召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり

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07 王都に置き去りになる

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 オレがこっちに来て25日目、孤児院への奉仕活動があった。神官見習い7、8人と2人の神官を乗せた2台の馬車と護衛で孤児院に向かう。

 奉仕作業は子供と遊んだり、贈り物をしたり、本を読んだりで、オレは皆と同じように行動して無事に奉仕活動は終わりを告げた。
 しかし、帰り際に子供が転んで泣きついて来たので、一番後ろに居たオレが仕方なく子供を抱えて部屋に運んだ。
 転んでケガをした膝を『ヒール』で治して『リラックス』と唱えると子供は眠ってしまった。

 子供の部屋から出ると孤児院の職員が慌てた。
「皆さま、もうお帰りになりました」
 オレを置いて馬車は神殿に帰ってしまったようだ。オレは王都にひとりで取り残された。辻馬車とか乗合馬車とかないんだろうか。
「歩いて帰ります」
 職員にそう言って孤児院を出たけれど、帰れる気がしない。さて、どうしよう。


 ステータス画面の王都パルトネを見て『マップ』と呟く。
 神殿から孤児院までの馬車で通った道が表示された。
『探知』を覚えました。
(おお、コレがあるとダンジョンとか行けるんじゃないか?)
 いや、先の事はいい。取り敢えずこれをたどって帰るしかないか。そういえば魔法を試すチャンスだった。

 オレをこっちに転生させてくれた存在は【収納庫】だけでなく、属性魔法もすべて使えるようにしてくれていた。異世界転生・大盤振る舞いは嬉しいけれど、何でなのかは分からない。

 神殿では、一応属性魔法もサラッと本で教えてくれる。実技は聖魔法それも回復系だけだ。オレは『ヒール』と『キュア』だけしか覚えていない。
 それで属性魔法は水場で練習している。水と風魔法が練習しやすく、火魔法は一度水場に火球を放り込んだら、熱くて入れなくなって冷ますのに苦労した。

 風を纏う感じで唱える。
「風よ、我が身を包め『エアウィング』」
 そのまま走って飛び上がる。身体が浮いた。バランスが難しいが、いける。

 水場の周りをぐるぐる飛んで練習した甲斐があった。これも一度落下して『ヒール』で回復した。回復魔法が使えるって便利だなあとしみじみ思ったのだ。
 家の屋根の上を見つからないように走って飛びながら行く。アクション映画で見た屋根の上の追いかけっこのイメージだ。

 こちらに転生して段々自分の精神年齢が、元のエルヴェの歳に近付いて来ている気がする。ガキっぽくなったと言えばいいか。

 しばらく馬車の跡を追いかけて飛んでいると広場に出た。屋台が出て賑やかだ。目立たない木の陰にこそっと降りる。王都で自由にできる時間が出来て浮かれた。
 マップを見て賑やかな通りを歩き宝飾店を探した。

 何はともあれ必要なのはお金だ。一番面倒が無さそうな安い宝石から換金してみよう。安い順にソートして、オレが持っていてもおかしくないような、でも売れるような……、難しいな。売れなければ諦めるか。

 結局トパーズのペンダントトップを見つけて、皮袋に入れて宝飾店に行く。
「いらっしゃいませ」
 執事風の男が出迎えた。
「これを換金できますか?」
 男はチラリとオレを見て、宝石を受け取った。しばらく調べた後で、
「そうですね、銀貨2枚と銅貨3枚でいかがでしょうか」
 換金してくれるようだ。
「それでいいです」
 アイテムボックスの値段では銀貨3枚ほどの価値だったが、飛び入りではそんなものか。換金してくれただけマシかもしれない。

「ありがとうございます」
 感謝の祈りを捧げてお金を受け取った。
「あ、ああ……」
 店の男の様子がおかしい。
「どうしました? 大丈夫ですか?」
 男はさめざめと泣きだした。これは『浄化』もかけた方がいいだろうか。
『クリーン』『浄化』
 店の中をキラキラと清浄な空気が流れる。
「ああ、神官様。ありがとうございます」
「大丈夫ですか?」
「はい、すっかり。実はこの所、生き辛くて……」
 おや、この人もか。

「ご助言をお願いします、神官様。この街にいるのが辛いのです」
「真面目に生きているあなたなら、真面目な国に行かれた方がよろしいかと」
 かなり適当な言葉が口からついて出た。
「ああ、ありがとうございます。早速そうさせていただきます。これは少ないですがお礼でございます」
 男は自分の革袋を差し出して手を合わせた。

「ご丁寧にありがとうございます」
 オレもこの国を出るには現金が必要なんだ。喜んで受け取ろう。
「では、これをあなたに差し上げましょう」
【収納庫】から小さいが少し値の張る宝石を出して置いた。
「あなたにご『加護』がありますように」
 この男がこの国を出るなら、無事に出られるように祈らずにはいられない。
「神官様、ありがとうございます」
 宝石を押し頂く男を残して店を出た。

 広場に向かう途中で小間物屋を見つけて入る。
 小銭入れによい革袋と丈夫な布のバッグを買った。銀貨と銅貨を少し小銭入れに入れて、後は宝飾店の男に貰った革袋に入れて【収納庫】に仕舞う。

 出来れば服も買いたいが、店も知らないし時間がかかる。あまり遅く帰っても良くないだろうな。待てよ、このまま神殿から逃げ出すという選択肢もあるよな。

 広場まで戻って、屋台の肉の串焼きとか、果実水とか、美味そうなパンやお菓子や果物を買って、布の袋に入れたように偽装して【収納庫】に仕舞った。

『探知』でマップを開いて、神殿までの帰り道を確認する。
(どうしよう、このまま神殿から逃げるか?)
 迷っていると、突然、後ろからドンとぶつかられて転びそうになった。
「わっ!」
 びっくりしていると、持っていた布の袋をひったくって少年が逃げて行く。呆然とそれを見送った。
 近くの屋台のオヤジが苦笑いで見ている。

「はあ……、やられた」
 溜め息が零れた。この国は治安が良くないのだった。オレはアホか。
 頭を振って歩き出そうとすると、広場にいる人々の間から、見知らぬ男が何人か、こちらに近付いてくるのが見えた。
 人相が悪い。服装も腕やら脛やら剥きだして、皮鎧風の防具を付けたゴツイ男達だった。こんな所に神官見習いがひとりで歩いているなんて絶好のカモだ。
 逃げなきゃ。

「風よ、我が身を包め『エアウィング』」
 男たちのいない方に、走って飛びあがる。だが棒切れを投げられて地面に転がった。
「くっ」
 痛い、がそんな事を思う暇はない。立ち上がって逃げようとするが、男の腕が伸びてオレの腕を掴んで引き倒した。ハナコがオレのポケットから飛び出て、男の顔にビタンと張り付く。
「この!」
 男はハナコを引き剥がして路上に捨てた。その隙に逃げようとしたが、他の男がオレの腕をんで引き倒す。
「いやだっ!」
 周りを見るが誰も知らん顔だ。生き辛い国なのか。

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