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26 ハナコがふたり
しおりを挟む翌朝、オレ達の足の間から滑り出たハナコが二匹になっていた。
「どうしたんだ?ハナコ。増えたのか?」
『ハイ、ゴ主人様。コチラニ名前ヲ』
ハナコが隣にいるハナコにそっくりな奴を指して言う。
「うーん、タローはどうだ?」
イチローとちょっと迷ったが。
『ゴ主人様、タローデゴザイマス。今後トモヨロシク』
ハナコと一緒に頭を下げた。見分けがつかない。
「タローはユベールの方に付くか?」
『ハイ』
「よろしくお願いしますよ」
ユベールがお湯を持って来て、オレの身体を拭いてくれる。
オレ折角だから温泉に入りたいんだけど、しばらく居るからまあいいか。
のんびり食堂でバイキングの朝食をつついていると、隣の丸テーブルに座った男たちが話している声が聞こえた。
「ヴィラーニ王国で神子を召喚したらしい」
「え、あれ失敗したんじゃなかった?」
「俺は王都で見たぞ。王子と一緒にバルコニーで手を振っていた」
どこの国の冒険者だろう。皆きっちりと隙の無い装備をして余裕がある感じだから、テゥアラン王国辺りだろうか?
「やあ、おはよう。遅かったな」
食事が済む頃に、オレ達の丸テーブルにイポリットがやって来て声をかける。
「おはよう。昨日はありがとう、とてもいい宿だな」
「そうだろう」
当然といった感じでふんぞり返る。そういう所は変わっていない。
「イポリットはヴィラーニ王国の神子を見た?」
「いや、後から来た従僕が言っていたな。お前みたいな黒髪だったらしい」
イポリットはオレを見直して聞く。
「そういや、お前髪染めてるのか」
「うんちょっと。もう伸びたらそのままで行くけど」
「そうだな、お前は黒い髪の方が似合う」
「えへ、恥ずかしいから言うなよ」
「あの人、一緒なんだな」
ユベールの事かな。今、お茶を取りに行っている。
「え、ああ」
あいつって結構目立つんだよな、竜人だからだろうか。オレは竜人とかいっても違いが分からないけど、この世界の人は違うって分かるのだろうか。
いや、神官たちがこき使っていた時点で、それはないな。
「きれいになって、まあ」
「お前だって、痩せてかっこよくなったじゃん」
「まあな、モテて困るわ」
「言ってろよ」
肘で小突き合ってニヤリと笑う。
イポリットは真面目な顔付になった。
「なあ、ここで会ったのは神様の思し召しかもしれねえ。温泉宿をやるにあたって何かやって欲しいとか、これが欲しいとかないか?」
おお、こいつも商売には真面目なんだな。
「うーん、温泉って言ったら露天風呂」
「露天風呂」
白豚は隣にいる秘書のような男に顔を向けて書き取らせている。
「それから、温泉卵」
「温泉卵」
「それからお土産を並べて、そうだ、ここはダンジョンがあるから宝箱にさ、蒸し饅頭を入れて、餡を色々入れて、たまに当りで銅貨とか入れたらどうかな」
最後はシャレになった。
「なかなかユニークだ。やっぱりお前は凄いな」
いや前世の知識そのものだけどな。
「じゃあ景気付けに一発祈ってやろう。イポリットの宿が繁盛しますように」
『祈り』
『加護』
『願い』
「祈りもますます冴えて来たなあ、私も負けてられないな。そうだ宿が儲かったら相談料を納めるからな」
「別にいいぞ」
「ほら、繋ぎってやつだ。末永くよろしくな」
そう言って白豚イポリットは革袋を差し出した。
「ああ、ありがとう。じゃあ遠慮なく」
何か思い出したらまたイポリットに言ってみようか。
「エルヴェ様」
「うん、行こうか」
そうか、神子がいるんならもういいか。
やっぱり心のどこかで気にしていたんだ。
気が楽になった。あちこち行くことにしよう。
***
しばらくその宿に泊まることにしてイポリットと別れた。
リシアの町からダンジョンまでは馬車で小半時ぐらいか。
馬車を降りるとダンジョンまでの道には土産物屋や、小間物屋、食べ物屋などの小屋がぞろぞろと並んでいて、冒険者らしき男たちが歩いている。
じろじろ見られているような気もするが、ユベールが睨むとこそこそと行ってしまった。
「あいつだぜ」と捨て台詞のような声が聞こえる。
見知ったような人間はいなかったが、どこかで会ったのか。ダンジョンの中で襲い掛かられたら厄介だよな。
ダンジョンの入り口には兵士が2人居て、その横には建物がある。並んでいるとオレ達の番になって、入り口で小型の水晶にカードを記録して、ダンジョンの中に入った。
ハナコがポケットから出てオレの頭の上に乗る。執事の格好じゃなくてスライムだ。冒険もするのかハナコ。オレの方がへっぴり腰だな。
タローはユベールのポケットで待機しているようだが。
ダンジョンの中は思ったほど暗くはなかった。ライトの魔法を点けなくても見えるほどだ。
『探索』を唱え、1階2階3階と登って行く。
どこも土壁に石の通路で、小部屋なども無く一本道が続く。出てくる魔物は小動物のモグラ系とかウサギ系とかオオカミ系とかゴブリンとかだ。
上に登ると段々と下草が生えて、通路も無くなり広くなった。大きいのはイノシシと熊が4階から出て来た。イノシシはドッドッドと走ってくるし、熊は茶色の奴で、立ち上がると大きくて牙やら太い腕と爪がちょっと怖い。
『探索』ではこちらに気付いていない時は緑の表示で、敵認定されるまで赤表示されないので非常に分かり辛い。
ユベールの後ろから『パライズ』を唱える。
イノシシや熊が麻痺している間にユベールがあっさり倒してくれた。
「この剣はよく切れます」
「そ、そうか」
オレも腰の剣を使ってみないとな。
ありがたい事にハナコとタローが魔物の解体をしてくれる。結構早いんだ。素材になる物は、前もって教えるときれいに残してくれる。
賢いなあ。
6階に登ると虫系になった。イヤ、これイヤ。最小限倒して逃げる。どんどん逃げる。蜘蛛とか百足とかほんとイヤ。ダンジョンのヤツはどれもこれも大きいし。
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