召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり

文字の大きさ
上 下
15 / 44

15 船旅

しおりを挟む

 はあ……、腰が痛い。
 背後からオレを抱く手。オレが起きたのに気付いて、また引き寄せる。
 オレ達の腰の間で、くねくねと動いているのは何だろう。挟まれてにょろりと足元に逃げて行ったが。
「ああ、エルヴェ様」
 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ。
 後の男が身体に手を回して、首筋と言わず、耳と言わず、肩と言わず、唇を這わしてくる。甘い……、コイツ、こんな奴だっけ。

 ていうか、何でオレ、男とくっ付いてんの? 入れられる方が良かったっけ?
 全部あの薬のせいだよな。ていうか、コイツ離れてくれない。
「おい、オレの身体を壊す気か」
 後ろの男を睨み上げて言うと、しぶしぶ手を離した。
「分かりました。今日は控えておきます」

 身を起こしたユベールの裸身を見て驚く。こんな、身体が獰猛で凶悪な奴って、知らない。きっちりと鍛えられた男の肉体を、思わずじっと見入ってしまう。
「どうかなさいましたか?」
 オレの視線に気付いて顔を向ける。いやその顔でこの身体は反則だよな。蝋人形のような顔も今は少し上気してエロい、色気が駄々漏れだ。少しきついが整った顔、薄青の瞳がすっと細められて近付いてくる。
「そんなお顔をされると、もう少し──」
 手が乱れたオレの髪をかき上げて、唇が額に頬に鼻にそして唇に降ってる。
「いやいやいや。殺す気か」
 チュッと唇にキスをして離れた男は、名残惜しそうに部屋を出て、手早くシャワーを浴びてシャツとトラウザー姿で戻って来た。甲斐甲斐しくオレの世話を焼きだす。

 オレも起きたい、シャワーを浴びたい、でも腰が痛いんだよ。
 オレの腰痛の原因を作った男は、お湯とタオルを持って来て、せっせときれいに身体を拭って、真新しいシャツを着せかける。
「これは?」
「エルヴェ様に似合うと思って購入しました」
「ありがとう。でもそんな暇あったのか?」
「スライムが来たのでシャツだけです」
 無念そうに唇を引き結ぶ。そのスライムハナコはオレの側でくねくねと体をくねらせている。
「ん? なあ、こいつ何だか大きくなっていないか?」
「ああ、このスライムは体液を養分にしているようですね」
「体液……?」
「血液とか精液とか汗とか涙とかですか。魔力が乗りやすいですから」
「ああそう……」
 昨日の事が出来の悪いパラパラ漫画のようによみがえって遠い目をした。無理やりファンタジーなんだと自分を納得させる。
 このまま大きくなったらどうなるんだろうと、チラッと心配したけど、ハナコはご機嫌でグネグネしている。何だか手のようなモノも足のようなモノも生えたようだが、何を目指しているのかな。

「オレ、媚薬のせいか、腹が立ってやり過ぎてしまったような気がするんだ」
「そうですね、皆恐れ慄いていました。すごいです」
「いや、すごいというよりも、やばい事やってしまったっていう気が──」
 神子とは言わなかったような気がするが、正直覚えていない。ただスキルは好き放題使ったので、調べれば分かってしまうかも──。

「離宮でかなり暴れてしまったので、犯人として捜索されるかもしれません」
「オレ達がか? 奴隷商人たちは捕まらないのか?」
「ヴィラーニ王国は奴隷の売買を禁止しておりません。最近は他国の圧力と、奴隷の質の低下で年に1度になったようです」
 こいつよく知っているよな。じっと顔を見ると「耳がいいもので」とシレっと答えた。部屋の外に居たり、離れて待機していても駄々漏れか。盗聴器並みだな。
 何でこんな高性能な奴を手放したのだろう。

