召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり

文字の大きさ
上 下
42 / 44

41 ユベール奪還

しおりを挟む

「こやつらを捕らえよ」
 ユベールのお祖父さんが後ろの従者たちに命じた。ポール=アントワーヌと手下の者たちを手早く捕縛して行く。アルビンが出て来て報告した。
「閣下、屋敷の者も全て捕らえました」
「そうか」
 鷹揚に頷く大公は事情の説明は後回しにするようだ。
「小僧、私に乗れ」
 いきなりそうオレに言うと、お祖父さんの姿が光って滲んで輪郭が怪しくなった。
「あ、竜になった」
 金茶色の竜だ。あんまり大きくない。乗るのに丁度良さげな大きさだ。
 翼は金茶色の鳥の羽で、胴体も尻尾も頭も羽毛で覆われている。足は鱗で翼に付いた鍵爪にも鱗がある。耳と鼻が角のように尖って、鱗のある大きな口にはギザギザの牙が生えている。

「お邪魔します」
 背中に乗って、首にしがみ付くと、バサリと飛び上がる。すごい。
「行くぞ、どっちだ」
『私ガゴ案内シマス』
 ハナコがオレのポケットから申し出る。
『タローハ、シェデト湿原船着キ場ニ向カッテオリマス』
「そうか」
 大公竜は上空でぐるっと旋回すると、ぎゅーーんと飛び出した。早い。だが背中には風が来ない。
「結界?」
「そうだ」
 頭上をこんなに早く飛ばれたら、森のエルフじゃなくても悔しいだろうか。
 あっという間に湿原に着いた。エール川の支流を北東に遡る。
 ギュンと音がして、隣を見ると竜が追い越して行った。ギュン、ギュンと何匹も何十匹も百はいるだろうか。
「どうだ見たか。我が国の国力を、竜の力を、我らの眷属を──」
 凄い、すごいよ。
 空からってだけでも凄いのに、皆ユベールより強いんだろう。
「これみんな?」
「そうだ。私の跡継ぎを待っておったのよ」
「待っていてくれたの? 夜会の連中は?」
「あれは権力を欲しがる一部の者たちだ。竜人は山に棲む」
 そうか、ヴィラーニ王国とビエンヌ公国の間には、ウロット山脈という険しい山々が聳え立っている。
「そうなのか」
「どうだ! 異界の神子を連れて帰って来たぞ」
 ユベール。こんなにみんなが来てくれている。魔紋に負けるんじゃないぞ。


『タローガ、イマス』
 ハナコの知らせで地上を見る。湿地を馬車や騎馬で移動する一団がいた。竜はゆっくりと高度を下げる。竜に気付いて下にいる奴らが騒ぎ出した。
 火球や雷撃を撃って来る魔導士がいたが掠りもしない。

「わああーー! 竜だ、ビエンヌ公国の竜人だーー!」
 竜に恐れて逃げ惑っている。
 ユベールが見えない。湿地を行く一行の中を探す。
「アレは──」
 一行の中に、竜がいる。金茶色の竜だ。
 馬車に乗せられ、鎖に縛られて動きを封じられている。酷い。
「ユベール!」
 風を纏って大公竜の背中から、ユベールの所に飛び降りる。
「小僧、危険だ」
「ありがとう!」
 竜が、金茶色の竜がいる。薄青の瞳が見える。オレを見つけて藻掻き、やがて鎖を引きちぎって起き上がる。金茶色の翼を広げた。
 ああ、きれいな竜だ。オレの竜だ────。

「ハナコ!」
 オレのポケットから飛び出したハナコがヒュンと飛んでユベールの頭に下りた。
 ユベールの頭からタローが出て来てハナコと合体した。
「そんな魔紋なんか消してしまえ」
 下りながら唱える。
 下りながら祈る。
『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』
「ユベール」
 トンッと目の前に下りた。

 前を行く馬車が止まって、司教が降りてきた。手に持った錫杖をシャラン、シャランと振り、指を二本立てて額に当て、知らない呪文を唱える。闇魔法だろうか。
「私に従え、ユベール。そ奴を殺せ!」
 司教が大音声で告げた。風に煽られ聖職者の衣を翻す姿は迫力満点で恐ろしい。
 ユベールが胸を反らし首を上に掲げる。
 オレはユベールの身体にしがみ付いた。

「ぐおおおお――――んんん!!」

 空に向かって吠えた。
「なっ、ど、どうしてっ──!」
 ユベールの咆哮で、目の前にいる司教は身体を硬直させた。その辺りで逃げ腰だった神殿の騎士たちも動けなくなった。

「エルヴェ様」
 薄青い瞳の竜が嬉しそうに頭を寄せる。
「ユベール、竜だ」
「はい」
「魔紋は?」
「すべて消えました。ハナコ達が消してくれました」
「ハナコ! タロー! すごいなよくやった」
『私達は凄いのです』
 ハナコ達はオレの頭に飛び乗った。
「ユベール、キュアをかけよう、浄化も」
「はい」
『浄化』
『キュア』

「大丈夫か?」
「はい。エルヴェ様の魔法はとても暖かいです」

「この者たちを残らず捕らえよ」
 オレ達の側に降り立った大公が命ずる。
「我ら神殿の者を捕らえるとは、ヴィラーニ王国が黙っていますまい」
 司教が悪足掻きをするが、降り立った竜人たちが次々と神殿騎士達を拘束した。
「現行犯だ、申し開きのしようもあるまい」
「くっ」
 口惜しそうに大公を睨む司教。

 その時、
「ん? なあ、あの山って、ダンジョンのある……」
「ああ、エルバアイト山ですね」
 あっさり竜化を解いたユベールがオレの隣で山を見上げて頷く。山の方から光輝く者が近付いて来るんだ。
 近くまで来ると、それが光に包まれた黒髪の少年と黒髪の人だと分かった。ふたりは、こちらに手を伸ばす。
「あれは──」
 エルヴェだ。オレに似ている。一緒に居るのは母親か。
 二人は司教の腕を取った。
「な、何をする!」
 司教の身体がふわりと浮き上がり、エルヴェとその母親が、司教を連れて行く。
「うわああぁぁぁーーー!!!! いやだあーー! 何をするーーー!!」
 司教は叫びながら、光に包まれた親子に連れられて山の方に消えて行った。
「オレの親って、あいつだったのか?」
「そのようですね」
 取り敢えず祈っておこう。
 あの見晴らしの良い所でいつまでも──。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

転生した気がするけど、たぶん意味はない。(完結)

exact
BL
11/6〜番外編更新【完結済】 転生してきたのかなーと思いつつも普通に暮らしていた主人公が、本物の主人公と思われる人物と出会い、元の世界に帰りたがっている彼を手伝う事こそ転生の意味だったんだと勝手に確信して地道に頑張る話。元同級生✕主人公(受け)。ゆるーっと話が進みます。全50話。 表紙は1233様からいただきました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...