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寒くて、寒くて、目が覚めた。
何でこんなに寒いんだ?
ちゃぷん。
起きようとして、手が水に触れる。丸く煉瓦で囲った池があって、奥から水が流れ込んでいる。水辺にいるせいか、着ている薄いくるぶしまである貫頭衣みたいな服がぐっしょり濡れていた。
何でこんなとこに、こんな格好して横たわってんの?
寒いの当り前じゃん。酔っぱらって落ちたんかな? それにしてもこの格好が解せない。とにかく、警察は? 救急車を呼んで? 誰もいないの?
オレは社会人だった。名前は──、思い出せない。仕事は何をしていたか、それも思い出せない。仕事は忙しかったがそこそこ面白かったような。
でも、多分オレは死んだんだ。事故で高速の衝突事故か何かで、あっけない人生だった。
まだ30歳前だったのに、ここで死ぬのかって、ちょっと悔しかったのだけ思い出した──。
それが何でこんな所にいるのか──。
「エルヴェ様」
「へ、誰?」
金茶色の巻き毛の男が傍に来た。鎧っぽいものを着て剣を下げているけど、何のコスプレだろう。薄青い瞳が嫌そうに顰められて、オレの顔を覗き込む。明らかに白人顔の男だが。
大体、何? その表情。様を付けるくらいなら心配しやがれ?
「ダレ?」
エルヴェって誰? おまえ何? ここ何処?
起き上がろうとしてクラッときた。うーん、ちょっと目眩がする。
「エルヴェ様?」
「もういいから、さっさとバスタオルと着替え持ってこい。どっか横になるところに連れて行け。話はそれからだ」
まだぼやぼやしている男にキレてオレは叫んだ。
「はい、それでは失礼します」
「ふえっ?」
間抜けな声は勘弁してほしい。男はいきなりオレを抱き上げて歩きだしたのだ。
お姫様抱っこだとか、コイツ自分が濡れるのにとか、成人男子を軽々ととか思ったけれど、周りの景色が異様で口を開いたまま固まった。
どこかヨーロッパ風の柱が沢山ある神殿らしき場所だ。少し小高い場所にいて、辺りは木々が生い茂っている。男はオレを抱えたままぐるりと左に曲がった石段を下りて行く。それで視界が開けた。
木々の間に尖塔のある大きな建物が見えた。近付くと建物には黒っぽい服を着た男達がうろうろしている。金髪、銀髪、茶髪、赤い髪に栗色にグレー。黒髪はほとんどいない。皆、彫りの深い顔立ちだ。オレを抱えている男のように武装した人間もいる。
彼らはオレをチラリと見ると、男に会釈して通り過ぎて行く。男はそのまま建物の中に入った。
建物は幾つかのブロックに分かれていて、中庭と回廊で繋がれている。端の回廊を行くと、頭に冠を被り立派な衣装を着た男が、大勢の男を従えて歩いていた。黒い服を着た者たちは立ち止まって端に寄り頭を下げている。
オレ達に目を留め、歩いている向きはそのままに立ち止まって聞いた。
「おや、エルヴェ。どうしました」
こいつ誰? 偉そうな男だな。オレを抱えた男も端に寄って頭を下げている。
「エルヴェ様は水場でお倒れになって惑乱しておられます」
「そうか」
忙しそうな男は周りの者に促されて、そのまま行ってしまった。
心配そうな様子は欠片もない。まるでゴミでも見るような目付きだった。
「なあ、エルヴェって誰?」
「あなたですが?」
金茶色の髪の男は迷惑そうな顔をして答える。
外国人っぽい顔の男がみんな日本語を話すなんておかしい。これはやはりアレだろうか、巷で流行りの異世界転生とか転移とかいう──。
オレ死んだから転生なのかな。それにしても、この世界に生まれてからの記憶がないが。
男は神殿の横の通路を奥に行き、ドアの並んだ中からひとつの小さな部屋に入った。簡素なベッドと長持のような箱と粗末な椅子と机だけの小さな石造りの部屋だ。天井の方に小さな明り取りの小窓がひとつで薄暗い。
ベッドの横に下ろされた。
部屋を見回して「暗いな」と呟く。
『ライト』
いきなり男の指先からボウと丸い火が出て部屋が明るくなった。
「およっ!」
魔法か? 魔法なのか?
「はくしゅん!」
まだ濡れたままだった。寒けがしてブルッと震えると、男が手のひらをオレに向けて言った。
『クリーン』
ドライヤーみたいに暖かい風が来て、あっという間に服が乾いた。男は何も持っていないし今のは魔法のようだ。どうしてあの水場でコレをしてくれないんだ。
なんかもう驚き過ぎて疲れた。ひとりになって現状を考えたい。
「オレ寝るわ。明かり、もういい」
「では、失礼します」
男は無表情で明かりを消して出て行った。
なんだ、ここは。倒れてもほっちらかしで誰も心配しない。
頭痛と襲い来る寒気に耐えかねて、オレはベッドに横になった。
「ここは何処だ、オレは何だ、どうしてこんな所にいる?」
ベッドの中でブツブツと呟いていたら、目の前に文字列が浮かび上がった。
名前 エルヴェ・アベルジェル
種族 人間 15歳
状態 風邪気味
職業 神官見習い Lv10
スキル 聖魔法 Lv10 ヒール キュア
ユニークスキル 【異世界言語解読】【収納庫】
称号 【転生者】【神子】
現在地 サン=シモン神殿 ヴィラーニ王国王都パルトネ
「な、なんだこれは!」
思わず叫んでしまったが、こういう文字列には馴染みがある。ゲームのステータス画面に似ている。
「これはオレのステータスか?」
何でこんなに寒いんだ?
