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02 エルヴェと護衛
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オレは日本人で、30前の会社員で、事故で死んで……、
それが、どういう訳かオレはエルヴェとかいう人間に生まれ変わったらしい。
いや、オレという魂を得てエルヴェが生まれ変わったのか。
「エルヴェって?」
《エルヴェはこのサン=シモン大神殿の神官見習い。ここには何人もの神官と見習いがいて、エルヴェは落ちこぼれ。ひどい扱いで精神的に疲れ果て水場で死んだ》
ふうん、説明文が出るのか。至れり尽くせりだな。
エルヴェは死んでしまったのか。それでオレの転生先がこの身体になったのか? いや、神様とか会ってないし何も聞いてなくて憶測だけど。
15歳とか、若返っているな。状態、風邪気味か。神官見習いで落ちこぼれってどの程度のレベルなんだ。
「【異世界言語解読】ってどこまで?」
《読む、書く、聞く、話す》
「言葉は問題ないか。【収納庫】ってのはアイテムボックスか?」
《生き物収容不可、時間経過無、収容制限有》
「なるほど、コレがあるってのはラッキーなのか。この【転生者】っての隠せないの?」
《ユニークスキル、称号は普通の鑑定では表示されない》
なるほど。
ここは王都の大神殿で、オレは神官見習いで、落ちこぼれでレベルが低過ぎるっと。そうか、いてもいなくてもいい存在なのだな。だからみんな冷たいんだ。
「オレ、この国から勝手に出てもいいの?」
現在地のヴィラーニ王国を見ながら思うと《自由》と出た。そっか、良かった。こんな病人に冷たい国とか神殿とか願い下げだ。さっさと出て行くか。
頭が痛い。まだ寒気がする。
取り敢えず風邪を治したいが……、ヒールでいいのかな?
『ヒール』
ふわんと暖かい気配がしたがそれだけだ。
じゃあ『キュア』
暖かい気配とともに身体が軽くなった。
『ライト』を覚えました。
状態の風邪気味が消えた。魔法を2回唱えただけでレベルが上がった。おまけに『ライト』を覚えた。
へえ、転生ボーナスでも貰ったのか?
コンコンと音がして、オレが返事もしていないのに先程の男が入ってくる。
「エルヴェ様、午後の勉強のお時間です」
勉強か、その前にオレ飯食ったっけ?
「お腹が空いた」
「お食事の時間は決まっておりますが、食堂においでになりませんでしたね」
溜め息が出る。こいつ、オレのこと殺しにきてる?
「お腹が空いてふらふらして歩けないんだよ。お前ナニ? オレのこと憎いの? 殺したいの? オレ死にたくないんだけど」
男はオレの事をじっと見ている。警戒しているような目付きだ。
「エルヴェ様はあまり食事を召し上がりませんでした」
なるほど。オレは自分の身体を見る。痩せて骨の浮き出た細い身体だ。拒食症でも患っていたか。
ここでこいつに何を言っても無駄なような気がしてきた。どうしたもんかな。
実際ここを出てひとりでやっていけるのか?
