召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり

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28 10階ボス

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 10階には1階直通の転移の魔法陣がある。10階毎にボス部屋があり、ボス部屋の奥に転移の魔法陣があるのだ。
 ボスを倒せば次からは直通で10階まで上がれる。なかなか便利なシステムだ。

 そういう訳で10階のボスに遭いに行くのだ。

 ボス部屋の中には今は誰も入っていないようだ。誰かが入って戦っていると戦闘中の赤い印が出て部屋の中には入れない。
 発現して5年も経っているので、一番下の10階のボスは攻略してしまった人の方が多い。攻略の仕方の小冊子が出ているぐらいだ。
 冊子によれば、ここのボス部屋にいるのはサソリ型の魔物でアラクランだそうだ。尻尾に毒がありハサミでも攻撃する。

「エルヴェ様、入りましょうか」
「おう!」
『頑張リマス!』
『ドンドン行コウゼ!』
 ハナコはオレの頭の上、タローはユベールのポケットの中でボス部屋に突入する。大丈夫かな……。
 倒せなかったら、みんなで逃げればいいらしいが。

 部屋の中には人間の2倍以上ある大きなサソリが居た。こいつがアラクランか、透き通った淡い緑色の大人しそうな奴だ。向こうを向いて食事中だったのが、振り向いてギロリと睨んだような気がした。とたんに奴の身体の色が真っ赤になる。
 そういえば、怒ると真っ赤になると書いてあった。

 ユベールが剣を抜いて構える。オレも及ばずながら応戦しよう。
『パライズ』
 いや、馬鹿の一つ覚えだね。
 アラクランは麻痺したがすぐに復帰した。余計に怒って赤黒くなった。
 怒ると殻が硬化するんだっけ。
 と、思ったらガサガサガサッーー!と、もう目の前に来ていた。
 オレは硬直してしまう。
 アラクランはオレの目の前でグルンと回った。尻尾がガンガンとオレめがけて突き刺さってくる。
「うわっ」
「エルヴェ様!」
 ユベールがアラクランの尻尾を剣でカンコンと弾く。叫ばれて硬直が解けた。
 アラクランは怒ってハサミを振り回した。ユベールはオレを庇って応戦一方だ。
 くそう!
 手に持った剣でアラクランのハサミに切りかかった。しかし、アラクランの鎧は固くて逆に跳ね返されり、勢いで後ろに尻もちをつきそうになった。ハナコがボンッと受け止めてくれる。
 アラクランの尻尾がオレのいた所を突き刺そうとするのをユベールの剣が薙ぎ払う。

 アラクランは怒った。皮の色が赤黒から紫黒くなった。
 尻尾を掲げて毒針から毒液を吐き散らす。
 ユベールが後ろに下がる。
『結界』『浄化』『クリーン』

「エルヴェ様。自由に動いて下さい。私はお側にいます」
「分かった」
 ハナコとタローが結界から飛び出て毒を吸収し始めた。身体の色が紫がかって来た。
「大丈夫かハナコ、タロー」
『大丈夫ー』
『心配ゴ無用ー!』
 浄化スライムか? それとも毒毒スライムに進化するのか?

「あいつを切るのはオレには出来ない。なら、動けなくするのと、こっちの防御を上げるのとか」
『アースガード』
 ユベールとオレとスライムたちの防御力が上がった。
『ヒール』を唱えてから『結界』を解く。

 アラクランの前足の位置を狙おう。設定、前足『土よ、ここ掘れわんわん!』
アラクランの足元にボコッと穴が開く。飛ぶ前に足を取られたアラクランが、ガクンと前につんのめって身体が傾く。
 よし『岩石落とし』
 アラクランの頭くらいの岩を頭にボコボコ落とした。

 ユベールがすかさずアラクランの尻尾を切る。スパッときれいに切れた。返す刀で頭を一刀のもとに切り落とした。
「ギシャアアアァァァーーーー!!」
 アラクランは断末魔を上げて動かなくなった。


 ハナコとタローが早速アラクランの解体に乗り出す。いつの間にか身体が透明に戻っているんだが。
「もう、毒の分解が済んだのか?」
『ハイ―』
『アイ』
 そうか、毒毒スライムにならなくて良かった。
「爪も切りますか?」
『ハイ』
『オ願イシマス』
 ハナコとタローが解体するのをユベールが手伝っている。殻が固いようだ。
 こんな奴をすっぱり切れるなんて、すごいな。
「剣がいいのです」
「そうか、でもオレの剣じゃ切れないぞ」
 叩いても跳ね返って剣が痛みそうなので止めた。

 アラクランの毒は薬になるそうだし、皮は鎧になるそうだし、爪は武器の材料になるようだ。魔石も取れて、ボスなので宝箱もあった。
 宝箱の中身は金貨と腕輪、そして魔法陣の書かれた羊皮紙が入っていた。
 初めてのダンジョンで色々あったし疲れた。オレ達は宿に帰ることにした。

 腕輪はアラクランの宝箱らしく毒耐性が付いていた。コレは前衛のユベールが持っていた方がいい。
 リシアの冒険ギルドでアラクランの素材を換金して、冒険者ランクはDになった。一応普通の冒険者になったんだろうか。
 羊皮紙の魔法陣は『鑑定』出来なかったので、オレの【収納庫】の中に入れた。


  ***

「さあ、温泉でのんびりしようか」
「エルヴェ様、このディーガン亭には貸し切り風呂があるそうです。予約しましたので一緒に入りましょう」
「おお、行こう」
 オレ達は喜んでユベールとスライムも一緒に貸切風呂に行った。

 貸切風呂は切石と岩で出来た四角い風呂で、まずまずの広さだった。風呂からはガラス越しに美しい中庭が見えて、その向こうは植木があって狭く感じない。
 ユベールと洗い場で洗いっこをする。その内ユベールの手がオレの尻たぶを掴んで揉んで、後孔に指を入れられると我慢が出来なくなった。
「ユベール……ダメ……、ここじゃヤバイよ」
「大丈夫です。ハナコもタローもおります」
「でも」
 躊躇うオレを抱え上げてユベールは自分の上に乗せる。熱い楔が俺の内部に入って来る。向かい合ったままでユベールの身体にしがみ付いた。
「はあ……、一杯だぁ……」
 オレが乗っかっているから重さで、奥の方まで入ってくる熱い塊。一杯に押し広げられてユベールが動くと奥の奥まで届いて仰け反って喘ぐしかない。
 何度か欲望を吐き出してぐったりしたオレを、ユベールが綺麗にして一緒に湯につかる。ここの湯ほんと肌触りが良くて優しくて好きだ。

「すみません、つい」
「もうダメだー」

 洗い場で寛いでいると、ハナコとタローが洗い場でびろーんと伸びたり、湯船でぷかぷか浮かんだりして遊んでいる。
 その内、タローとハナコが洗い場に出てぐるぐる絡まる。まるでタオルを絞ったみたいだ。
「何をしてるんだ?」
『情報ヲ交換シテイマス』
「へえ、そんなことが出来るんだ」

 温泉から上がって休憩室でのんびりする。そうだな、こういう時は苺ミルクだよな。コーヒー牛乳でもいいな、イポリットに言っておこうか。
 温泉でのんびりしてその夜はぐっすり眠った。

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