召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり

文字の大きさ
上 下
29 / 44

28 10階ボス

しおりを挟む

 10階には1階直通の転移の魔法陣がある。10階毎にボス部屋があり、ボス部屋の奥に転移の魔法陣があるのだ。
 ボスを倒せば次からは直通で10階まで上がれる。なかなか便利なシステムだ。

 そういう訳で10階のボスに遭いに行くのだ。

 ボス部屋の中には今は誰も入っていないようだ。誰かが入って戦っていると戦闘中の赤い印が出て部屋の中には入れない。
 発現して5年も経っているので、一番下の10階のボスは攻略してしまった人の方が多い。攻略の仕方の小冊子が出ているぐらいだ。
 冊子によれば、ここのボス部屋にいるのはサソリ型の魔物でアラクランだそうだ。尻尾に毒がありハサミでも攻撃する。

「エルヴェ様、入りましょうか」
「おう!」
『頑張リマス!』
『ドンドン行コウゼ!』
 ハナコはオレの頭の上、タローはユベールのポケットの中でボス部屋に突入する。大丈夫かな……。
 倒せなかったら、みんなで逃げればいいらしいが。

 部屋の中には人間の2倍以上ある大きなサソリが居た。こいつがアラクランか、透き通った淡い緑色の大人しそうな奴だ。向こうを向いて食事中だったのが、振り向いてギロリと睨んだような気がした。とたんに奴の身体の色が真っ赤になる。
 そういえば、怒ると真っ赤になると書いてあった。

 ユベールが剣を抜いて構える。オレも及ばずながら応戦しよう。
『パライズ』
 いや、馬鹿の一つ覚えだね。
 アラクランは麻痺したがすぐに復帰した。余計に怒って赤黒くなった。
 怒ると殻が硬化するんだっけ。
 と、思ったらガサガサガサッーー!と、もう目の前に来ていた。
 オレは硬直してしまう。
 アラクランはオレの目の前でグルンと回った。尻尾がガンガンとオレめがけて突き刺さってくる。
「うわっ」
「エルヴェ様!」
 ユベールがアラクランの尻尾を剣でカンコンと弾く。叫ばれて硬直が解けた。
 アラクランは怒ってハサミを振り回した。ユベールはオレを庇って応戦一方だ。
 くそう!
 手に持った剣でアラクランのハサミに切りかかった。しかし、アラクランの鎧は固くて逆に跳ね返されり、勢いで後ろに尻もちをつきそうになった。ハナコがボンッと受け止めてくれる。
 アラクランの尻尾がオレのいた所を突き刺そうとするのをユベールの剣が薙ぎ払う。

 アラクランは怒った。皮の色が赤黒から紫黒くなった。
 尻尾を掲げて毒針から毒液を吐き散らす。
 ユベールが後ろに下がる。
『結界』『浄化』『クリーン』

「エルヴェ様。自由に動いて下さい。私はお側にいます」
「分かった」
 ハナコとタローが結界から飛び出て毒を吸収し始めた。身体の色が紫がかって来た。
「大丈夫かハナコ、タロー」
『大丈夫ー』
『心配ゴ無用ー!』
 浄化スライムか? それとも毒毒スライムに進化するのか?

「あいつを切るのはオレには出来ない。なら、動けなくするのと、こっちの防御を上げるのとか」
『アースガード』
 ユベールとオレとスライムたちの防御力が上がった。
『ヒール』を唱えてから『結界』を解く。

 アラクランの前足の位置を狙おう。設定、前足『土よ、ここ掘れわんわん!』
アラクランの足元にボコッと穴が開く。飛ぶ前に足を取られたアラクランが、ガクンと前につんのめって身体が傾く。
 よし『岩石落とし』
 アラクランの頭くらいの岩を頭にボコボコ落とした。

 ユベールがすかさずアラクランの尻尾を切る。スパッときれいに切れた。返す刀で頭を一刀のもとに切り落とした。
「ギシャアアアァァァーーーー!!」
 アラクランは断末魔を上げて動かなくなった。