ちゃぷん。
起きようとして、手が水に触れる。丸く煉瓦で囲った池があって、奥から水が流れ込んでいる。水辺にいるせいか、着ている薄いくるぶしまである貫頭衣みたいな服がぐっしょり濡れていた。
何でこんなとこに、こんな格好して横たわってんの?
寒いの当り前じゃん。酔っぱらって落ちたんかな? それにしてもこの格好が解せない。とにかく、警察は? 救急車を呼んで? 誰もいないの?
オレは社会人だった。名前は──、思い出せない。仕事は何をしていたか、それも思い出せない。仕事は忙しかったがそこそこ面白かったような。
でも、多分オレは死んだんだ。事故で高速の衝突事故か何かで、あっけない人生だった。
まだ30歳前だったのに、ここで死ぬのかって、ちょっと悔しかったのだけ思い出した──。
それが何でこんな所にいるのか──。
「エルヴェ様」
「へ、誰?」
金茶色の巻き毛の男が傍に来た。鎧っぽいものを着て剣を下げているけど、何のコスプレだろう。薄青い瞳が嫌そうに顰められて、オレの顔を覗き込む。明らかに白人顔の男だが。
大体、何? その表情。様を付けるくらいなら心配しやがれ?
「ダレ?」
エルヴェって誰? おまえ何? ここ何処?
起き上がろうとしてクラッときた。うーん、ちょっと目眩がする。
「エルヴェ様?」
「もういいから、さっさとバスタオルと着替え持ってこい。どっか横になるところに連れて行け。話はそれからだ」
まだぼやぼやしている男にキレてオレは叫んだ。
「はい、それでは失礼します」
「ふえっ?」
間抜けな声は勘弁してほしい。男はいきなりオレを抱き上げて歩きだしたのだ。
お姫様抱っこだとか、コイツ自分が濡れるのにとか、成人男子を軽々ととか思ったけれど、周りの景色が異様で口を開いたまま固まった。
どこかヨーロッパ風の柱が沢山ある神殿らしき場所だ。少し小高い場所にいて、辺りは木々が生い茂っている。男はオレを抱えたままぐるりと左に曲がった石段を下りて行く。それで視界が開けた。
木々の間に尖塔のある大きな建物が見えた。近付くと建物には黒っぽい服を着た男達がうろうろしている。金髪、銀髪、茶髪、赤い髪に栗色にグレー。黒髪はほとんどいない。皆、彫りの深い顔立ちだ。オレを抱えている男のように武装した人間もいる。
彼らはオレをチラリと見ると、男に会釈して通り過ぎて行く。男はそのまま建物の中に入った。
建物は幾つかのブロックに分かれていて、中庭と回廊で繋がれている。端の回廊を行くと、頭に冠を被り立派な衣装を着た男が、大勢の男を従えて歩いていた。黒い服を着た者たちは立ち止まって端に寄り頭を下げている。
オレ達に目を留め、歩いている向きはそのままに立ち止まって聞いた。
「おや、エルヴェ。どうしました」
こいつ誰? 偉そうな男だな。オレを抱えた男も端に寄って頭を下げている。
「エルヴェ様は水場でお倒れになって惑乱しておられます」
「そうか」
忙しそうな男は周りの者に促されて、そのまま行ってしまった。
心配そうな様子は欠片もない。まるでゴミでも見るような目付きだった。
「なあ、エルヴェって誰?」
「あなたですが?」
金茶色の髪の男は迷惑そうな顔をして答える。
外国人っぽい顔の男がみんな日本語を話すなんておかしい。これはやはりアレだろうか、巷で流行りの異世界転生とか転移とかいう──。
オレ死んだから転生なのかな。それにしても、この世界に生まれてからの記憶がないが。
男は神殿の横の通路を奥に行き、ドアの並んだ中からひとつの小さな部屋に入った。簡素なベッドと長持のような箱と粗末な椅子と机だけの小さな石造りの部屋だ。天井の方に小さな明り取りの小窓がひとつで薄暗い。
ベッドの横に下ろされた。
部屋を見回して「暗いな」と呟く。
『ライト』
いきなり男の指先からボウと丸い火が出て部屋が明るくなった。
「およっ!」
魔法か? 魔法なのか?
「はくしゅん!」
まだ濡れたままだった。寒けがしてブルッと震えると、男が手のひらをオレに向けて言った。
『クリーン』
ドライヤーみたいに暖かい風が来て、あっという間に服が乾いた。男は何も持っていないし今のは魔法のようだ。どうしてあの水場でコレをしてくれないんだ。
なんかもう驚き過ぎて疲れた。ひとりになって現状を考えたい。
「オレ寝るわ。明かり、もういい」
「では、失礼します」
男は無表情で明かりを消して出て行った。
なんだ、ここは。倒れてもほっちらかしで誰も心配しない。
頭痛と襲い来る寒気に耐えかねて、オレはベッドに横になった。
「ここは何処だ、オレは何だ、どうしてこんな所にいる?」
ベッドの中でブツブツと呟いていたら、目の前に文字列が浮かび上がった。
名前 エルヴェ・アベルジェル
種族 人間 15歳
状態 風邪気味
職業 神官見習い Lv10
スキル 聖魔法 Lv10 ヒール キュア
ユニークスキル 【異世界言語解読】【収納庫】
称号 【転生者】【神子】
現在地 サン=シモン神殿 ヴィラーニ王国王都パルトネ
「な、なんだこれは!」
思わず叫んでしまったが、こういう文字列には馴染みがある。ゲームのステータス画面に似ている。
「これはオレのステータスか?」
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