「お前、オレと一緒に来てよかったのか?」
 今更ながら聞いてみる。
「そうですね、神殿騎士に取り立ててやるとか、司祭付きにしてやるとか言っていましたが──」
 何と、好待遇をチラつかせていたのか!?
「私はエルヴェ様がいらっしゃらなければ、神殿を出て行くつもりでしたので」
 ええと、どこから突っ込んだらいいのかな。
 取り敢えず、後の祭りという事で全部流そうか。そうだ、そうしよう。

「あいつら、兵を出して追いかけて来るかな」
「この川船は早いですし、あの惨状だとどうでしょう」
 オレはもげろって思っただけで、誰もたいして怪我なんかしてない筈だが。
「しばらくはビエンヌ公国辺りに行って潜伏しましょう」
「うん」
 ビエンヌ公国は中立の国か。奴隷を禁止している国なら捕まらないだろうか。


 船室から外に出ると川の片側は切り立った絶壁で、反対側は黒々とした森がまだ続いていた。川幅は広く流れは穏やかだが船は早い。時折、船がすれ違う。
「この船は魔道スクリューで進んでいます。他の船より速いでしょう?」
 オレがすれ違った船を目で追っていると、隣にいるユベールが説明する。確かに乗っているこの船の方が早いような気がする。他の船は水車みたいなのを船体の横とか後ろに付けているし。

「あんちゃん、よく知ってるな。確かにこの船は早いからよ、時々横から無理言って乗ってくる奴がいるんだ。速いけど操縦は難しいんだぜ」
 船長が腕を組んでニヤリと笑う。どこにも居るよな、傍若無人に割り込んでくる奴。
「スクリューって、プロペラみたいな?」
「そうそう、いずれもっといいのが出来るぜ」
「空を飛ぶようなのが?」
「空は飛べねえな、ドラゴンにでも乗せてもらいな」
「ドラゴンっているの?」
「俺は遭ったことはねえけどな」
 ドラゴンがいるとかファンタジーそのものだ。
 興味津々に聞くエルヴェを川船の船長は面白そうに見ている。

 今はいつ頃だろう、この世界にも四季はあるのだろうか。うららかに空は晴れて、ほわほわと空気は暖かい。絶壁にへばり付くように生えている小型の樹木にピンクの花が咲いている。
「今日は何日だ?」
 そういや、エルヴェの部屋にはカレンダーが無かった。教室に行けば神官がその日の仕事を割り振っていたし、オレは一杯一杯で気付きもしなかった。
「5月15日です」
「一年は何か月ある?」
「12か月ですが」
 ああ、そこは元の世界と同じだ。オレがこっちに来てもうすぐ2か月になるのか。

「おーい、外に出ても大丈夫なのか?」
 この船にはレスリーとローランも乗っている。船室に続くドアから恐る恐る顔を覗かせて聞いた。
 船長を見ると「もうすぐ湿地帯に着くから大丈夫だ」と頷いた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生した気がするけど、たぶん意味はない。(完結)

exact
BL
11/6〜番外編更新【完結済】 転生してきたのかなーと思いつつも普通に暮らしていた主人公が、本物の主人公と思われる人物と出会い、元の世界に帰りたがっている彼を手伝う事こそ転生の意味だったんだと勝手に確信して地道に頑張る話。元同級生✕主人公(受け)。ゆるーっと話が進みます。全50話。 表紙は1233様からいただきました。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

ギルドの受付の誤想

猫宮乾
BL
 元冒険者で、ギルドの受付をしている僕は、冒険者時代に助けてくれたSランク冒険者のシオンに恋をしている。そのシオンが自分と同じように『苔庭のイタチ亭』という酒場の常連だと気づいてから、叶わぬ片想いだとは思いつつ、今まで以上に店に通い、長時間滞在していた。そんなある日、シオンに話しかけられて、「好きな相手がいる」と聞いてしまい、僕は失恋した――かと、思いきや。  ※居酒屋BL企画2020の参加作品です(主催:くま様/風巻ユウ様/三谷玲様/猫宮乾)、よろしければご覧・ご参加下さい。異世界の酒場『苔庭のイタチ亭』にまつわるお話です。タグのみで、ご参加頂けます(⇒ 居酒屋BL2020)

処理中です...