召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり

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19 街の外を探索

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 昼食の後は腹ごなしだ。
「薬草を取りに行って、ついでに散歩してみましょうか」
「よっしゃ」
 4人でのんびり街の外に出て、常時依頼が出ていた薬草を探す。門番にカードを見せて街の外に出てみたが、薬草って何処?
『探索』を表示して見ながら街道を歩く。街道は整備され、まだ昼間なので馬車が走っていて、荷物を背負って歩く人もいる、冒険者らしき連れもいる。
 しばらく行くと、地図に赤い点と緑になっている場所が表示される。街道から少し外れた場所だ。
「あっちかな、魔物がいるっぽいけど」
 丘の上に向かって歩くと、まばらに木の生えた場所に緑の動くものが見える。
「ああ、ゴブリンですね」
 緑の魔物が2匹、あっさりユベールが倒してくれた。

「割と街の近くに魔物がいるんだな」
 あれは門の守衛所の建物だろうか。背の高い見張り塔のような物が見える。
「街には魔物除けの結界が張ってあるから、入って来ない筈ですが」
「そうなんだ」
 一歩外に出ると危ないって事か。

 前にヴィラーニ王国で医療奉仕をした時に、魔獣が襲ってきた事があったけれど、ユベールが怪我をしてハナコが血にくっ付いて──。もう遠い昔のようだ。
 今から考えれば、やはりあれは神殿と王都の騎士が騙らったのだと思える。
 あの国から逃げ出せて良かった。


 緑に表示されている場所にはこんもりと草が生えている。こういう時は『鑑定』してもいいよね。ちょっとヨモギみたいで葉っぱの裏が白っぽくて肉厚のヤツ。
《薬草 品質下 苦い 単独使用摂取回復極少 塗布回復極少》
 なるほど、街の近くだから品質良くないのかな。取り敢えず採集する。
「これで回復薬って作れるのかな」
 おっと、レシピが表示された。
《聖水1 薬草3》
 聖水って商業ギルドに納品できたような気がする。

「レスリー、聖水の作り方って知っている?」
 何も言わないでオレ達の後をついて来ていたレスリー達に聞く。
「うん、神殿で作っていたよ」
「あ? オレやっていない」
「そうだっけ? 楽だからなー。お水出して、お祈りするだけだからね」
「ひどい。オレ、トイレ掃除とか部屋掃除とか神殿の外回りの掃除とか、掃除とか掃除とか、ばっかしだった」
「聖水で神殿は結構儲けてたよね。アミュレットとかもお祈りするだけだし」
「俺たち袋詰めだけだった」
 ローランが追い打ちをかける。
「してない。ひーどーいー」
「泣かないで下さい、エルヴェ様」
 オレの頭を撫でるユベール。お前も知っていただろ。

「そういや、この街には神殿は無いのかな」
「この国は自由なので様々な宗教があります。なのでどこも小さな教会ですね。公都にはいくつかあるようです」
「ふうん」
 オレこの国のがいいけど、神子ってのはどうなるんだ、その場合。
 …………、深く考えるのは止めよう。

「エルヴェって、色々知ってるようで何も知らないよね」
 レスリーが薬草を採集しながら言う。
「エルヴェ様はそれでいいのです」
 シレっと答えるユベール。
「甘々だね」
「ちゃんと知っといた方がいいんじゃないか」
 ローランがまっとうな意見を吐く。おお、二人の意見が割れた。
「放っといたら後で困るだろ」
「それはどういう意味ですか」
 こらこら、睨み合っているんじゃない。オレ達やっと逃れて来て、これからってとこだろう。よし、久しぶりにアレを祈ろう。
『リラックス』
 温い風が4人を包んだ。
「……んーー、何か眠くなっちゃった」
 レスリーがローランに寄りかかって、くったりと眠ってしまった。みんな、初めての国で気を張ってたんだね。ローランもユベールも気が抜けた顔をしている。
「ローラン、背負う?」
「ああ、頼むわ」
 ユベールとオレとでレスリーを抱えて、ローランの背中に乗せる。
 ローランが背負って、みなで街にとぼとぼ帰った。

 ギルドで納品を終えると、その日はもう宿に帰ることにした。

「大丈夫ですエルヴェ様、私が居ます。いつもお側に。あなたはこの世界に降るように溶け込むように、ゆっくりと馴染んで行けばいいんです」
「そうだね、ユベール」
 焦ってもしょうがないと思うし、そう、降るように溶け込むように──。


  ***

 ローランとレスリーは商業ギルドで仕事を探し始めた。
 オレとユベールは採集をしながら、討伐もこなしてレベル上げに勤しむ。
 街の近くに出るのは、そんなに強くない魔物でオレには丁度良い。

「エルヴェ様、武器を買いましょうか」
「オレも持った方がいいか?」
「はい、囲まれたり、いきなり襲われると危ないですから」

 オレはユベールの後ろから魔法で支援したり攻撃したりだ。
 ただ、ウサギとか見ると可愛いと思ってしまうし、ムササビとか見ると飛んでるーとボケらと見ているし、オオカミを見るとかっこいいと思ってしまう。
 最初の一歩が出るのが遅くて、逃げて行くヤツはまだいいが、気が付くと目の前に迫っているという事がざらにある。動きの早い魔物に囲まれたりしたら危ない。

「分かった。オレに適性のある武器ってあるのかな」
 神官だったらメイスか? 殴る奴だよな、重そうだけど。

 ユベールと冒険ギルドで初心者用の武器を色々持ってみたが、皆重くてオレが持って振り回せるのはショートソードくらいだ。ギルドで武具屋を幾つか教えてもらって、のんびり見て回ることにした。

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