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43 公都で結婚式
しおりを挟むその日はもう頭の整理を止めて、食事をして寝る事にした。
翌日、応接室で少し頭の冷えたオレの隣にユベールが座って話を聞く。
オレは、また時系列に並べてみることにした。
「ユベールのお母さんが婚約破棄されて、他の男と駆け落ちした。その男は遊学していたお祖父さんの子供で、ユベールが生まれて──」
ユベールのお祖父さんが途中で補足説明を入れる。
「竜人と人の子はちゃんと育つまで待つのだ。どちらの血が色濃く出るか分からぬからな。人の血が濃ければ無理に引き取ることもないのだ。人の子として生きた方が幸せだからな」
夜会でユベールに羽が生えた事を言ったら、皆が驚いていたな。その後、険悪になったし。竜の血が濃いって、そういう事なのだろうか。
「ユベールが生まれて竜人の血が強く出たので、息子は私に会いたいと手紙で知らせてきたのだ」
「竜人の血が薄かったら竜化できないの?」
オレの問いにユベールが答える。
「はい、普通の人より少し力の強い人間になるようです。純血の竜人は、もっと早くに竜化できるようですが──」
「それは個々人に寄るよ。遅い奴もおる。側に居て育てていれば分かるものだ」
「でも、ポールはオレのかけた結界を簡単に消したぞ」
「すみません。あいつらに捕まる為に、エルヴェ様がかけた結界を少し解除しました。その所為でエルヴェ様まで危険な目に遇われて、私は──」
ユベールの所為か──。いや、全部、祖父さんの所為だ。
「ポールは竜人の血が濃く出なかった。人としては優秀だが、跡継ぎにはなれぬのを、周りの者どもがおだてて唆したのだろう。何を誤解したか私の跡継ぎは自分しかないと思い込んで、ユベールと父を敵視して。権力とは恐ろしいものだ」
他人事みたいに言わないでくれよ。
「父の手紙で私たちの居所が分かり、ポールが先回りして来たようです」
「それで前の婚約者やらと謀り、ユベールのお父さんを殺した?」
「母親は危険を感じて、私を孤児院に置き去りにして、逃げて──」
「お前の母親の事は調べたが、その前後に死んでいた。子供と一緒に死んでいたとポールが供述したが、子供のことは記録には残っていない」
「そうですか」
「まあ、竜の血が濃くなければ私の跡を継げんのだが、あいつらはそれを承知していなかったようだ」
お祖父さんは最後に爆弾発言をする。
「山に行けなければ跡を継げんのだ。簡単な事だ。ポールの父親は血が濃くなかったので山には行けぬ。普通に知らんかったのだな」
「普通に周知していれば──」
「山には竜人が沢山いるが山を下りたくはなかろうし、跡を継ぐのは面倒だと思うが、何を血迷ったのか──。いくら言って聞かせても分からんとは」
どうもこのお祖父さんも認識の違いというか、大公となるのは、めんどくさい事だと思っているようだ。
翌日、お店に行くと飛行機野郎ジャン=マルク・ケイリーが来ていた。
彼は外の国の学者仲間とも懇意で、競い合っていたのを止めて共同で開発する事にしたようだ。仲間を何人か引き連れていた。
「場所がなくてな」
「広い所がいい」
「各国との狭間が良い」
「あるじゃないか、シェデト湿原が」
オレが言うと、一同は顔を見合わせて、そして地図を開いた。広大なシェデト湿原はエール川が縦横に走り、魔物が徘徊する危険な場所で、今まで放置されてきた。
共有の場所で、川があれば資材も運びやすいだろう。問題は場所の選定と魔物の駆除と埋め立てぐらいか。
国に諮ると言って、彼らは帰って行った。
「あいつらが飛行機を作って空を飛んだら、竜人とか山はどうなるんだ?」
俺は大変な事をしたんじゃないのか?
