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40 襲撃
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「別にハナコたちが作った食事でいいんだけどな」
「エルヴェ様にはボリュームがあり過ぎますか」
「うん」
文句を言う気はないんだ。料理長はこちらで雇ったのかエデッサの魚介料理を色々出してくれる。美味いんだけどさ、オレは庶民なんだ、庶民感覚が抜けない。
着飾ってレストランに行くのはいいけど、毎日は嫌だろう?
「今日は友人の所に行くから護衛はいいよ」
そう言うとアルビンが嫌な顔をする。オレが言うのが気にくわないんだろうか。公都の離宮でポンポン文句を言ったし、オレがユベールの側に居るのが気に入らないのかな。ユベールの方をチラリと見て顔を背けた。
オレも遠慮しないでポンポン言うし、扱いにくいだろうな。平民だし。平民のくせにとか思っているかな。どうしたもんか。
屋敷を出るとユベールは何も言わないで付いて来る。どうしたんだろう。ユベールが何も言わないと、オレはどうしていいか困るんだが。
あの屋敷を出て行きたいんだが、言えないんだが。
オレ達の店に着いた。ヘルムの看板もしゃれていて、店中にはお客もいてレスリーが笑顔で接客している。お店の中を見る。指輪とか銀細工の小物もあって、レスリーが作ったんだなって思った。なかなかいい感じに出来ている。
「エルヴェー、お帰り」
「ただいまー」
レスリーが飛びついて来て抱き合った。やっと帰って来た感じだ。
「何か綺麗になったな、ユベールさんも貴族っぽい」
「そうなのか?」
改めてユベールを見る。そうだな、貴族の優男に見える。オレのユベールじゃないみたいだ。どうしたんだろう。
何だかおかしい。何故気が付かなかった。こっちに帰ってからずっと、いや、森から公都に帰ってからだ。
おかしい。何故気付かなかった?
だが考える暇はなかった。
「レスリーさん」
慌てて帰って来たのはモルガンさんだった。
「大変だ、ローランさんが攫われて」
「え、どこで、何で」
「港の倉庫街で、いきなり兵士崩れみたいな男達に囲まれて」
「そんな!」
レスリーの悲鳴のような声、黙っていたユベールが前に出る。
「何処だ」
ユベールが場所を聞く。
「倉庫街です。案内します」
「エルヴェ様、私は行ってきます」
「え、オレも行くよ」
「いいえ。エルヴェ様はここに。モルガンさん、途中まで案内してください」
「はい」
二人はさっさと出て行った。どうして、ユベールに拒絶された。
どうして、ずっと一緒だったのに。どうして──。
そして、カタンと店の扉を開いて男が入って来る。
見たことのある男だ。ハナコが報告したポール=アントワーヌとかいう、大公の従兄弟だか従兄弟の子だという──。
男はレスリーに文句を言った。
「寝ていないじゃないか」
「出来ない、出来ないよ!」
「レスリー?」
「ローランを囮にするって。僕は、僕は薬を渡されたけど……」
レスリーは首を横に振った。
「出来るもんか!」
「ローランが囮? レスリーに薬?」
男は腕を組んで余裕で見ている。
「大公が自慢するだけある。きさまはなかなかのものだ。俺の妾にしてやっても良い」
「バカ言ってんじゃないよ。お前には指一本触れさせない」
「きさまの結界など簡単に解ける」
ポール=アントワーヌはニヤリと笑って手を開く。オレに波動をぶつけた。
竜人って強いんだ。あっという間にオレの結界が霧散した。いやユベールで分かっていたけど、でもユベールはまだ覚醒していない。
「くそう。ユベールをどうする気だ」
「知れた事、ヴィラーニ王国の神官に渡すのよ。竜の素材はいい値が付くようでな」
その言葉でオレの何かが切れた。
「何だと──」
ポールがサッと身構える。そして卑怯にもレスリーを人質に取ったのだ。
