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53 最終話その2
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私は猛勉強をして無事学校の卒業資格を習得した。それでヴィリ様とアルンシュタット王国で結婚式を挙げ、皇都ヴィエナでも結婚式を挙げた。
皇帝陛下にもご臨席を賜り祝福を受けた。
その後、夏の離宮で盛大なお祝いのパーティが開かれた。晩餐会があって舞踏会があって夜通し賑やかに煌びやかに祝宴が続けられた。
やっと三日後に解放されて、いつもの離宮で綺麗に磨かれて、薄い夜着一枚で真ん中の夫婦の寝室に放り込まれた。
この部屋には入ったことがなかった。真ん中に人が何人も寝れる様な大きなベッドがデンと置いてある。薄物のカーテンが幾重にも上から下げられてベッド周りを半分隠している。
部屋の灯りは薄暗く、かといって調度が見えない程ではない。
ベッドの手前にテーブルと椅子とカウチが置いてある。テーブルの上に燭台が置かれ、フルーツやら干菓子やら焼き菓子が綺麗に盛られた器が幾つも並べられて、グラスが二つと、ワインクーラーにボトルが何本か入れてあった。
ベッド側のカウチソファに座る。胸の下にリボンのある薄々の夜着を引き延ばしつつドアをじっと見たが誰も入ってくる様子はない。
実はこれからが初夜の筈なのだ。結婚式は二回もあったし宴会もあったしでまっとうな初夜がいつになるのか分からないという何とも情けない状態なのだ。
ヴィリ様ときちんと話をするのも嬉し恥ずかしなわけで、忙しいのも相まってドタバタする内に今夜が来てしまった。
しかし、夜は深々と更けてゆくが誰も来ない。どうしよう。
目の前にフルーツとかお菓子がある。こういうものは待ちぼうけをさせられる花嫁の為にあるのだろうか。丁度お腹も空いたし。
私はひとりでささやかな宴会を開いたのだ。
ボンッ!
「エマ?」
「ここ何処にゃ」
私はワインに酔っぱらった据わった目で周りを見回した。お酒に強くないので限界値は低くて、さすがにボトル二本空けると酔っぱらう。
目の前のヴィリ様はシャツにズボンのラフな姿で、周りにいるいつもの連中もラフな姿で折り重なっている。
折り重なっているのは彼らだけでなく、酒瓶がそこらに転がり、周りに侍女やら女官やら宮廷婦人らが流行りの薄着のドレス姿でひっくり返っている。私の初夜の夜着とどっちが薄いかってくらいだ。
「これは何なのにゃ」
目の据わった私の限界まで低い声にヴィリ様が慌てる。
「違うんだ──」
ヴィリ様の口からその言葉は聞きたくなかった。
私は思いっきり超特大の怒りを込めて叫んだ。
「みんな死んじゃえーーーーーー!!!!!」
◇◇
「エマ様……、エマお嬢様」
「ううん、死んじゃ……え?……」
目が覚めるとハルデンベルク侯爵家のいつもの自分の部屋だった。
起こしに来たカチヤが心配そうに覗き込んでいる。
「大丈夫でございますか、随分うなされておいででしたが」
「夢を見ていたみたい」
はー、夢だったのかー。
「今日は大公殿下がおいでになって、お式の打ち合わせがございますので」
「そうね」
ヴィリ様は一足先に領地となったフロレンツにいらっしゃったけれど、私も一緒に行きたかったので、猛勉強して五年生で貴族学校の卒業資格を取ったのだ。
今週がアルンシュタット王国王都での結婚式で、来月が皇都ヴィエナでの結婚式である。予定が立て込んでいるのはガリアがまだ落ち着いていないからだ。
皇都ヴィエナでの結婚式の後、私たちはフロレンツに向かう。
「エマ」
ヴィリ様は白い軍服を着ていらっしゃる。すっかり貫禄がついて立派な大公殿下ぶりである。相変わらず私たちは遠距離でお会いするのは久しぶりだ。
「元気だったか」
「はい。ヴィリ様も」
ヴィリ様はそっと私の手を取って囁くように聞く。
「その、式が終わったら、こちらの『エマの小さな隠れ家』でハネムーンを過ごそうと思うのだが、いいかい」
「もちろんですわ」
ああ、やっと私の白い結婚は終わるのね。私が嬉しそうに頷いたのでヴィリ様もホッとしたように笑った。
やっぱり不安だったからあんな夢を見たのかしら。
「どうかしたのか?」
「ちょっと怖い夢を見まして」
「そうか、これからはずっと一緒だ」
「はい」
終
※読んでいただいてありがとうございました!
感想、ハート、いいね、ありがとうございます。とても励みになりました。
皇帝陛下にもご臨席を賜り祝福を受けた。
その後、夏の離宮で盛大なお祝いのパーティが開かれた。晩餐会があって舞踏会があって夜通し賑やかに煌びやかに祝宴が続けられた。
やっと三日後に解放されて、いつもの離宮で綺麗に磨かれて、薄い夜着一枚で真ん中の夫婦の寝室に放り込まれた。
この部屋には入ったことがなかった。真ん中に人が何人も寝れる様な大きなベッドがデンと置いてある。薄物のカーテンが幾重にも上から下げられてベッド周りを半分隠している。
部屋の灯りは薄暗く、かといって調度が見えない程ではない。
ベッドの手前にテーブルと椅子とカウチが置いてある。テーブルの上に燭台が置かれ、フルーツやら干菓子やら焼き菓子が綺麗に盛られた器が幾つも並べられて、グラスが二つと、ワインクーラーにボトルが何本か入れてあった。
ベッド側のカウチソファに座る。胸の下にリボンのある薄々の夜着を引き延ばしつつドアをじっと見たが誰も入ってくる様子はない。
実はこれからが初夜の筈なのだ。結婚式は二回もあったし宴会もあったしでまっとうな初夜がいつになるのか分からないという何とも情けない状態なのだ。
ヴィリ様ときちんと話をするのも嬉し恥ずかしなわけで、忙しいのも相まってドタバタする内に今夜が来てしまった。
しかし、夜は深々と更けてゆくが誰も来ない。どうしよう。
目の前にフルーツとかお菓子がある。こういうものは待ちぼうけをさせられる花嫁の為にあるのだろうか。丁度お腹も空いたし。
私はひとりでささやかな宴会を開いたのだ。
ボンッ!
「エマ?」
「ここ何処にゃ」
私はワインに酔っぱらった据わった目で周りを見回した。お酒に強くないので限界値は低くて、さすがにボトル二本空けると酔っぱらう。
目の前のヴィリ様はシャツにズボンのラフな姿で、周りにいるいつもの連中もラフな姿で折り重なっている。
折り重なっているのは彼らだけでなく、酒瓶がそこらに転がり、周りに侍女やら女官やら宮廷婦人らが流行りの薄着のドレス姿でひっくり返っている。私の初夜の夜着とどっちが薄いかってくらいだ。
「これは何なのにゃ」
目の据わった私の限界まで低い声にヴィリ様が慌てる。
「違うんだ──」
ヴィリ様の口からその言葉は聞きたくなかった。
私は思いっきり超特大の怒りを込めて叫んだ。
「みんな死んじゃえーーーーーー!!!!!」
◇◇
「エマ様……、エマお嬢様」
「ううん、死んじゃ……え?……」
目が覚めるとハルデンベルク侯爵家のいつもの自分の部屋だった。
起こしに来たカチヤが心配そうに覗き込んでいる。
「大丈夫でございますか、随分うなされておいででしたが」
「夢を見ていたみたい」
はー、夢だったのかー。
「今日は大公殿下がおいでになって、お式の打ち合わせがございますので」
「そうね」
ヴィリ様は一足先に領地となったフロレンツにいらっしゃったけれど、私も一緒に行きたかったので、猛勉強して五年生で貴族学校の卒業資格を取ったのだ。
今週がアルンシュタット王国王都での結婚式で、来月が皇都ヴィエナでの結婚式である。予定が立て込んでいるのはガリアがまだ落ち着いていないからだ。
皇都ヴィエナでの結婚式の後、私たちはフロレンツに向かう。
「エマ」
ヴィリ様は白い軍服を着ていらっしゃる。すっかり貫禄がついて立派な大公殿下ぶりである。相変わらず私たちは遠距離でお会いするのは久しぶりだ。
「元気だったか」
「はい。ヴィリ様も」
ヴィリ様はそっと私の手を取って囁くように聞く。
「その、式が終わったら、こちらの『エマの小さな隠れ家』でハネムーンを過ごそうと思うのだが、いいかい」
「もちろんですわ」
ああ、やっと私の白い結婚は終わるのね。私が嬉しそうに頷いたのでヴィリ様もホッとしたように笑った。
やっぱり不安だったからあんな夢を見たのかしら。
「どうかしたのか?」
「ちょっと怖い夢を見まして」
「そうか、これからはずっと一緒だ」
「はい」
終
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