召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり

文字の大きさ
上 下
18 / 44

18 新生活

しおりを挟む

 古くから漁業の盛んなエデッサの街は、砦のある山の麓のビエンヌ公国の軍港と、新しく出来た歓楽街があり非常に賑やかである。
 最近、この街にヴィラーニ王国から流れて来る人が増えているという。だから明らかに怪しげな格好をしているオレたちも目立たなかった。

 オレは平民のエルヴェになった。公国は身分制度が少し緩い。あまり差別も無く実力でのし上がれる。国は議会制で、貴族議員と平民の議員がいる。
 ビエンヌ大公は公国に君臨する象徴的存在だという。
 エデッサの街は自治都市として独自に自警団組織を持ち、砦と軍港は国が治め、歓楽街と漁港は市民の代表が運営している。

 オレ達4人はビエンヌ公国のエデッサの宿に落ち着いた。
 しかし、オレ達は賑やかな歓楽街を避けて、古くからある漁港側のこじんまりした宿に泊まったので、宿には風呂が無かった。
「風呂ーー!」
 と泣き叫ぶオレをあやしながらも、やる事はやるユベールであった。

 ユベールとふたりきりになって、押し込めていた質問をする。
「なあ、オレこの世界に来てから男しか見ていない」
「男しかいませんよ。他に何がいるんですか?」
 女がいないとか、ああ、ファンタジーな世界だ。
 別に勇者ハーレムとか望んでいないけれど、彩りとか欲しくないか。

「大体、子供はどうする? お前、母親とか居ただろ」
「母が卵を孕んで、私が生まれました」
「口から?」
「下からですよ」
 当たり前だという風に溜め息をつかれた。
 うーん……。
「大丈夫ですよ、エルヴェ様。その時はちゃんと介添えいたします」
 ええと、もしかしてオレがこいつの子供を産むのか?
 じっと顔を見ると嬉しそうにキスをする。そうなのか!?


 翌朝、オレとユベールの間に居たハナコがするりと抜け出した。
『オハヨウゴザイマス』
「ふえ? ダレ……?」
 寝ぼけ眼で返事するが、この部屋にはオレとユベールだけだ。ユベールはまだオレの背後にいるし、今のは誰だ?
『ハナコデゴザイマス』
 薄く目を開けると、目の前に半透明の人形が居た。ご丁寧にちゃんと服を着ている。顔の造作もちゃんと作ってあって、髪もあるようだが。ハナコに服を買ってやってはいない。というか、今までにょろにょろだったのだが。
「お前、ハナコなの? いきなりどうしたんだ、ハナコ」
『私ハ、レベルアップシテ、話セルヨウニナッタノデス』
「私たちの頑張りの賜物ですね」
 ユベールはまだオレの身体に手を回したままだ。
『ハイ。コレヨリ私ハ、執事ヲ目指シタイト存ジマス』
「期待していますよ、ハナコ」
『ハイ、頑張リマス』
 オレをほっぽらかして、二人で勝手に話を決めている。
 執事って何をするんだっけ? オレ達にそんなものがいるのか? まだ家もないのに。目指しているからいいのか。

 支度をして食堂に下りると、レスリーとローランは、もう食事を終えてお茶を飲んでいた。
「おはよう、エルヴェ。遅かったな」
「おはよう、レスリー、ローラン。遅くなってごめん」
「おはようございます」

 オレ達は取り敢えず、朝の食堂でこれからの事を話し合った。
「僕達はこのエデッサの街に住んで、仕事を探しながら、しばらく王国の様子を見ていようと思うんだ」
「ここで落ち着いたら、家族にも連絡を入れようと思っている」
 レスリーとローランは堅実だ。

「そうか、オレ達は冒険者ギルドに登録しようと思っているんだ」
 オレがユベールと話し合ったことを言うと驚かれた。
「冒険者になるのか、変わっているな」
 冒険者は変わっているのか。まあ、仕事内容を考えれば堅気とは思えないけれど、ゲームでは当たり前だっただけにちょっとショックだ。
 そうか、神殿勤務だと冒険者は常識じゃないんだな。
「商業ギルドに登録して、仕事を探すのもいいかもしれないね」
 レスリーが言い出して、そういうのもあったなと気付く。
「どちらも登録できますよ」
 ユベールが言うのでみんなで行くことにした。


 エデッサの冒険者ギルドは宿の近くにあった。新興の歓楽街を避けて漁港寄りの宿にしたから、昔からあるギルドの近くになったらしい。

 ギルドの建物は古かったが大きくて立派で、中は役所のように部署が別れ整然としていた。隣に商業ギルドの建物があり、裏には訓練場があるという。
 広い食堂があったが、まだ昼には早くて人はあまりいなかった。

 受付で名前を書いて登録する。
「どちらからいらっしゃいました?」
「ヴィラーニ王国から」
「では検問の仮証書を見せて下さい」
 受付はオレの証書を受け取ると、例の半球の水晶の下に置いて、新しいカードをかざした。光が一往復してカードが輝く。
「こちらがエルヴェ様の冒険者カードになります。カードは身分証明になりますので無くさないように。無くした場合は賠償金が発生します。3回無くすと登録が無効になります、お気を付けください」
「詳しい事はこちらに」とパンフレットをくれた。

 カードには名前と年齢、そしてランクが書かれている。
『エルヴェ、16歳、冒険者ランクF』
 いたってシンプルで安心した。
 誕生日がいつなのか、いつの間にか16歳になっていた。
「私も20歳になりました」
 自分のカードを見ながらユベールが言う。
「そっか、誕生日祝いでもするか」

 オレが冒険者登録して、嬉しそうにカードを見ていると、レスリーとローランも釣られて登録した。ユベールはすでに効力が切れているとかで、エデッサで登録し直した。登録料は銀貨1枚で、冒険者登録は3年放置で無効になるそうだ。
 まだまっさらなカード。倒した魔獣や、採集した素材など納品したものなどが書かれて行くという。

 ついでに商業ギルドにも登録した。
 何が納品できるのか調べると、普通に回復薬とか毒消しとかあった。
 オレ、製作とか出来るんだろうか。

 昼過ぎに登録が終わったので、ギルドの近くの食堂で食事をした。
 魚介類のたくさん入ったスープだ。美味い。新鮮な魚介類をふんだんに使った濃厚な出汁のスープにパンをちぎって入れて食べる。美味い。魚もエビも大きな貝も美味ーい。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生した気がするけど、たぶん意味はない。(完結)

exact
BL
11/6〜番外編更新【完結済】 転生してきたのかなーと思いつつも普通に暮らしていた主人公が、本物の主人公と思われる人物と出会い、元の世界に帰りたがっている彼を手伝う事こそ転生の意味だったんだと勝手に確信して地道に頑張る話。元同級生✕主人公(受け)。ゆるーっと話が進みます。全50話。 表紙は1233様からいただきました。

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

処理中です...