「さあ、抵抗できまい」
レスリーに短剣を突き付けて脅すポール。
「入れ!」
そして子分を呼んだ。ぞろぞろと兵士が入って来る。
「縛り上げろ、こいつもだ。口枷もしろ」
あの神殿での出来事が甦る。抵抗も出来ない子供に寄ってたかって大の兵士が──。
「期待するんだな、たっぷり可愛がってやろう、オレの言う事を素直に聞く可愛い子になるまでな」
「そーかい。でもオレは、今、たっぷり可愛がってやりたい気分なんだ」
「ほお、こんな所でか、なかなか変わった趣味だな」
「そうだよ! 短縮形」
『浄化』
『祈り』
「ぐああっ! きさま何をした!」
ポールは喉元を押さえて呻く。入って来た兵士達もだ。ろくなもんじゃない、叔父と同じだなこいつは『浄化』出来ない。苦しがっているから何度でもやるけど。
『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』
「きさまあああぁぁぁーーーー!!!!」
「きさまとは誰の事だね」
ユベールのお祖父さんが来た。遅いよ。
そこにローランが帰って来る。
「ユベールさんが連れて行かれた!」
「えっ!」
「ええい待てい、何処に行く」
ポールがオレに手を伸ばす。
「神殿の騎士らが居て怪しい魔法使いが居て、魔紋が、あれは闇の魔法使いだ」
ローランの説明にオレの不安と怒りが膨れ上がる。
「まさか、オレ行く」
「やらせん!」
「邪魔すんなっ!!」
『神子の怒り』
バチバチバチ、チュドーーーン!!
雷鳴が轟き、そこら辺りに雷光が落ちた。
「「「ぐわあああーーー!」」」
オレの怒りが炸裂した。効いたようだ、ポールが股間を押さえて蹲っている。兵士たちは白目を剥いて伸びてしまった。この男だけ気を失っていないのは竜人だからだろう、ホントに強いな。
「え」「あ」
ローランとレスリーに神子だとバレた。まあいいか。
そしてハナコがポロンと転がり出た。
「ハナコ!」
『申シ訳アリマセン、コノ男ニ捕マリマシタ』
最近見ないと思ったら……。偵察やり過ぎだろ。
「大丈夫か?」
『ハイ、小サクナッテオリマシタ』
「そっか、タローは?」
『逃ゲテ、ユベール様ノポケットニ隠レテイマス』
ユベールの所に居るのか。
「エルヴェ様にはボリュームがあり過ぎますか」
「うん」
文句を言う気はないんだ。料理長はこちらで雇ったのかエデッサの魚介料理を色々出してくれる。美味いんだけどさ、オレは庶民なんだ、庶民感覚が抜けない。
着飾ってレストランに行くのはいいけど、毎日は嫌だろう?
「今日は友人の所に行くから護衛はいいよ」
そう言うとアルビンが嫌な顔をする。オレが言うのが気にくわないんだろうか。公都の離宮でポンポン文句を言ったし、オレがユベールの側に居るのが気に入らないのかな。ユベールの方をチラリと見て顔を背けた。
オレも遠慮しないでポンポン言うし、扱いにくいだろうな。平民だし。平民のくせにとか思っているかな。どうしたもんか。
屋敷を出るとユベールは何も言わないで付いて来る。どうしたんだろう。ユベールが何も言わないと、オレはどうしていいか困るんだが。
あの屋敷を出て行きたいんだが、言えないんだが。
オレ達の店に着いた。ヘルムの看板もしゃれていて、店中にはお客もいてレスリーが笑顔で接客している。お店の中を見る。指輪とか銀細工の小物もあって、レスリーが作ったんだなって思った。なかなかいい感じに出来ている。
「エルヴェー、お帰り」
「ただいまー」
レスリーが飛びついて来て抱き合った。やっと帰って来た感じだ。
「何か綺麗になったな、ユベールさんも貴族っぽい」
「そうなのか?」
改めてユベールを見る。そうだな、貴族の優男に見える。オレのユベールじゃないみたいだ。どうしたんだろう。
何だかおかしい。何故気が付かなかった。こっちに帰ってからずっと、いや、森から公都に帰ってからだ。
おかしい。何故気付かなかった?
