7 / 44
07 王都に置き去りになる
しおりを挟む
オレがこっちに来て25日目、孤児院への奉仕活動があった。神官見習い7、8人と2人の神官を乗せた2台の馬車と護衛で孤児院に向かう。
奉仕作業は子供と遊んだり、贈り物をしたり、本を読んだりで、オレは皆と同じように行動して無事に奉仕活動は終わりを告げた。
しかし、帰り際に子供が転んで泣きついて来たので、一番後ろに居たオレが仕方なく子供を抱えて部屋に運んだ。
転んでケガをした膝を『ヒール』で治して『リラックス』と唱えると子供は眠ってしまった。
子供の部屋から出ると孤児院の職員が慌てた。
「皆さま、もうお帰りになりました」
オレを置いて馬車は神殿に帰ってしまったようだ。オレは王都にひとりで取り残された。辻馬車とか乗合馬車とかないんだろうか。
「歩いて帰ります」
職員にそう言って孤児院を出たけれど、帰れる気がしない。さて、どうしよう。
ステータス画面の王都パルトネを見て『マップ』と呟く。
神殿から孤児院までの馬車で通った道が表示された。
『探知』を覚えました。
(おお、コレがあるとダンジョンとか行けるんじゃないか?)
いや、先の事はいい。取り敢えずこれをたどって帰るしかないか。そういえば魔法を試すチャンスだった。
オレをこっちに転生させてくれた存在は【収納庫】だけでなく、属性魔法もすべて使えるようにしてくれていた。異世界転生・大盤振る舞いは嬉しいけれど、何でなのかは分からない。
神殿では、一応属性魔法もサラッと本で教えてくれる。実技は聖魔法それも回復系だけだ。オレは『ヒール』と『キュア』だけしか覚えていない。
それで属性魔法は水場で練習している。水と風魔法が練習しやすく、火魔法は一度水場に火球を放り込んだら、熱くて入れなくなって冷ますのに苦労した。
風を纏う感じで唱える。
「風よ、我が身を包め『エアウィング』」
そのまま走って飛び上がる。身体が浮いた。バランスが難しいが、いける。
水場の周りをぐるぐる飛んで練習した甲斐があった。これも一度落下して『ヒール』で回復した。回復魔法が使えるって便利だなあとしみじみ思ったのだ。
家の屋根の上を見つからないように走って飛びながら行く。アクション映画で見た屋根の上の追いかけっこのイメージだ。
こちらに転生して段々自分の精神年齢が、元のエルヴェの歳に近付いて来ている気がする。ガキっぽくなったと言えばいいか。
しばらく馬車の跡を追いかけて飛んでいると広場に出た。屋台が出て賑やかだ。目立たない木の陰にこそっと降りる。王都で自由にできる時間が出来て浮かれた。
マップを見て賑やかな通りを歩き宝飾店を探した。
何はともあれ必要なのはお金だ。一番面倒が無さそうな安い宝石から換金してみよう。安い順にソートして、オレが持っていてもおかしくないような、でも売れるような……、難しいな。売れなければ諦めるか。
結局トパーズのペンダントトップを見つけて、皮袋に入れて宝飾店に行く。
「いらっしゃいませ」
執事風の男が出迎えた。
「これを換金できますか?」
男はチラリとオレを見て、宝石を受け取った。しばらく調べた後で、
「そうですね、銀貨2枚と銅貨3枚でいかがでしょうか」
換金してくれるようだ。
「それでいいです」
アイテムボックスの値段では銀貨3枚ほどの価値だったが、飛び入りではそんなものか。換金してくれただけマシかもしれない。
「ありがとうございます」
感謝の祈りを捧げてお金を受け取った。
「あ、ああ……」
店の男の様子がおかしい。
「どうしました? 大丈夫ですか?」
男はさめざめと泣きだした。これは『浄化』もかけた方がいいだろうか。
『クリーン』『浄化』
店の中をキラキラと清浄な空気が流れる。
「ああ、神官様。ありがとうございます」
「大丈夫ですか?」
「はい、すっかり。実はこの所、生き辛くて……」
おや、この人もか。
「ご助言をお願いします、神官様。この街にいるのが辛いのです」
「真面目に生きているあなたなら、真面目な国に行かれた方がよろしいかと」
かなり適当な言葉が口からついて出た。
「ああ、ありがとうございます。早速そうさせていただきます。これは少ないですがお礼でございます」
男は自分の革袋を差し出して手を合わせた。
「ご丁寧にありがとうございます」
オレもこの国を出るには現金が必要なんだ。喜んで受け取ろう。
「では、これをあなたに差し上げましょう」
【収納庫】から小さいが少し値の張る宝石を出して置いた。
「あなたにご『加護』がありますように」
この男がこの国を出るなら、無事に出られるように祈らずにはいられない。
「神官様、ありがとうございます」
宝石を押し頂く男を残して店を出た。
広場に向かう途中で小間物屋を見つけて入る。
小銭入れによい革袋と丈夫な布のバッグを買った。銀貨と銅貨を少し小銭入れに入れて、後は宝飾店の男に貰った革袋に入れて【収納庫】に仕舞う。
出来れば服も買いたいが、店も知らないし時間がかかる。あまり遅く帰っても良くないだろうな。待てよ、このまま神殿から逃げ出すという選択肢もあるよな。
広場まで戻って、屋台の肉の串焼きとか、果実水とか、美味そうなパンやお菓子や果物を買って、布の袋に入れたように偽装して【収納庫】に仕舞った。
『探知』でマップを開いて、神殿までの帰り道を確認する。
(どうしよう、このまま神殿から逃げるか?)
