぐらいにして、前髪もそろえる程度に短くする。
 出来上がりを、鏡を取り出して見せると、横を向いたり下を向いたりにらめっこを始めた。

「クスクス……」
「笑わないで、僕、自分の顔じっくり見たの初めてだ」
「そうなの? 家に鏡は無いの?」
「お父さんは剣で髭を剃っていた」
「ふうん?」

 剣で、どうやって? 鏡の話をしていたんだっけ、鏡の代わりに剣って事?
 田舎は貧しいのかしら。まあ小さい時はあんまり鏡なんか見ないだろうが。
 王宮にはふんだんに鏡があった。侯爵家にもたくさんあった。王家も侯爵家も金持ちだったからな。前世は普通にあったし。
 鏡はまだあまり普及していないのかな。


  ◇◇

 岩屋の外に出ると、私達は森の中を歩いて戻ることにした。リーフラントの町は遠いし、その向こうはまた別の国だ。戻れば川の向こうにすぐ町があって、小国群も近いという。

「僕は小国群に行きたい」
 アルトが言う。

 こんな誰もいない森の中でひっそり殺されるより、人のいる町の方が良いかもしれない。同じ国でないならば事情も違うかもしれない。何より小国群の向こうはコルディエ王国だ。危険だけれど情報も入って来るだろう。


 アルトは森の中の獣道を知っていた。でも背負う荷物は大きくて重そうだ。
「そのリュック重そう。私が預かろうか?」
 背中に声をかけると即座に断られた。
「ダメ!」
 親切の押し売りはよくないし、私デリカシーがなかったかな。
「いや、僕は──」
 ちょっとアルトとの距離感が分からなくなった。
「ああ、そっか。悪い事言ったかな。お父さんとの思い出の品だよね」
 思い出の品か。私が持っているのは祖父から貰ったペンダントひとつ。でも思い出と愛情は沢山貰ったから。

「ごめん。僕が悪かった」
「ええとね、アルトは空間魔法とかマジックバッグとか知っている?」
「マジックバッグは聞いたことがある。袋とかバッグに付与魔法を付けると容量が大きくなって重さも感じないって」
 おお、知っているなら話が早い。この世界にあって良かった。
「そうそれ、私もひとつ持っているの」

 昨日採った木苺を出してみる。採れたてで瑞々しい。時間経過も無いようだ。
 朝の果物にふたりで食べた。クールタイムになったかな。

【救急箱】にどのくらい入るんだろう。ドレス一式と、さっき出した防災非常食セットと、髪染めに鏡、散髪セットと、まだ入りそう。
「そうなの? 負担にならない?」
 アルトが恐る恐る聞く。
「うん。全然重さを感じないの。まだ入ると思うし」

(私、アルトに話してよかったのかしら)
 私の【救急箱】には某青い猫のポケットみたいに、その時欲しい物がポロリと出て来る仕様が付属している。
 ポロポロと色々出しているけど、見る人によってはヤバかったりして。

「この弓とバッグだけ持って、後はお願い出来る?」
 アルトは小さな皮のバッグを出して荷物を渡してくれた。
「任せて」
【救急箱】に仕舞う。大きな荷物が難なく入る。まだいけそうね。
「大丈夫? 重くない?」と聞くアルトは心配性だろうか。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...