「大丈夫です。ウロット山脈には神域があって結界の役目を果たし、竜人以外は誰も侵入することが出来ません」
「そうなのか。……って、オレもか?」
「エルヴェ様は私の番ですので、婚姻すれば一緒に行けるようになるでしょう」
「あのエルフの言っていた転移の抜け道みたいなものか?」
「そうですね、エルフにも森に神域がある筈です。そこにはエルフ以外は入れないと聞いた事があります」
「そうか。森とか山の全てじゃなくて一部なんだな」
「はい、私は結婚式の前に行きます」
「え?」
竜人は結婚式の時、伴侶に花を贈る風習がある。これがウロット山脈の頂に咲く『花嫁のベール』と呼ばれる白い花なんだ。式の前に山に行って採って来て、伴侶の頭を飾ると支度が出来上がるんだ。
「ロマンチックだね」
「俺達も式を挙げようか」
「おお、レスリーとローランもか。一緒に挙げるか」
「いや、遠慮しとくよ。僕達は少し前に結婚して公都を見物しようか」
「それがいいな」
オレ達は公都での再会を期して別れたのだった。
* * *
ローランとレスリーはオレ達の結婚式の後が、お祭りみたいになるので、その前に結婚式をしたんだ。レスリーはすっごく可愛くてローランが嬉しそうにしていた。モルガンさんももう一度、結婚したいと言っていた。
ウロット山脈の頂に咲く『花嫁のベール』と呼ばれる白い花。
ユベールはこの花を採りに行く為に竜化して出発した。
オレは麓でユベールの無事を祈って待った。結構大変だったみたいだけど、花を持って戻って来てくれた時には、またボロ泣きした。
そして、公都の大聖堂で結婚式を挙げた。
ユベールが取って来た『花嫁のベール』を飾る。白い花が連なって咲いて、いい匂いがして、白いベールの上に飾るとキラキラと輝いて、とても綺麗だった。
「とても綺麗です、エルヴェ様」
「いい加減で様付けは止めてくれ」
ユベールにお願いした。
「はい、ではふたりの時だけ」
変わらない奴だった。少しは譲歩したのか。
白い騎士服を着たユベールがカッコよくて、オレは何回も惚れ直した。
「エルヴェ様がお綺麗で誰にも見せたくないです」
と、ヤンデレ気味に言うのもオレにしたら嬉しかった。
宮殿の前の広場を開放して、皆を招待して国民もみんなで賑やかに祝った。
その日の晩餐会は山から下りた竜人達が来ていて、大層賑やかだった。
「ユベール、可愛い嫁を見つけたのう」
金茶色の髪に人間離れした蝋人形みたいな顔の男が話しかけて来る。
「私の曾祖父さんです。ウロット山の長老ですね」
「初めまして、よろしくお願いします」
え……と、ひいじいさんって言わなかったか? お祖父さんも若々しいけど、この人も大して変わらない歳に見える。
「長老様は、いつまでもお元気で何よりです」
「いやあ、こんな若い神子を嫁にするとか、いいのう。我らと同じくらいの寿命のようじゃし、長く睦み合えて何よりじゃ」
「はい」
ユベールが嬉しそうに返事をする。オレそんなに長生きすると思っていなかったけど、ひとりで残されたら嫌だろうな。
「そういえば、この前、ユベールを助けてくれた眷属の人々は?」
「ベールを採りに行った時、山でお会いしました。その内一緒に行きましょう」
「うん」
「ユベール、紹介して」
金髪やら銀髪の綺麗な蝋人形達が来た。
「各地に散らばっている竜人の方々です」
「あ、エルヴェです。初めまして」
ユベールもお祖父さんも曽祖父さんも金茶色の髪なので、竜人にも金髪銀髪もいるんだなと思った。
「色んな人がいるんだな」
「そうですね、彼らは長老とか長ですので、その内お礼に行きましょう」
「わ、分かった」
そうか、挨拶回りであちこち行けそうだ。しかし竜人というのは皆綺麗だな。
「エルヴェ様もとてもおきれいですよ。私の自慢の花嫁です」
花嫁……という事は。
「うーんと愛し合って、たくさん子供を作りましょうね」
やっぱりオレが生むのか。ちょっと、いやかなり不安だがユベールがいれば何とかなるんだろうか。
ユベールは大公にはならないと言っているけれど、どうなるかは分からない。
取り敢えず、エルバアイト山のエルヴェとその両親に報告しようかな。
あれからどうなったか、ちょっと、心配だが。
終
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