召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり

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36 森の道を通って

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 大公に付与術士の話を聞くと、付与術士の付与魔法は戦闘中に直接かけるものなのだそうだ。攻撃力倍増、属性強化、素早さ倍増の世界で、戦闘中のみ有効、終われば解除される。

「お前の祈りでよいではないか」
 大公にそう言われた。確かにオレの祈りは人だけでなく武器や装備品にも付けられる。防御系とか祝福だけどな。望んだらきりがないな。
「エルヴェ様の祈りは素晴らしいです」
「うん、ありがとう」
 そうだな、オレがオレである為に、この祈りこそがオレである証だ。


 オレ達は離宮の召使たちに一旦エデッサに戻ると宣言して護衛も執事も断った。向こうは小さな長屋のアパートしかないから、使用人は要らないのだ。アルビンは最後まで粘ったが大公に話して諦めて貰った。ベアサインの森には連れて行けないだろう。

 アルビンには馬車で途中まで送ってもらう事にする。
『ゴ主人サマ』
「ん? どうした」
『尾行ガ付ケラレテオリマス』
 離宮を出てしばらく走った所でハナコとタローが注進する。前に座ったユベールと顔を見合わせた。こいつらが報告してくれる奴らはオレ達に明確な悪意を持っている。
 公都で余計な騒ぎは起こしたくないがどうしたもんか。
『目印ガ付ケラレテオリマス』
『排除シマス』
 そんな事までできるのか。すごいな。

『アノ、ポール=アントワーヌトイウ男ノ召使デス』
 ハナコとタローが報告する。大公の従兄弟の子供だという感じの悪い奴だが、こいつらどこまで調べに行くんだ。
「お前ら危険なことはするなよ」
『ハイ』
 森に行くのはバレない方がいいだろう。アルビンにはそのままエデッサまで行ってもらい、オレ達は途中で馬車をこっそり降りて、馬で公都ディヴリーまで戻った。すぐにイポリットと公都の外れで合流してベアサインの森へと旅立ったのだ。

 オレには【収納庫】があるので実は荷物なんか持たなくてもいい。しかし手ぶらじゃまずいだろう。ユベールもマジックバッグを持っているけど荷物を持つようだ。
「エルヴェ様はあまり大きな荷物は無理ですよ。大体は私が持ちますので」
 と、ユベールに言われてしまった。
「いや、オレも体を鍛えたいし、大丈夫だ」
 そうだ、ダンジョンにも行ったじゃないか。オレの身体は大分鍛えられている筈だ。


 森林の入り口で祈った。旅立つ一行を暖かい風が包む。そして森の中へと入って行った。道は最初こそふたり並んで歩けたが、だんだんと狭い獣道になって、背の高い草が生い茂っているし、段差があったり、木の根が横切っていたりで結構辛い。時々魔獣が出るけれど、イポリット達の足が速くて戦闘はかえっていい休憩になる。
 ベアサイン森林には希少な植物や魔物がいて、時々立ち止まって採集をすると、ユベールがオレを担いでイポリット達に追い付く。
「ユベール。お前、オレを担いで走って大丈夫か?」
「大丈夫です」
「あんたみたいに足が速い奴はいねえな」
 イポリット達が苦笑いしている。


 そうやって行程の半分も過ぎただろうか、いきなりヒュンと矢を撃ち込まれて立ち止まる。人を狙ったのではなく、威嚇の意味だった。
 弓を持った人が一人また一人と現れる。
 いつの間にかオレ達は囲まれていた。

「止まれ。これ以上人がこの森を通ることはまかりならん」
 背の高い藁色の髪をした男が前に出る。非常に美形で耳が尖っている。
「どういう事だ」
「お前たちは森に入り、木を焼き畑にし、家を建て森を奪う。これ以上森を侵食されては我らの住まいがなくなる」
 ビエンヌ公国側には森の木を焼き払った跡とかなかった。

「森の民は優しいのではなかったのか」
「住処を奪われれば仕方がない」
「私たちは森に住むつもりはない。ヴィラーニ王国にいる両親を迎えに行くのだ」
「はいそうですかと信じられるか」

 イポリットが前に出て貢物を取り出した。
「これをお納めください。我らはいつも森の民にお世話になっているテーヌ家の者だ」
「テーヌ家か」
 森の民たちは貢物を受け取って、囲みを解いた。知り合いのようだ。通行料がいるのか。
 だが、オレ達が通ろうとすると引き留めたのだ。

「止まれ、その竜人を置いて行け」
 背の高い藁色の髪の男が言う。
「ユベールを? 何で?」
 オレが前に出ると、その男は顔を顰めた。
「お前は何だ」
「こいつの婚約者だ」
 負けずに睨む。
「我ら森の民と相容れぬ竜人をこれより先、通すことは出来ん。戻れ」
「森の民……?」
 エルフだろうか。容貌から見てもそうだよな。
「昔からエルフと竜人は仲が悪いようです」
「そうなのか? でもだからって、嫌がらせはないだろ」
「何とでも言うがよい。さあ帰れ」
 取り付く島もないとはこの事か。どうしたもんか。
「エルヴェ様、我々だけ帰りましょう」
「でも」
「彼らの邪魔をしてはいけませんし」
 イポリット達が様子を見ている。
「仕方ないな」
 スライム達も沈黙しているし、どうしようもないようだ。

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