召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり

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39 エデッサに帰還

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 オレ達はビエンヌ公国の公都ディヴリーにある離宮に帰った。ユベールの部屋に付いている小部屋に設置した魔法陣から出て、部屋でのんびり土産物を広げていると、コンコンとドアがノックされる。ドアを開くと召使たちがおっかなびっくり覗いていた。
「物音が聞こえて覗いてみたら──」
「ユベール様! エルヴェ様!」
「何をしていらっしゃるんですか!」
「早くアルビンさんを呼んで!」
 大騒ぎになった。そりゃあそうだ、いない筈の人間が居たら、びっくりするだろう。

 呼ばれて駆け付けたアルビンにこってり絞られた。
「公子らしく、ちゃんと表から帰って下さい」
 結構怖かった。さすが俺たちに付けられた執事だと、変な所で感心した。
「お祖父様は」
「大公閣下はご用事でお出かけです」
「どうしよう。結婚式まで、まだ何か月もあるよな」
「そうですね」
 ベアサイン森林を森の民のお陰で半分ショートカットして、王都パルトネに行ったらすぐに王宮に行ったし、王宮からすぐにここに帰ったし。ていうか、あの王太子が居たらヴィラーニ王国も大丈夫なんじゃないかと思える。周りの奴らに寄るけど。

「エデッサに帰って──」
「冗談じゃありません。やることは沢山あります」
「いや、でも友人にお店を任せているので、一度帰らないと」
「家もありますし」
「ホント言うと向こうで暮らしたいというか──」
「時々、旅に出る予定ですし」
 だんだんアルビンの顔が怖くなった。

「大公閣下をお助けしようとは思わないのですか!?」
「それは──」
 ユベールが言い淀んだので、オレは差し出口をしてやる。
「ビエンヌ公国って治安はいいし、政治は安定しているし、割と裕福そうな国だし、あんまり差別もないし、いい国だと思うけど」
 アルビンは口を開いたまま唖然としている。
「オレ達の出る幕ってないよな」と、ユベールに聞く。

「そうですね。私の所為でかえって余計な騒動が起きるのは申し訳ないのです」
 そういや大公と、あの甥っ子か従兄弟の子だかのゴタゴタがあったな。オレ自分の事にかまけて忘れていたけど、どうなんだ。
「もちろん私は、血を分けた肉親である大公閣下を慈しみ、大切にしたいと思っています」
 アルビンはじっとユベールを見ていたが、
「今日の事はご報告しておきますので、大公閣下とよく話し合ってください」
 そう言って、後はオレ達の世話に徹した。

 オレ達は部屋で広げていたお土産を配って、その後、お風呂に入れられ綺麗に磨かれて、たっぷりの食事を取らされた。もちろんその後は勉強だ。オレ達の知識はまだほんの付け焼刃くらいしかないのだった。

「お土産でゴマをすってもダメだな」
「そうですね」
 久しぶりにベッドでくっ付いて寝たけれど、ここでは盛り上がるものも盛り下がる。そう思ったんだがニョロとハナコとタローが出てきた。こいつら何処に行っていたんだ、心なしか元気がないようだが。
「エルヴェ様」
 ユベールの手がオレの身体を這う。しばらく禁欲生活が続いていた。
「結界」
 部屋に結界をかけるとオレ達の世界になった。
「ユベール……」
 愛しい男の首に腕を回す。久しぶり過ぎてキスの味も忘れそう。改めてひとつひとつ思い出そう。この大きな頼りがいのある手も、この凶悪な身体も、金茶色の髪も、薄青の瞳も。
「最近、元気なかった?」
「私の所為でエルヴェ様にご迷惑をかけているのかと──」
「オレこそ、勝手にユベールを引き摺りまわして、暴走して、悪いと思っているんだけど」
 でもオレはユベールがいないと何にもできなくて、価値なんかなくて、今にも消えてしまいそうで──。
「ユベールが欲しい」
「エルヴェ様を離したくないです」
 指がオレの内部を探る。きつい肉壁がやがてトロトロに蕩けてもっとと誘う。すぐに入って来る熱い塊。奥まで入ると、ゆるゆると動き出す。オレの肉襞を掻き分けいい所を擦り、突き上げ、激しく抽挿を繰り返す。
 誰だ、盛り下がるとか言ったのは。やっている内にどんどん盛り上がって、ドロドロになって気を失うまで頑張ってしまった。
 翌朝、動けないオレを、人払いをしてお風呂で甲斐甲斐しく世話をしてくれた時には、いつものユベールに戻っていた。

 オレがしつこくお願いしたからか、ユベールの祖父さんがなかなか帰らない所為なのか、やっとアルビンからエデッサに帰る許可が出た。

 エデッサに行く前に森に行って祈りを捧げる。するとエルフが出て来てイポリット達の事を教えてくれた。無事にこちらに向かって森の中を移動中だそうだ。
「教えてくれてありがとう。オレ達しばらくエデッサに行くんだ」
「そうか。こちらこそ約束を守ってくれて感謝する。これはお礼だ」
 何と、トリュフをくれた。
「こっちこそありがとう」
 なかなか義理堅い森の民なのだ。屋敷の皆とエデッサの皆にこれを配らなくては。そしてエデッサに帰ったらタラの燻製を買っておこう。

 離宮に戻ってお土産を渡すとアルビンが一緒に行くという。すでに召使と護衛の騎士も何人か選任して、馬車3台と騎馬4人で出発した。
 大層な事になっているがこれは仕方のない事なのか。
 エデッサに着くと馬車は見知らぬ大きな屋敷に入って行く。
「ここは?」
「アパートの近くの家を探しました。手狭でございましたらまた探しますが。それに、上町には大公閣下の別邸もございますので──」
 いや、敷地は広くて植木がぐるりと植わって、二階建ての屋敷はコの字型で中庭があるし、召使も結構いるし、ユベールと顔を見合わせる。
 ユベールの祖父さんの財力を甘く見てはいけないようだ。
 普通の庶民の生活は出来ないのだろうか。

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