いや、ここは出る。
長持に入っているのって着替えだけかな。オレの持ち物ってあるの? 財産も何も持っていないとか。
それって悲惨過ぎる……。
一度死んで、転生させて貰った身では何も文句は言えないが。
オレの【収納庫】って、何か入っているんだろうか。
男はまだベッドの横に立っている。邪魔だな。
「何か用?」
「あなたは誰ですか?」
「お前こそ誰?」
男と睨み合った。
男はオレより背が高くて体も大きい。薄青の瞳が眇められて低い声で言う。
「エルヴェ様はオレなんて言いません。神官もそんな言葉は使いません」
溜め息しか出ない。言葉の訂正が先で、オレの腹具合はどうでもいいらしい。
「オレはお腹が空いてふらふらで気分が悪いんだよ。お前、オレのことどうにかしたいなら、先に何とかしてくれる?」
男は溜め息を吐いて部屋を出て行った。こっちの方が溜め息をつきたいんだが、男が大きくて、武装しているからよく考えれば不味いかもしれない。言葉こそは丁寧だが。
男はすぐに戻って来た。手に食事の入ったトレーを持っている。机の上に乗せて「どうぞ」と無表情で言う。
「ありがとう」
不味そうなパンと薄そうなスープだが文句はない。オレは感謝して暖かいスープを平らげた。
「よし、さっそく聞こうか。その前に座ったら? ベッドが嫌ならオレがベッドに行くけど」
男は食事の間、後ろに立っていたようだが、嫌そうに首を横に振る。
「そう、じゃいいか。お前の名前は? オレとどういう関係?」
男は何とも言えない顔で睨んだが答えてくれた。
「私の名はユベール。平民でアベルジェルの出身です。それであなたの護衛につけられました」
「アベルジェルって……」
「あなたの父上のアベルジェル伯爵の領地です」
エルヴェって貴族の息子だったのか。それにしてもこの冷待遇。ステータス画面全部をチェックしとけばよかったな。ちょっと机の方を向いてチェック。
《エルヴェはアベルジェル伯爵の庶子。4男。聖属性魔法の素質があった為、神殿に預けられる。アベルジェル伯爵は宮中伯、領地にて諸侯を監視する》
ざっとした説明だな。ここまでの冷たい対応を見るに、属性魔法があったから親に引き取られた口だろうか、アベルジェル伯爵も吝嗇なのかもな。
「オレに才能が無くて残念だったな」
「別に」
「そうか、残念だったのは父親か」
親はいらない、神殿もいらない。ひとり立ちするのに最適だが、この世界って十五歳の少年に優しい世界かな? ヴィラーニ王国をチェック。
《政情不安、国境不穏。隣国ジンスハイム帝国国交小、ハッセルト王国国交無、ビエンヌ公国中立。国境ウロット山脈、ベアサイン森林、エール川》
あまり良さげな国ではないようだ。王都はどうか。
《無法地区、スラム街、貧困地区、下町、夜間、外出危険》
思わずそこに立っている護衛を見上げる。ひとりじゃ無理だ、コレ。
それが、どういう訳かオレはエルヴェとかいう人間に生まれ変わったらしい。
いや、オレという魂を得てエルヴェが生まれ変わったのか。
「エルヴェって?」
《エルヴェはこのサン=シモン大神殿の神官見習い。ここには何人もの神官と見習いがいて、エルヴェは落ちこぼれ。ひどい扱いで精神的に疲れ果て水場で死んだ》
ふうん、説明文が出るのか。至れり尽くせりだな。
エルヴェは死んでしまったのか。それでオレの転生先がこの身体になったのか? いや、神様とか会ってないし何も聞いてなくて憶測だけど。
15歳とか、若返っているな。状態、風邪気味か。神官見習いで落ちこぼれってどの程度のレベルなんだ。
「【異世界言語解読】ってどこまで?」
《読む、書く、聞く、話す》
「言葉は問題ないか。【収納庫】ってのはアイテムボックスか?」
《生き物収容不可、時間経過無、収容制限有》
「なるほど、コレがあるってのはラッキーなのか。この【転生者】っての隠せないの?」
《ユニークスキル、称号は普通の鑑定では表示されない》
なるほど。
ここは王都の大神殿で、オレは神官見習いで、落ちこぼれでレベルが低過ぎるっと。そうか、いてもいなくてもいい存在なのだな。だからみんな冷たいんだ。
「オレ、この国から勝手に出てもいいの?」
現在地のヴィラーニ王国を見ながら思うと《自由》と出た。そっか、良かった。こんな病人に冷たい国とか神殿とか願い下げだ。さっさと出て行くか。
頭が痛い。まだ寒気がする。
取り敢えず風邪を治したいが……、ヒールでいいのかな?
『ヒール』
ふわんと暖かい気配がしたがそれだけだ。
じゃあ『キュア』
暖かい気配とともに身体が軽くなった。
『ライト』を覚えました。
状態の風邪気味が消えた。魔法を2回唱えただけでレベルが上がった。おまけに『ライト』を覚えた。
へえ、転生ボーナスでも貰ったのか?