迷っていると、突然、後ろからドンとぶつかられて転びそうになった。
「わっ!」
びっくりしていると、持っていた布の袋をひったくって少年が逃げて行く。呆然とそれを見送った。
近くの屋台のオヤジが苦笑いで見ている。
「はあ……、やられた」
溜め息が零れた。この国は治安が良くないのだった。オレはアホか。
頭を振って歩き出そうとすると、広場にいる人々の間から、見知らぬ男が何人か、こちらに近付いてくるのが見えた。
人相が悪い。服装も腕やら脛やら剥きだして、皮鎧風の防具を付けたゴツイ男達だった。こんな所に神官見習いがひとりで歩いているなんて絶好のカモだ。
逃げなきゃ。
「風よ、我が身を包め『エアウィング』」
男たちのいない方に、走って飛びあがる。だが棒切れを投げられて地面に転がった。
「くっ」
痛い、がそんな事を思う暇はない。立ち上がって逃げようとするが、男の腕が伸びてオレの腕を掴んで引き倒した。ハナコがオレのポケットから飛び出て、男の顔にビタンと張り付く。
「この!」
男はハナコを引き剥がして路上に捨てた。その隙に逃げようとしたが、他の男がオレの腕をんで引き倒す。
「いやだっ!」
周りを見るが誰も知らん顔だ。生き辛い国なのか。
奉仕作業は子供と遊んだり、贈り物をしたり、本を読んだりで、オレは皆と同じように行動して無事に奉仕活動は終わりを告げた。
しかし、帰り際に子供が転んで泣きついて来たので、一番後ろに居たオレが仕方なく子供を抱えて部屋に運んだ。
転んでケガをした膝を『ヒール』で治して『リラックス』と唱えると子供は眠ってしまった。
子供の部屋から出ると孤児院の職員が慌てた。
「皆さま、もうお帰りになりました」
オレを置いて馬車は神殿に帰ってしまったようだ。オレは王都にひとりで取り残された。辻馬車とか乗合馬車とかないんだろうか。
「歩いて帰ります」
職員にそう言って孤児院を出たけれど、帰れる気がしない。さて、どうしよう。
ステータス画面の王都パルトネを見て『マップ』と呟く。
神殿から孤児院までの馬車で通った道が表示された。
『探知』を覚えました。
(おお、コレがあるとダンジョンとか行けるんじゃないか?)
いや、先の事はいい。取り敢えずこれをたどって帰るしかないか。そういえば魔法を試すチャンスだった。
オレをこっちに転生させてくれた存在は【収納庫】だけでなく、属性魔法もすべて使えるようにしてくれていた。異世界転生・大盤振る舞いは嬉しいけれど、何でなのかは分からない。
神殿では、一応属性魔法もサラッと本で教えてくれる。実技は聖魔法それも回復系だけだ。オレは『ヒール』と『キュア』だけしか覚えていない。
それで属性魔法は水場で練習している。水と風魔法が練習しやすく、火魔法は一度水場に火球を放り込んだら、熱くて入れなくなって冷ますのに苦労した。
風を纏う感じで唱える。
「風よ、我が身を包め『エアウィング』」
そのまま走って飛び上がる。身体が浮いた。バランスが難しいが、いける。
水場の周りをぐるぐる飛んで練習した甲斐があった。これも一度落下して『ヒール』で回復した。回復魔法が使えるって便利だなあとしみじみ思ったのだ。
家の屋根の上を見つからないように走って飛びながら行く。アクション映画で見た屋根の上の追いかけっこのイメージだ。
こちらに転生して段々自分の精神年齢が、元のエルヴェの歳に近付いて来ている気がする。ガキっぽくなったと言えばいいか。
しばらく馬車の跡を追いかけて飛んでいると広場に出た。屋台が出て賑やかだ。目立たない木の陰にこそっと降りる。王都で自由にできる時間が出来て浮かれた。
マップを見て賑やかな通りを歩き宝飾店を探した。
何はともあれ必要なのはお金だ。一番面倒が無さそうな安い宝石から換金してみよう。安い順にソートして、オレが持っていてもおかしくないような、でも売れるような……、難しいな。売れなければ諦めるか。
結局トパーズのペンダントトップを見つけて、皮袋に入れて宝飾店に行く。
「いらっしゃいませ」
執事風の男が出迎えた。
「これを換金できますか?」
男はチラリとオレを見て、宝石を受け取った。しばらく調べた後で、
「そうですね、銀貨2枚と銅貨3枚でいかがでしょうか」