 ハナコとタローが早速アラクランの解体に乗り出す。いつの間にか身体が透明に戻っているんだが。
「もう、毒の分解が済んだのか?」
『ハイ―』
『アイ』
 そうか、毒毒スライムにならなくて良かった。
「爪も切りますか?」
『ハイ』
『オ願イシマス』
 ハナコとタローが解体するのをユベールが手伝っている。殻が固いようだ。
 こんな奴をすっぱり切れるなんて、すごいな。
「剣がいいのです」
「そうか、でもオレの剣じゃ切れないぞ」
 叩いても跳ね返って剣が痛みそうなので止めた。

 アラクランの毒は薬になるそうだし、皮は鎧になるそうだし、爪は武器の材料になるようだ。魔石も取れて、ボスなので宝箱もあった。
 宝箱の中身は金貨と腕輪、そして魔法陣の書かれた羊皮紙が入っていた。
 初めてのダンジョンで色々あったし疲れた。オレ達は宿に帰ることにした。

 腕輪はアラクランの宝箱らしく毒耐性が付いていた。コレは前衛のユベールが持っていた方がいい。
 リシアの冒険ギルドでアラクランの素材を換金して、冒険者ランクはDになった。一応普通の冒険者になったんだろうか。
 羊皮紙の魔法陣は『鑑定』出来なかったので、オレの【収納庫】の中に入れた。


  ***

「さあ、温泉でのんびりしようか」
「エルヴェ様、このディーガン亭には貸し切り風呂があるそうです。予約しましたので一緒に入りましょう」
「おお、行こう」
 オレ達は喜んでユベールとスライムも一緒に貸切風呂に行った。

 貸切風呂は切石と岩で出来た四角い風呂で、まずまずの広さだった。風呂からはガラス越しに美しい中庭が見えて、その向こうは植木があって狭く感じない。
 ユベールと洗い場で洗いっこをする。その内ユベールの手がオレの尻たぶを掴んで揉んで、後孔に指を入れられると我慢が出来なくなった。
「ユベール……ダメ……、ここじゃヤバイよ」
「大丈夫です。ハナコもタローもおります」
「でも」
 躊躇うオレを抱え上げてユベールは自分の上に乗せる。熱い楔が俺の内部に入って来る。向かい合ったままでユベールの身体にしがみ付いた。
「はあ……、一杯だぁ……」
 オレが乗っかっているから重さで、奥の方まで入ってくる熱い塊。一杯に押し広げられてユベールが動くと奥の奥まで届いて仰け反って喘ぐしかない。
 何度か欲望を吐き出してぐったりしたオレを、ユベールが綺麗にして一緒に湯につかる。ここの湯ほんと肌触りが良くて優しくて好きだ。

「すみません、つい」
「もうダメだー」

 洗い場で寛いでいると、ハナコとタローが洗い場でびろーんと伸びたり、湯船でぷかぷか浮かんだりして遊んでいる。
 その内、タローとハナコが洗い場に出てぐるぐる絡まる。まるでタオルを絞ったみたいだ。
「何をしてるんだ?」
『情報ヲ交換シテイマス』
「へえ、そんなことが出来るんだ」

 温泉から上がって休憩室でのんびりする。そうだな、こういう時は苺ミルクだよな。コーヒー牛乳でもいいな、イポリットに言っておこうか。
 温泉でのんびりしてその夜はぐっすり眠った。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

転生した気がするけど、たぶん意味はない。(完結)

exact
BL
11/6〜番外編更新【完結済】 転生してきたのかなーと思いつつも普通に暮らしていた主人公が、本物の主人公と思われる人物と出会い、元の世界に帰りたがっている彼を手伝う事こそ転生の意味だったんだと勝手に確信して地道に頑張る話。元同級生✕主人公(受け)。ゆるーっと話が進みます。全50話。 表紙は1233様からいただきました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...