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21 商業ギルドとアパート
しおりを挟む「こんにちは、聖水を作りましたので納品出来ますか?」
その後、また教会に行った時にお祈りを捧げて聖水を作って、商業ギルドに大きな瓶に作った聖水を持って行った。
ギルドの受付は嫌な顔もせずに受け取ってくれた。
「そうですか、ヴィラーニ王国の神官様でいらっしゃる」
「いや、見習いでした。もう出てしまったけど、まだ聖水は作れるようです」
「いや、もう素晴らしいです。これだけあれば回復薬がたくさん作れます」
「あの、オレも回復薬を作りたいので、作り方を教えて欲しいです」
「もちろん、もちろん。薬師ギルドの者を紹介しましょう」
受付の男が薬師ギルドの男を紹介してくれた。
商業ギルドは各ギルドの取り纏めをしていて、議会に出す法案や、商品の特許の管理、大きなプロジェクトの各ギルドへの橋渡しなど様々な仕事をしている。
各ギルドの受付は1階にあって、2階には応接室、3階には会議室がある。
薬師ギルドの部屋は広かった。商品課、開発課など様々な部署があって、案内された部屋には薬を製造する装置が並べてあった。
「まず薬草を一度茹でます。ザルにあげて冷まします。すり鉢でドロドロにすり下ろします。火にかけ聖水を入れながら魔力を注ぎ、溶け混ざったら蒸留します」
まるで実験室のような薬師ギルドの部屋で作り方を習う。
実験室並みに用具が多い。すり鉢、すりこぎ、コンロ、煮出し用の鍋、ザル、薬を入れる瓶、ビーカー、フラスコ、バーナー、蒸留用の装置等々と、宿じゃ置く所もないし、火を使うのは安全とはいえない。
「回復薬を入れる瓶はこちらになります」
出来上がっている回復薬を見せてもらう。小さな瓶に薄緑の液体が入っていて、コルクの蓋が付いている。消毒は『クリーン』でいいのかな。密封はどうするんだろう。ああ、蝋が付いているな。
うーん、もっと簡単かと思っていた。これは専業でないと務まらないかも。
「なるほど、ありがとう」
「よろしかったらこちらを」
薬師ギルドの係官はレシピの本をくれた。
『初めての製作・薬師』
本を開くと一番最初のページに、たくさんの道具類が図解で書いてある。
「なあ、どっかアパートを借りてでないと、あんなもの作れないな」
「そうですね、一度ギルドで相談してみますか」
「うん、いい所があったらいいね」
宿に帰るとレスリーとローランが話があるという。
「僕たち住む所を探していて、ギルドに聞いたらアパートを世話してくれるって。今日見に行って決めて来た」
「何時までも宿に居られないし」
レスリーとローランはもうアパートを見つけて来たらしい。
「そうなのか。オレ達もアパートを探そうかと思ったんだ。宿だと製作とか出来ないし。何処かいいとこあったのか?」
「ああ、ここから少し中心街に寄った所にアパートを見つけたんだ。仕事先に近いし」
「そっか、いいな。おめでとう」
「ありがと」
その日は4人で祝杯をあげた。
翌日、冒険ギルドに行くと、顔なじみになったギルドの職員さんがアパートを紹介するという。
「この国に来て定住・定着しそうな人に紹介しているのです」
「何かご希望とかあればお聞きしますが」
とても親切だ。レスリーたちも、こうして紹介して貰ったんだな。
紹介して貰ったアパートは、6軒長屋のテラスハウスみたいな感じの2階建てで、1階はリビングとダイニングキッチンと部屋がふたつ。2階はベッドルームふたつとバストイレ。前庭と裏庭がある。
場所は教会と武具屋とギルドの中間点で、家賃が安かった。
「エルヴェ様、借りましょう」
「うん」
早速ギルドで契約をする。レスリーとローランのアパートからは少し離れているが、オレ達の家が出来たんだ。
家を持つという事は大変な事なのだ。一応家具付きでベッド、ソファ、テーブル、カーテン、魔道保冷庫、魔道コンロなんかがあった。でも、布団はないし、食器も調理器具もない。
「アパートかー、オレ料理出来るかなー」
キッチンを見ながらつぶやくと「私はダメです」速攻で断るユベール。
「おや、万能じゃないのか」
そこにハナコが出て来た。ハナコ、手も足もあって、服も着ていて、それは執事の服だな。蝶ネクタイとか。
『私ガ作リマス』
おお、執事は料理も出来るのか、すごいなハナコ。これもユベールの頑張りの賜物だな。オレも頑張ったけどな。
「買い物にも行ける?」
『行ケマセン』
「行けないかー」
半分透明な奴が市場をウロウロしていたら、警備兵とか駆けて来そうだ。
「何が出来るかな?」キッチンを見ながらつぶやくと、
「材料を買って、作ってもらったらいかがです?」
ユベールが提案する。
「そうだね、市場に行こうか、何がいいかなユベールは何が食べたい?」
「肉ですね」
あ、そうなんだ。
そういう訳でオレ達はハナコをポケットに入れて市場に行ったんだ。
ここは港町で、漁港もあった。新鮮な魚が豊富にあったんだ。オレが止まれるわけは無いだろう。
イワシにアジにサバだー、お、これはカレイかタイもいる。おおブリか、マグロか。エビ、カニ、貝、タコ、ウニーー!
「エルヴェ様。そんなに食べられませんよ。また来ましょう」
「うっ」
やっぱり魚介類はとれたての新鮮なのがいいよな。オレは泣く泣くカレイモドキとロブスターモドキにした。その後、野菜を買って肉を買って。ここの市場には何とお米があった。さすが港町、色んな所から物品が入ってくるんだな。
調味料も塩、コショウ、のほかに醤油を見つけた。探せばもっと色々あるかもしれない。
『明日ノ朝食用ニ、パントバタートミルクトフルーツヲ買ッテクダサイ』
おお、ハナコからのリクエストだ。
『ベーコンモ、アルトイイカト。卵ト付ケ合ワセノ野菜モ』
どんな料理が出来るんだ、楽しみだが少し心配でもある。
「エルヴェ様、ベッドを買いましょう」
「ベッドあっただろ? ああ、布団がないか」
「アレは小さすぎます」
「そうなの? まあいいか、そういえばお皿とか鍋とかなかったな」
そのままユベールに引き摺られて家具屋に行って、大きなベッドと布団を買い配達を頼んで、金物屋に行ってフライパンやら鍋やら食器やらを買い、パン屋に行ってパンを買い。あちこち行って、とても疲れて帰った。
ハナコは教えると出来る賢い子、教えなくても出来る謎の子。
カレイモドキをムニエルにして、ロブスターモドキを茹でて、ユベールの買った謎の肉を野菜炒めとスープにして、パンとワインのステキな晩御飯になった。
「ハナコ、このロブスターもムニエルも美味しい」
『アリガトウゴザイマス』
「ハナコ、野菜炒めも美味しいが、もっと肉を増やして欲しいです」
『明日ハ、ステーキニイタシマショウ』
その夜は、やっと、やっと、待望のお風呂に入ったのだ。
かなり長湯して好きなだけゴシゴシしたオレはお風呂から上がって『クリーン』をかけるともう限界だった。
すっかり満足したオレは、ユベールを置いてぐっすり眠ってしまった。
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