換金してくれるようだ。
「それでいいです」
アイテムボックスの値段では銀貨3枚ほどの価値だったが、飛び入りではそんなものか。換金してくれただけマシかもしれない。
「ありがとうございます」
感謝の祈りを捧げてお金を受け取った。
「あ、ああ……」
店の男の様子がおかしい。
「どうしました? 大丈夫ですか?」
男はさめざめと泣きだした。これは『浄化』もかけた方がいいだろうか。
『クリーン』『浄化』
店の中をキラキラと清浄な空気が流れる。
「ああ、神官様。ありがとうございます」
「大丈夫ですか?」
「はい、すっかり。実はこの所、生き辛くて……」
おや、この人もか。
「ご助言をお願いします、神官様。この街にいるのが辛いのです」
「真面目に生きているあなたなら、真面目な国に行かれた方がよろしいかと」
かなり適当な言葉が口からついて出た。
「ああ、ありがとうございます。早速そうさせていただきます。これは少ないですがお礼でございます」
男は自分の革袋を差し出して手を合わせた。
「ご丁寧にありがとうございます」
オレもこの国を出るには現金が必要なんだ。喜んで受け取ろう。
「では、これをあなたに差し上げましょう」
【収納庫】から小さいが少し値の張る宝石を出して置いた。
「あなたにご『加護』がありますように」
この男がこの国を出るなら、無事に出られるように祈らずにはいられない。
「神官様、ありがとうございます」
宝石を押し頂く男を残して店を出た。
広場に向かう途中で小間物屋を見つけて入る。
小銭入れによい革袋と丈夫な布のバッグを買った。銀貨と銅貨を少し小銭入れに入れて、後は宝飾店の男に貰った革袋に入れて【収納庫】に仕舞う。
出来れば服も買いたいが、店も知らないし時間がかかる。あまり遅く帰っても良くないだろうな。待てよ、このまま神殿から逃げ出すという選択肢もあるよな。
広場まで戻って、屋台の肉の串焼きとか、果実水とか、美味そうなパンやお菓子や果物を買って、布の袋に入れたように偽装して【収納庫】に仕舞った。
『探知』でマップを開いて、神殿までの帰り道を確認する。
(どうしよう、このまま神殿から逃げるか?)
迷っていると、突然、後ろからドンとぶつかられて転びそうになった。
「わっ!」
びっくりしていると、持っていた布の袋をひったくって少年が逃げて行く。呆然とそれを見送った。
近くの屋台のオヤジが苦笑いで見ている。
「はあ……、やられた」
溜め息が零れた。この国は治安が良くないのだった。オレはアホか。
頭を振って歩き出そうとすると、広場にいる人々の間から、見知らぬ男が何人か、こちらに近付いてくるのが見えた。
人相が悪い。服装も腕やら脛やら剥きだして、皮鎧風の防具を付けたゴツイ男達だった。こんな所に神官見習いがひとりで歩いているなんて絶好のカモだ。
逃げなきゃ。
「風よ、我が身を包め『エアウィング』」
男たちのいない方に、走って飛びあがる。だが棒切れを投げられて地面に転がった。
「くっ」
痛い、がそんな事を思う暇はない。立ち上がって逃げようとするが、男の腕が伸びてオレの腕を掴んで引き倒した。ハナコがオレのポケットから飛び出て、男の顔にビタンと張り付く。
「この!」
男はハナコを引き剥がして路上に捨てた。その隙に逃げようとしたが、他の男がオレの腕をんで引き倒す。
「いやだっ!」
周りを見るが誰も知らん顔だ。生き辛い国なのか。
47
お気に入りに追加
515
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
転生した気がするけど、たぶん意味はない。(完結)
exact
BL
11/6〜番外編更新【完結済】
転生してきたのかなーと思いつつも普通に暮らしていた主人公が、本物の主人公と思われる人物と出会い、元の世界に帰りたがっている彼を手伝う事こそ転生の意味だったんだと勝手に確信して地道に頑張る話。元同級生✕主人公(受け)。ゆるーっと話が進みます。全50話。
表紙は1233様からいただきました。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる