召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり

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幕間 ユベールのわんこ

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 私の仕えるエルヴェ様は「死にたい」とよく言っていた。
「死んで、お母様の所に行きたい」
 痩せて生きる気力もなくしてベッドで泣いていた。
 ある日、水辺で倒れていると聞いて行った。
 もう、母親の所に逝ってしまったのか。

 しかし痩せさらばえた少年は生きていた。
 強いアメジストの瞳で私を見て「何とかしろと」喚くのだ。
 ベッドに運ぶと寒いと言い『クリーン』をかけるとびっくりする。

「腹が減った」と言った時は驚いた。同じ人間とは思えない。
 スープとパンを持っていくと、はぐはぐ食べる。
 雨に濡れた可哀想な子犬を拾って帰ったような気分になった。

 子犬は人懐こい。私のような人間にも遠慮なく話しかける。

 この人族が優遇される国で、私の立場は弱い。体が丈夫な所為か好きなだけこき使われる。この神殿はまだましで、従騎士の時は人間扱いされなかった。
 私の生まれは分からない。人種も分からない。人間離れしているから、娼婦の子供だから、生まれも出自も分からないから、腕があってもこき使われる。
 神殿に追いやられたのも、騎士にさせない為だ。

 そしてエルヴェという子犬に会った。
 大きな紫の瞳が濡れている。なんて可愛いんだ。こんな感情は知らない。
 抱いて甘やかして可愛がって。この腕だけで囲って。
 自由に生きたいという彼を連れ回る。行きたいところへ連れて行ってやろう。
 私だけが甘やかして、可愛がってやれるのだ。
 丸々と太って随分と可愛くなった子犬を見て、私の心配は尽きないがそれも嬉しい。

 子犬が不服そうな顔をしている。だが、お前の考えは手に取るように分かる。
 自分の一族が分かって、一族の特性という奴だと理解した。
 子犬を奪われそうになった一件で、私の本来の力が解放されたのだ。
 これは番を得ると発動するらしい。番も発情しないといけないらしいが。

 子犬は私の番だったのだ。これは嬉しい。
 私から離れない、私以外を求めない、魂の相手。愛しい子犬。
 しかし、子犬なのだから躾けはちゃんとするのだ。
 お座り、お手、待て、よし。可愛いなあ。

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