コンコンと音がして、オレが返事もしていないのに先程の男が入ってくる。
「エルヴェ様、午後の勉強のお時間です」
勉強か、その前にオレ飯食ったっけ?
「お腹が空いた」
「お食事の時間は決まっておりますが、食堂においでになりませんでしたね」
溜め息が出る。こいつ、オレのこと殺しにきてる?
「お腹が空いてふらふらして歩けないんだよ。お前ナニ? オレのこと憎いの? 殺したいの? オレ死にたくないんだけど」
男はオレの事をじっと見ている。警戒しているような目付きだ。
「エルヴェ様はあまり食事を召し上がりませんでした」
なるほど。オレは自分の身体を見る。痩せて骨の浮き出た細い身体だ。拒食症でも患っていたか。
ここでこいつに何を言っても無駄なような気がしてきた。どうしたもんかな。
実際ここを出てひとりでやっていけるのか?
いや、ここは出る。
長持に入っているのって着替えだけかな。オレの持ち物ってあるの? 財産も何も持っていないとか。
それって悲惨過ぎる……。
一度死んで、転生させて貰った身では何も文句は言えないが。
オレの【収納庫】って、何か入っているんだろうか。
男はまだベッドの横に立っている。邪魔だな。
「何か用?」
「あなたは誰ですか?」
「お前こそ誰?」
男と睨み合った。
男はオレより背が高くて体も大きい。薄青の瞳が眇められて低い声で言う。
「エルヴェ様はオレなんて言いません。神官もそんな言葉は使いません」
溜め息しか出ない。言葉の訂正が先で、オレの腹具合はどうでもいいらしい。
「オレはお腹が空いてふらふらで気分が悪いんだよ。お前、オレのことどうにかしたいなら、先に何とかしてくれる?」
男は溜め息を吐いて部屋を出て行った。こっちの方が溜め息をつきたいんだが、男が大きくて、武装しているからよく考えれば不味いかもしれない。言葉こそは丁寧だが。
男はすぐに戻って来た。手に食事の入ったトレーを持っている。机の上に乗せて「どうぞ」と無表情で言う。
「ありがとう」
不味そうなパンと薄そうなスープだが文句はない。オレは感謝して暖かいスープを平らげた。
「よし、さっそく聞こうか。その前に座ったら? ベッドが嫌ならオレがベッドに行くけど」
男は食事の間、後ろに立っていたようだが、嫌そうに首を横に振る。
「そう、じゃいいか。お前の名前は? オレとどういう関係?」
男は何とも言えない顔で睨んだが答えてくれた。
「私の名はユベール。平民でアベルジェルの出身です。それであなたの護衛につけられました」
「アベルジェルって……」
「あなたの父上のアベルジェル伯爵の領地です」
エルヴェって貴族の息子だったのか。それにしてもこの冷待遇。ステータス画面全部をチェックしとけばよかったな。ちょっと机の方を向いてチェック。
《エルヴェはアベルジェル伯爵の庶子。4男。聖属性魔法の素質があった為、神殿に預けられる。アベルジェル伯爵は宮中伯、領地にて諸侯を監視する》
ざっとした説明だな。ここまでの冷たい対応を見るに、属性魔法があったから親に引き取られた口だろうか、アベルジェル伯爵も吝嗇なのかもな。
「オレに才能が無くて残念だったな」
「別に」
「そうか、残念だったのは父親か」
親はいらない、神殿もいらない。ひとり立ちするのに最適だが、この世界って十五歳の少年に優しい世界かな? ヴィラーニ王国をチェック。
《政情不安、国境不穏。隣国ジンスハイム帝国国交小、ハッセルト王国国交無、ビエンヌ公国中立。国境ウロット山脈、ベアサイン森林、エール川》
あまり良さげな国ではないようだ。王都はどうか。
《無法地区、スラム街、貧困地区、下町、夜間、外出危険》
思わずそこに立っている護衛を見上げる。ひとりじゃ無理だ、コレ。
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