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33 公都へ
しおりを挟む翌日、レスリーとローランに会って公都ディヴリーに行くと言うと、
「また、急だね」レスリーが口を尖らせる。
「全然こっちに落ち着いていないじゃないか」
「うん、ごめん。色々あって」
「すぐに帰って来るのか」とローランが聞く。
「うーん、公都は西の方だし、エデッサは東の端だし、遠いよな」と、ユベールを見ると「馬車で10日くらいですね」という。
近いのか遠いのか、どうなんだ。のんびり馬車の旅になるのならいいが。
「そうかー」
「レスリーとローラン、お店頼んだぞ」
「分かったー、モルガンさんにも言っといてくれる? 僕達、仕事あと3日かかりそうなんだ」
「そうか、分かった。これから行って来るわ」
お店に行くとモルガンがよろよろと出て来る。
「どうしたんだ」
「いや、はりきって作っていたら腰を痛めてしまって」
「え、大丈夫か」
「もうダメかも……」
腰を押さえて、弱気なことを言う。
「寝台に横になって下さい。オレ神官見習いだったし、少しは治療できるかも」
「はあ、すみません」
「私は食事の用意をしますね」
あれ、ユベールは料理なんか出来ないよな。そう思ったらハナコがそろっとポケットから出てタローが追いかける。なるほど、賢いなハナコ。タローも頼んだぞ。
よろよろと寝台に横たわったモルガンに『キュア』を唱える。今日は顔色が良くないな、オレ達とバタバタして疲れたのかな。よっしゃ、本格的な『キュア』モルガンの頭からつま先までたっぷりと『キュア』をお見舞いした。
モルガンはぐったりとベッドで眠ってしまった。
うわ、どうしよう。やり過ぎただろうか。
『鑑定』するか。状態は……、病み上がり……か。何か病気だったのかなこの人。取り敢えず、気持ちよさそうに寝てしまったな。
「エルヴェー、いるー?」
レスリーがローランと一緒に来た。
「いるぞー」
「コレ、忘れてた」
レスリーが袋を差し出す。開けると青味がかった綺麗な財布が2つ入っている。これ、この前渡したアズダルコの皮だよな。
「モルガンさんが渡してくれって。僕、忘れてた」
「俺とユベールの? レスリーたちは?」
「僕達も店の物一つ貰っていいって、申し訳ないし、いいって言ったんだけど」
「そうか、ありがとな」
「モルガンさんどうしたの?」
「腰痛めてたから『キュア』したら寝ちゃった」
「お前の、気持ちいいからなあ」
「そういえば店の名前をどうしますか」とローランが聞く。
たちまちはモルガンと前に居た3人でつけた店名のままだ。
「食事が出来ましたがどうしますか?」
ユベールが一人分の海鮮粥をトレーに乗せて持って来た。
「あ、美味しそう」
「まだ沢山あります」
「そうなの? ここでみんなで食べるか?」
「えー、ユベールさんが作ったの?」
「はあ、まあ」
スライムが作ったって言えないか。
「食べよー」
モルガンを見に行くとベッドから起き上がっていた。うるさくしたからなあ。
「ああ、これは寝てしまって」
顔色は良くなっている。
「そのままベッドで食べたら」
「ついでに、一緒に店の名前を考えよう」
「そうだなー」
テーブルやイスを持って来て、アツアツをみんなで食べた。
「モルガンさん大丈夫?」
「お陰様でとてもいいです」
「無理しないで──」
オレが言いかけるとレスリーとローランが提案する。
「お前ら、明日発つんだろ、僕たちがしばらくここに居るよ。部屋はあるからさ」
「そうそう、気にしないで行って来てください」
「すまん」
そういう訳で店の名前は皆の名前を1字ずつとって『ヘルム』に決まった。オレが兜の絵を色々描くと、レスリーとローランとモルガンとで図案化し始める。
オレ達が帰って来た時には、どんな店になっているかな。
* * *
翌日、2頭立ての無紋の地味な馬車が2台と、騎馬2騎が迎えに来た。騎馬のひとりはこの前手紙を持って来た男で、アルビンと名乗った。鉄灰色の髪とグレーの瞳の大柄な男だ。迎えに来た馬車から執事と従僕らしき男が出て来て挨拶をして、無紋の馬車に乗ってオレ達は公都ディヴリーに向けて旅立った。
馬車は乗り心地が良くて快適だった。道中急ぐこともなく、のんびりこの国を見て移動する。
このアルビンという男の差配で道中はつつがなく過ごした。宿泊は途中の村の領主館や、町の高級宿に泊まった。オレは野営とかしながらゆっくり旅をしたいと思ったが、大公の孫じゃあ無理かな。
公都ディヴリーに着いて、馬車は大公宮殿の一角にある離宮に入った。
この離宮だけでも、物凄く広くて豪華な宮殿で、アルビンに案内されて奥の部屋に行くとユベールの祖父さんが待ち構えていた。
「お前たちを一族に紹介するから、しばらくここで準備をしてくれ」
「私は何も望んでいません。あなたのことだって青天の霹靂です」
「それは分かっているが私の孫と私が認めた以上、お前には公子としての立場と価値があるのだ。誰かに利用されてはならんから、私の保護下に置く」
ユベールは公子になるのか。オレはどうすればいいんだ。
「それにお前の番が問題だ」
「私はエルヴェ様を離しません」
「それであれば尚更、私の保護が要るのだ。ソレは神子なのだからな」
「オレが神子だったら何か文句があるのか──」
「お前もこの男の側を離れたく無かろう?」
そう言われると、オレ達は互いの顔を見合って黙るしかないんだけど。
「まあ、悪い様にはせん」
大公はそう言ってアルビンを呼んでオレ達を任せる。オレ達は別々に部屋に連れて行かれて、きれいに磨かれて、採寸をされて、綺麗な服を着せられた。
ドレスを着せられるんじゃないかと思ったが、シャツにトラウザーの上に神殿の司教が着ていた沢山刺繍のある長い上着を着せられた。
ユベールは騎士服だがシャツは袖口がヒラヒラだし、襟元はレースたっぷりだし、上着は刺繍たっぷりだ。
キンキラキンだね。オレもそうなのか。
その日から勉強だった。ビエンヌ公国の歴史とか、貴族の名前と繋がり、事業とか内政とか、議会の人員とか、神殿とか。夜会ではダンスも踊らないといけないのだ。
召使が常に2、3人付いていて着せ替え人形になる。オレ貴族になりたくないなあ。
お風呂も何人かで洗われて、マッサージとかされて、化粧水たっぷりでお化粧までされる。髪は黒に戻った。鏡を見ると女みたいな男がいてげんなりする。
オレ、ゴテゴテよりあっさり系が好きだし。祖父さんにしたらそういう訳にもいかないのかな。ユベールも綺麗に飾り立てられて、いつも以上に不機嫌な顔をしているし。
オレを見て「エルヴェ様はお綺麗ですけれど、いつものお姿の方がいいです」と、拗ねたように言う。
「こんな格好、疲れるよな。早いとこお披露目終わらないかな、どこにも行けないし」
祖父さんに外出禁止令が出されているんだ。早いとこ公都のギルドに行って魔法陣を調べて貰って、付与術士に会いに行きたい。そしてエデッサに帰りたい。
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