だが考える暇はなかった。
「レスリーさん」
慌てて帰って来たのはモルガンさんだった。
「大変だ、ローランさんが攫われて」
「え、どこで、何で」
「港の倉庫街で、いきなり兵士崩れみたいな男達に囲まれて」
「そんな!」
レスリーの悲鳴のような声、黙っていたユベールが前に出る。
「何処だ」
ユベールが場所を聞く。
「倉庫街です。案内します」
「エルヴェ様、私は行ってきます」
「え、オレも行くよ」
「いいえ。エルヴェ様はここに。モルガンさん、途中まで案内してください」
「はい」
二人はさっさと出て行った。どうして、ユベールに拒絶された。
どうして、ずっと一緒だったのに。どうして──。
そして、カタンと店の扉を開いて男が入って来る。
見たことのある男だ。ハナコが報告したポール=アントワーヌとかいう、大公の従兄弟だか従兄弟の子だという──。
男はレスリーに文句を言った。
「寝ていないじゃないか」
「出来ない、出来ないよ!」
「レスリー?」
「ローランを囮にするって。僕は、僕は薬を渡されたけど……」
レスリーは首を横に振った。
「出来るもんか!」
「ローランが囮? レスリーに薬?」
男は腕を組んで余裕で見ている。
「大公が自慢するだけある。きさまはなかなかのものだ。俺の妾にしてやっても良い」
「バカ言ってんじゃないよ。お前には指一本触れさせない」
「きさまの結界など簡単に解ける」
ポール=アントワーヌはニヤリと笑って手を開く。オレに波動をぶつけた。
竜人って強いんだ。あっという間にオレの結界が霧散した。いやユベールで分かっていたけど、でもユベールはまだ覚醒していない。
「くそう。ユベールをどうする気だ」
「知れた事、ヴィラーニ王国の神官に渡すのよ。竜の素材はいい値が付くようでな」
その言葉でオレの何かが切れた。
「何だと──」
ポールがサッと身構える。そして卑怯にもレスリーを人質に取ったのだ。
「さあ、抵抗できまい」
レスリーに短剣を突き付けて脅すポール。
「入れ!」
そして子分を呼んだ。ぞろぞろと兵士が入って来る。
「縛り上げろ、こいつもだ。口枷もしろ」
あの神殿での出来事が甦る。抵抗も出来ない子供に寄ってたかって大の兵士が──。
「期待するんだな、たっぷり可愛がってやろう、オレの言う事を素直に聞く可愛い子になるまでな」
「そーかい。でもオレは、今、たっぷり可愛がってやりたい気分なんだ」
「ほお、こんな所でか、なかなか変わった趣味だな」
「そうだよ! 短縮形」
『浄化』
『祈り』
「ぐああっ! きさま何をした!」
ポールは喉元を押さえて呻く。入って来た兵士達もだ。ろくなもんじゃない、叔父と同じだなこいつは『浄化』出来ない。苦しがっているから何度でもやるけど。
『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』
「きさまあああぁぁぁーーーー!!!!」
「きさまとは誰の事だね」
ユベールのお祖父さんが来た。遅いよ。
そこにローランが帰って来る。
「ユベールさんが連れて行かれた!」
「えっ!」
「ええい待てい、何処に行く」
ポールがオレに手を伸ばす。
「神殿の騎士らが居て怪しい魔法使いが居て、魔紋が、あれは闇の魔法使いだ」
ローランの説明にオレの不安と怒りが膨れ上がる。
「まさか、オレ行く」
「やらせん!」
「邪魔すんなっ!!」
『神子の怒り』
バチバチバチ、チュドーーーン!!
雷鳴が轟き、そこら辺りに雷光が落ちた。
「「「ぐわあああーーー!」」」
オレの怒りが炸裂した。効いたようだ、ポールが股間を押さえて蹲っている。兵士たちは白目を剥いて伸びてしまった。この男だけ気を失っていないのは竜人だからだろう、ホントに強いな。
「え」「あ」
ローランとレスリーに神子だとバレた。まあいいか。
そしてハナコがポロンと転がり出た。
「ハナコ!」
『申シ訳アリマセン、コノ男ニ捕マリマシタ』
最近見ないと思ったら……。偵察やり過ぎだろ。
「大丈夫か?」
『ハイ、小サクナッテオリマシタ』
「そっか、タローは?」
『逃ゲテ、ユベール様ノポケットニ隠レテイマス』
ユベールの所に居るのか。
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