12 / 18
12 迎えに来た男
しおりを挟む不審な顔をして私を見る黒髪イケメン。エルダー様程じゃないけど。
「その、今のは?」
「私の魔法です」
「ステラ嬢は魔法が出来ないと聞いていたが」
「自然魔法なら出来るの」
「自然魔法?」
自然現象を引き起こす。自然に呼びかけて助けてもらう。この地上の自然現象を自分に有利に利用することが出来る。
「という魔法らしいけど、まだ勉強中でよく分からないわ」
「そうか、希少魔法なのだろう。迷惑をかけたようだな、申し訳なかった」
律儀に謝罪する男は公爵家で見た。その前にも見たような、領地で、この顔がいたような。
クルクルの黒い髪で、暗い目で、少し拗ねた顔をしていた。だから私は引っ張り回した。
「あなた、誰? もしかして、ダリル……?」
「そうだ。俺はギルモア公爵にステラ様を連れ戻すように命じられた、ダリル・ブルーデネルだ」
お父様が私を──?
お父様は私を捨ててメラニーを取ったのではなかったのか。私を蔑ろにしたとか、ひどい扱いをしたとかいう事はなかったが、彼はいつも忙しくて普通に話も相談もしたことが無かった。別に嫌いとか、そんなことはなくて、そんなものだと思っていた。
お忙しいけれど私は何不自由したことはなくて、まるでエルダー様みたいだわ。私、ファザコンだったのかしら。
「ええと、確か二番目のお兄様の?」
「ああ、彼とは異父兄弟になる」
「じゃあ、私とも兄妹よね」
「まあ、改めて言う程、濃い繋がりがある訳じゃないが」
「血は繋がっていないわねえ」
彼は父の二番目の奥様の連れっ子だと聞いた事がある。
「昔のステラは、そんな髪で瞳の色だったな」
彼は少し眩しそうに目を細めた。
「元気に水辺を走っていた」
お母様は分け隔てなく三人の兄と私を領地に連れて行った。公爵家を継ぐのは私。彼らは私を補佐し助けてくれる存在だとお母様は言ってらっしゃったけれど、私は捨てられたし、どうなるのかしらね。
「ヘレスコット王国に帰るのなら護衛するが──」
「ダリル義兄様ひとりで?」
「ああ、俺は無事に森に着き、ステラ嬢を無事に見つけ出し、無事にヘレスコット王国の、公爵の許まで連れ帰るよう命じられた」
『無事に』を三回も言うの?
「だが先程の奴らは俺の手に余る。ステラ嬢の命の保証は出来ない」
「どういう事かしら」
「新手がいた。奴らはこの国の者とは違う」
そして私の前に片膝をつき胸に手を当てて誓いの言葉を言うのだ。
「俺は、ここから先は、ステラ嬢の護衛として側に仕え、盾となって守る」
うわっ、いきなりどうしたんだ──。
「このまま、ステラ嬢を連れて森を出て、奴らを相手に無事に王都に行けるとは思えんのだ」
「帰らなくてもいいの?」
「この任務に期限は付けられていないから、死んでいなければその内どうにかなるかもしれん」
つまり安全策を取るために、王国の公爵の許まで帰るのを後回しにするって事かしら。私にしたら帰りたいとか思っていないし、無事な方がいい。
根暗な男は暗い瞳のままで私を見る。この男が言うと、なるようになるという話もお先真っ暗に聞こえるのよ。変だわね。
「お嬢様、小屋に戻られてはいかがでしょうか」
側に控えていたアンが話の切れ目で提案した。
「そうね、その前にここをお掃除しておかないと、洗い流すわね」
「はーい」
小屋の結界から外れた戦闘場所は、樹木も葉っぱも地面も赤黒く染まっているが死体は見当たらない。風で一緒に飛ばしたんだろうか。
「雨よ降れ降れー、ここらを綺麗に流してー」
「風よ吹け吹けー、汚れを払ってー」
ダリルはそのまま血で汚れた場所に立って雨を受け、風を受けている。
「ちょっと、濡れるでしょ」
ステラの魔法を避けもせず、びちょびちょに濡れて、風に吹かれている。変わった奴である。まあ根暗で変わり者だった。
その時、私の魔法と違うヒュンという音がした。
「おや、お客さんかい」
エルダー様が来たのだ。後ろにコケちゃんが控えている。
「親の目を盗んで逢引きとはいけない子だ」
えっ、誤解されてる。
「あ、違いますよ。義兄のダリルです。私の護衛になるそうなの」
「ふうん?」
エルダー様は用心深く義兄を見ながら、私を腕の中に庇う。
(うわああぁぁーー! この体勢、嬉し過ぎる!)
義兄の目付きの悪い顔が余計に悪くなった。
「何だ、そいつは!?」
「私を助けて下さったエルダー様よ」
神の腕の中で嬉しそうな私。義兄は神を睨みつけ、神はふふんと笑っている。そんなお顔は神には似つかわしくないと思うし、義兄は私の子分だから苛めないで欲しいと思うの。
私の義兄は一緒に洗ったので少し綺麗になったが、お風呂に入って貰った方がいいか。いや、その前に怪我を治さなきゃ。平然としているからすっかり忘れていた。
「あれ? 怪我は?」
確か腕を斬られていたよね。
「軽い怪我だ。もう治った」
「えー?」
「俺は魔族だからな」
「へ? そうなの?」
何と義兄は魔族だという。魔族は怪我の治りが早いのか。
この森に来てからステラには、エルフのパパと獣人の召使と魔族で義兄の護衛が出来てしまった。なかなかバラエティー豊かで楽しいと思ってしまうステラは、何処に向かって行くのか。
73
お気に入りに追加
733
あなたにおすすめの小説

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。
まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」
そう、第二王子に言われました。
そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…!
でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!?
☆★☆★
全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。

宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~
よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。
しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。
なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。
そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。
この機会を逃す手はない!
ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。
よくある断罪劇からの反撃です。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~
銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。
少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。
ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。
陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。
その結果――?

ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後
オレンジ方解石
ファンタジー
異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。
ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。

私、パーティー追放されちゃいました
菜花
ファンタジー
異世界にふとしたはずみで来てしまった少女。幸いにもチート能力があったのでそれを頼りに拾ってもらった人達と働いていたら……。「調子に乗りやがって。お前といるの苦痛なんだよ」 カクヨムにも同じ話があります。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる